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第633話 防衛戦(復刻)㉕

 彼の動きはとにかく素晴らしい。 

 常に相手の視界を意識し、死角へと回り込み、エーテルリアクターによって形成された手足を振るう。

 至近距離では大型の爪、僅かに離れればブレード。 基本は爪で手数を増やして相手の処理速度を見極める。


 その後、仕留められると判断する、または相手の回避を誘導したい場合はブレードの使用頻度が上がる。

 短距離転移の使用頻度は見た目ほど高くない。 

 ジェネレーターの負担を嫌ってというのもあるだろうが、性能に頼らずに自力で乗り越えようというこだわりを感じる。


 プレイヤーの戦闘に対する意識――矜持と言い換えていいそれは極めて高い。

 妥協を許さず、常に自己を高め、スタイルを更新し続ける貪欲さも素晴らしい。

 加えて周りも見えている。 ブレードを振るって後退を促し、距離を取った所で後方からの援護が飛ぶ。


 周りも見えている。 味方の動きを視界の端に捉え、援護を要求する挙動も良い。

 積極的に指示は出さない事から指揮官としての適正は低いが、他者に対して合わせる協調性は持ち合わせている。 

 Aランクプレイヤーとしては珍しい傾向だ。 


 ここまで単体で完結している機体は全てを独力で乗り越えて来た強者の証といえる。

 少なくとも目の前のプレイヤーはあの機体を得るまではそうだったはずだ。

 単体でも機能する上、集団に混ざってもパフォーマンスが落ちない。


 間違いなくSを狙える器だ。 

 それ以上は現状、判断が難しい所ではあるが、Aは間違いなく超えられる。

 日本はラーガストというオーバーSランクの例外を除けば後進サーバーとしてあまりいい評価はされていないが、こうして強者としての片鱗を見せるプレイヤーが育っているのは素直に嬉しかった。


 僅かに下がるとレーザーによる狙撃とエネルギー弾の連射が薙ぐ。 

 後方からの狙撃と中距離からの銃撃だ。 前者はグロウモス、後者はアリス。

 前者に関しては狙撃手としては完成の域に達しているが、それ以外の立ち回りに関してはやや課題が残る印象を受ける。 


 後者は武装を切り替える事で中~後衛を切り替える柔軟さとバランスの良さは強みではあるが、集団戦にあまり慣れていないのか周囲の動きを見てから判断しているので挙動に若干の硬さがあった。

 つまり、起点となる味方の行動が発生する瞬間に隙を晒す事になる。 


 ――こんな風に。


 ベリアルが転移で死角に回ったと同時に精製したハンドキャノンを発砲。

 装填されていた炸裂徹甲弾はアリスの意識の間隙を突いて直撃。 

 コックピットが消し飛び、そのまま脱落となった。 


 集団戦と個人戦に対する意識の温度差が激しい。 そこをどうにかできればもっと伸びるだろう。

 四人目。 タヂカラオ。

 拘束を狙いつつも攻撃ができる便利な武装を扱う器用なプレイヤーといった印象。


 積極的に攻撃行動を行うが、撃破ではなく拘束を狙う事に傾いているのは余り良くない。

 狙いが露骨すぎるので行動の先読みが容易だ。 こちらはアリスと違ってサポートに徹しすぎている。

 敵の意識を散らすという点では決して悪くはないが、裏を返せば自分で仕留めに行く気がないと言っているような物だ。 


 狙うのは次にベリアルのフォローに入るタイミング。 

 ベリアルの挙動に関してもそろそろ目が慣れて来た。 

 正面から死角へ短距離転移で移動した瞬間が狙うのに最適なタイミングだ。


 来た。 ブレードではなくクロー。 このまま転移で――不意にタヂカラオの動きが変調した。

 援護に回るのではなく突っ込んで来たのだ。 腕にエネルギーランスを形成し刺突。

 これは想定していなかったが、タヂカラオの近接スキルはベリアルに比べて大きく劣る。


 それでは自分を仕留める事は難しい。 意表を突くにしてももう少し工夫が欲しかった。

 そんな事を考えながら引き付けて躱す。 

 意識がタヂカラオに行くのに合わせてベリアルの機体が二機、彼を挟むように出現。


 分身は面白い使い方だが、本体は一つ。 残りはガワだけのハッタリだ。

 両手に拳銃を精製して発射。 左右に居た二機同時に射抜く。

 同時にコックピット部分を撃ち抜いたので躱すのは――手応えがなかった。


 どうやら左右ともに分身のようだ。 なら本体は?

 タヂカラオの後ろだ。 重なるようにして自身の姿を隠した。

 上手い。 ベリアルはそのまま旋回して背後へ。 


 タヂカラオは刺突の動作のまま通り過ぎる。 武器をダガーに切り替えて打ち合う。

 近接戦は余り得意ではなかったが、凌ぐ程度なら問題ない。

 緩急を付けて左右、上下から繰り出される四肢を最大限に利用してのコンビネーション。


 足をブレード状に作り替える事で単純な打撃に収まらない鋭さは防御を困難にする。

 返しの一撃を上半身を回転させて躱し、その動きを後ろ回し蹴りに繋げてきた。

 大きく仰け反って躱す。 視線が一瞬、ベリアルから切れた瞬間、転移で背後に。


 来るのが分かっていれば対処は難しくない。 推進装置を全開にして急旋回。

 逆に背後を取る。 ベリアルは爪を振るった後で次のアクションに入るまで僅かに間があった。

 大きな隙。 これは入ると仕留めに行こうとしたが、背後から反応。


 振り返るとベリアルの機体がもう一機、後ろから突っ込んで来ていた。

 分身? 攻撃したのはこちらのはずだが――

 違和感はあったが向かって来ている以上は対処が必要だ。 拳を固めて殴りかかって来る。


 捻りもない直線的な攻撃。 実に怪しい。

 何か狙いがありそうだが、判断に困る内容だった。 まぁ、いいと躱そうとした所でそれが起こる。

 ベリアルの腕からエネルギーリングが飛び出したのだ。


 ――!?


 流石にこれは想定していなかった。 回避が間に合わずにリングを潜らされる。

 それにより重力異常の影響を受けて推進装置の機能が大きく低下。

 発射と同時にエネルギーリングを放った機体からエーテルの鎧が剥がれ落ちる。


 中から現れたのはタヂカラオの機体。 

 刺突に来た時にベリアルは彼にエーテルの鎧を被せたのだ。

 彼はベリアルの背後を取る為にタヂカラオから完全に意識を切った。 


 それを利用してこの奇襲を成立させたのだ。 だが、まだ負けてはいない。

 挙動は鈍くなったが僅か数秒。 凌いで立て直すのは難しくない。

 そう思っていたが、二人が取った行動は彼の想定を大きく超えていた。


 タヂカラオは背中にしがみついて羽交い締めにし、ベリアルはタックルのように下半身にしがみ付いて拘束しつつ推進装置を鷲掴みにして握り潰す。

 ここに来て彼は二人の狙いに気が付いた。 気が付いた所でもう遅かったが。


 次の瞬間、身動きの取れなくなった彼は遠距離から飛来した高出力のレーザーに撃ち抜かれて蒸発。

 内心でお見事と呟き、脱落となった。

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