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第632話 防衛戦(復刻)㉔

 敵機は入れ替えている暇はないと判断したのか砲を突き出す。

 それを下から盾で受けて跳ね上げる。 発射。

 熱で盾の表面が焼けるの感じながらポンポンは拳銃をバースト射撃。


 碌に狙わずに発射した事もあって二発は装甲に食い込むだけに終わったが残りの一発はふわわとユウヤの刻んだ傷に深々と食い込んだ。 

 エネルギー流動に大きな乱れ。 明らかに効いている。


 このまま畳みかけると連射しようとしたが、拳銃の銃身を掴まれた。

 だからどうしたと引き金を引くが弾が出ない。 

 何でだと拳銃を見ると銃身が熱で溶けて機能しなくなっていた。


 拳銃を破壊した敵機は無言ですっと手の平を向ける。 

 放熱板を思わせる細かなパターンが刻まれたその隙間から熱の光が赤々と灯っていた。

 携行武器を手放さなかったのはこれを隠す為か。 


 「――このっ――」


 してやられた事に焦りもあって頭に血が上り、感情を吐き出すべく何か言いかけたが敵機の攻撃が成立する方が早かった。 

 掌から至近距離で放たれた熱線がポンポンの上半身をコックピットごと焼き尽くす。

 彼女の言葉は形にならずに機体ごと爆散した。



 ――やべぇ。


 ヴルトムはそんな感想しか抱けなかった。

 雑魚エネミーの出現は止まり、代わりのあの化け物みたいに強い敵が現れたのだが、今の彼にはとにかく強いとしか形容できなかった。


 その証拠にAランクプレイヤーが次々と撃破されていく。

 つい今しがたポンポンがやられたところだった。 元々、ヴルトム達は連携に組み込むのは難しいとの事で後方からの火力支援で敵の繰り出すドローンの処理と牽制が主な役割となっている。


 だが、敵が戦闘スタイルを変更した事により手を出せずにいたのだ。

 結果、遠巻きに見ている事しかできない状態だ。 

 ポンポンとヨシナリが欠けた事で指揮はタヂカラオが執る形になり、フォーメーションの組み直しが行われていた。


 タヂカラオが牽制の為にエネルギーリングをばら撒いて拘束に専念。

 そんな意図が見える挙動だったが、戦線は崩壊寸前なのはヴルトムから見ても明らかだ。


 ――だが、手前で踏みとどまれている。


 それはベリアルの活躍が大きいだろう。 

 転移、分身、まさに変幻自在の攻めで敵機に喰らいついていく。 

 だが、人数が減っているという現実を覆す事は難しい。 


 敵機は損傷こそ負ってはいるが攻撃能力自体は健在だ。 

 見てられないと判断したのかヴルトムの指示を無視したユニオンメンバーが飛び出して行っては碌に何もできないまま撃墜されていく。

 援護に徹する形でプラズマキャノンで範囲攻撃を繰り返していたまんまるだったが、敵機はそろそろ目障りになって来たと言わんばかりに砲撃に合わせて高出力のレーザーを放つと彼女の放ったプラズマ弾にごと貫いた。


 一機、また一機と減っていき、気が付けば前線はタヂカラオとベリアルだけになっていた。

 アリスが更に前に出て二人のフォローに入るが、機動性では勝負にならない。

 敵機も余裕がないのか明らかに数を減らしに来ている。 


 後衛も合わせるとまともに動けるのはベリアル、タヂカラオ、アリス、グロウモスの四人だけだ。


 『いや、参ったね。 皆、このまま行くと負けは目に見えている。 黙って待つよりは最後の勝負に出たいと思うけどどうかな?』

 『ふ、よかろう。 貴様の眼が奴のどこまで通用するのか見せて貰おうか』


 この状況でも勝負を投げない彼等にヴルトムは何も言えずに黙って見ている事しかできなかった。



 ――કેટલું અદ્ભુત!なんて素晴らしいんだ


 敵の有力機体はほぼ全滅、勝負は決まったような状態だ。

 それでも諦めないと力を振り絞るプレイヤー達の姿に彼は感動していた。


 偶々手が空いていたのでこの戦闘に参加したのだが、思った以上に楽しくて気持ちが高揚している。

 性能、技量の開きは大きく、単純な数だけでは覆すのは難しいほどだ。


 だが、彼等は連携を密に行う事で不足を補った。 

 そして彼をここまで追い詰めたのだ。 単純な技量や性能だけでは説明がつかない力を感じる。

 日本エリアで特に流行している少年漫画みたいだ。 友情や勇気で実力以上の力を発揮する。


 こうして目の当たりにしてみると何と眩しく美しいのか。 

 ジョゼは馬鹿々々しいと言っていたが、彼女は他人を下げないと生きて行けない哀れな生き物と以前にハンナが言っていたので鵜呑みにしなくてもいいだろう。


 事実、彼は目の前の敵に対して尊敬の念を抱いていた。

 彼らオペレーターに求められるのは個としての完成度だ。

 だから、誰も彼も様々な適性はあれど戦力としては単独で完結している。


 ――最後に信じるべきは自分自身と彼等が崇める「■」だけだ。


 少なくとも彼はそう教えられ、全てを教えてくれた「■」はそう言っている。

 存在意義は戦う事、その為に生まれて来た彼と彼の仲間達の生では戦いだけが自由だった。

 だから、彼は戦士として自分とは違った力を振るう目の前のプレイヤー達を尊敬する。


 そして全力で叩き潰す事が礼儀である事は分かっているが、武装と性能に制限がかかっている状態ではこれ以上の力を出す事が出来ない。 それだけが申し訳なく、心残りだった。

 彼の戦い自由もそろそろ終わりだ。 この楽しい時間が終わる事が名残惜しいが終わらせよう。


 何かあるのならそれを見せてくれ。 自分はそれすらも越えて見せよう。 


 ――|હવે, ચાલો આનો ઉકેલ લાવીએ.《さぁ、決着を付けよう》


 残っているのは四機。 一機はエーテルリアクター装備の短距離転移を用いた軽量機。

 現状で一番厄介なのはこれだ。 扱いの難しいあの装置を使いこなしているだけあって強い。


 二機目は重力制御に特化した機体。 火力ではなく特性を活かした行動阻害が最大の強みだ。

 周りに指示を出しているのもこの機体だろう。 視野の広さが窺える。


 三機目は遠距離でのレーザー攻撃が主体の機体だと思ったが、中距離戦仕様に切り替えて前に出て来た。 

 ホバリングと複数ジェネレーターによる高出力を上手に使っている。 

 最後の一機は量産機だが、狙撃と火力支援に特化した思い切りのいい機体。


 常に致命の一撃を狙う事で圧をかけて来る気の抜けない相手だ。

 近距離一機、中距離二機、遠距離一機とバランスのいい構成だが、これだけ減った状態でどう自分を突破して来るのだろうか?


 真っ先に動いたのはエーテルリアクター装備の機体――ベリアルだ。

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