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第607話 地獄! 賽河原 ツミキのフリーランク戦!①

 プレイヤー達がそろそろ次のイベント告知が来るだろうと運営からの告知を待っているとある日、公式サイトにゲームの更新が告知された。

 次回の大規模イベントはサーバー対抗戦。 相手はインド第二サーバー。


 例によって詳細は不明との事で想定して備える事しかできない。

 それに関しては蓋を開けてみないと分からないというのが大半の意見ではあったが、それ以上に興味深い変更点があった。 


 ――対戦機能のリニューアルだ。


 新しい機能が追加された。 

 これまでは大きく分けて通常対戦とランク戦の二種類で、ユニオン戦も同様だ。

 前者は相手を指定してのフリー対戦で後者は昇格、ランク維持の為のノルマ達成に不可欠である。


 さて、今回追加された機能はその後者に近い形式だ。 

 フリーランク戦。 その名の通り、ランクに関係なく全プレイヤーの中からランダムでマッチングする。

 一応、ランク戦ではあるが、下位ランクのプレイヤーに勝利したとしてもランクポイントは変動しない。


 だが、下位のプレイヤーに敗北した場合、ランク差分の追加ポイントを失い、上位のプレイヤーに勝利した場合、ランク差分のポイントが加算される。

 上位のプレイヤーであればあるほどにリスクが高まるが上位ランクのプレイヤーは比較的、安全に週間戦闘数のノルマを達成する事が可能となるので、喜ぶ者は多かった。


 そんな更新を見て彼女もこれはネタになると早速食いついたのだ。


 「みーんなー! こーんにーちはー! コツコツ積み上げていく賽の河原系アイドル『賽河原さいかわら ツミキ』でっす。 よろしくね☆」


 バーチャルアイドル(自称)賽河原 ツミキは配信ソフトを立ち上げ、早速いつもの配信を開始した。


 『こーんにーちはー!』『こんにちはー』『キタ――(゜∀゜)――!!』『うえーい』

 『実装したばかりのフリーランク戦に突っ込むってマジっすか?』

 『また負けそう』『がんばえー』『雑魚なんだから普通のランク戦やりなよ……』

 『失望しました。 ファン辞めます』『ところでナインヘッド・ドラゴンは扱えそうっすか?』


 何だかんだとリスナーは徐々に増えて行っており、手応えを感じていた。


 「はいこんにちはー。 そうだよー、今日はガチでフリーランク戦やるから楽しみにしててね☆ ナインヘッド・ドラゴン? 知らない子ですね……」


 『草』『草』『草』『修行……ノーコン……う、頭が……』『何があった?』

 『この間の深夜に修行配信って事で使えるように振り回したんだけど、止まってる的にすら碌に当てられなくて普通に刀として振り回した方がいいって結論になった』

 『結局、ゴミだったって事じゃねーかwwww』

 『使いこなせりゃ大したものだがツミキには無理だったって話だろ?』

 『納得の★1.1で大草原でしたよ』『じゃああのふわわって奴は何だったんだよ』

 『失望しました。 ファン辞めます』『まぁ、身の丈に合った装備を使いなって事だよ』


 「さてと、じゃあ早速、行っくねー☆」


 『わくわく』『がんばえー』

 『誰と当たるかなぁ』『ランカーとかだったら美味しいな』

 『ぶっちゃけ、ツミキって雑魚だから格下じゃないとまず勝てねーだろ』

 『お、名人様かな?』『まぁ、ぶっちゃけツミキたん、あんまり上手くないからな』

 『格闘:ゴミ、射撃:微妙、ポジショニング:カスじゃん』

 『割と的確で草』『少なくともポジショニング微妙なのはHランクの俺でも分かる』


 マッチング成立。 対戦相手が表示される。 ランクはD。

 プレイヤーネーム『グロウモス』


 『あーDか』『駄目そう』『また「星座盤」wwwww』

 『引き強いなw』『こいつも「星座盤」かよ』『Dだから前の二人より強いだろうし無理じゃね?』

 『どっちも瞬殺だったからなww』『20秒ぐらいは保たせろよー』『瞬殺かな?』


 「げ!? またかぁ。 よーし、まずは動き回って――」


 試合が開始されツミキは機体を加速させ――胴体に風穴が開き機体が爆散した。


 『wwwwwwww』『まじで瞬殺されてて草』

 『爆発込みで6秒。 実質3秒ぐらいか』『すげぇな。 始まった瞬間に捕捉して撃ち込んだのか?』

 『ツミキが雑魚なのを差し引いてもとんでもねぇ狙撃精度だな』

 『いや、アレ躱せる奴そう居ないだろ』『少なくとも俺には無理だ』


 ツミキは何が起こったのか理解できていないのかぽかんとした様子で固まっていた。


 『フリーズしてるwww』『こいつ何が起こったのか理解してないぞwww』

 『おーい、帰って来ーい』『失望しました。 ファン辞めます』

 『こいついっつも負けてんな』『いつになったら勝てるの???』


 十数秒ほど固まっていたが、やっと理解が追い付いたツミキが再起動する。


 『あ、あはー☆ やられちゃった! よし、切り替えて次行こう!』


 マッチング中と表示され、対戦相手が決まった。

 相手のランクは――A。 プレイヤーネーム『ポンポン』


 『お、「星座盤」じゃなくなった』『ってか今度は「豹変」じゃん。 ガチで大手だぞ』

 『「豹変」のメスガキ来たー』『メスガキで草』『ランカー様じゃん。 終わったな』

 『ランカーって結構な額貰えるんだろ? いいご身分だよなー』

 『報酬美味しいのは確かだけど維持するのしんどいぞ。 まぁ、今回のアプデでかなり楽になりそうだけどな』


 「よ、よーし、行っくぞー☆」


 試合開始。 フィールドは草原なので遮蔽物がない。

 ツミキは警戒してシールドを構えて防御姿勢を取りつつ急上昇。


 『お、今回は初手で沈まなかったな』『いや、明らかに相手、様子見てるだろ』

 『上を取るのは定石だけど通用すんのか??』『てか動かねぇな』

 『お、ツミキ仕掛けに行った』


 「えーい!」


 持っていた突撃銃を連射。 ポンポンは余裕を持って躱し、持っていたライフルで応射する。

 ツミキは咄嗟に盾で防ぐが足を消し飛ばされた。 


 「え~、配信者さん。 こんなのも躱せねーのかよぉ」


 『お、急に煽り出したぞ』『面白くなってきたな』

 『ツミキたんがんばえー』『おいおい、これもしかして嬲り殺しパターンじゃないか?』


 「配信って取れ高ってのがあるんだよナ?」

 「そ、そうだね。 ツミキ、精一杯頑張るよ☆」


 それを聞いてポンポンは低く笑う。


 「そっかそっかー。 なら頑張って盛り上げてやらねーとナ?」


 ポンポンの言葉に非常に嫌な予感を覚えたが、ランカーとの戦闘は配信的に美味しい。

 引き延ばして閲覧を稼ぐぞと気合を入れると機体を加速させた。 

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