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第641話 各々の課題/遭遇戦①

 ――今の俺に足りない物は何だ?


 マルメルはビルの隙間を縫うように加速。 

 ここ最近は速度を落とさずに曲がったりといった訓練をしているが、最低限は形になってきていた。

 技術面ではそこそこの成長を実感できるが、それ以上に敵のインフレが激しい。


 敵機の突撃銃の連射をビルを盾にする事で防ぎながらハンドレールキャノンを展開。

 突撃銃の連射間隔を確認し、リロードに入ったと同時に発射する。

 弾体は盾にしていたビルごと敵機を撃ち抜いた。 


 小さく息を吐く。 命中精度は上がってきている。

 最近は態勢が崩れた状態でも当てられるように精度を高めていたのだが、こちらも一定の成果は出ていた。 

 だが、あの強敵相手にはそれでも足りないと感じてしまう。 


 マルメルは少し焦っていた。 

 ヨシナリもふわわも次のステージに進んでいるのに自分だけ足踏みをしているのではないか?

 聞けばこの間、ふわわがヨシナリと戦って勝ったらしい。 


 機体も大きく変わっており、装備も強化されている。 


 ――俺も負けていられない。


 そう思ってはいるのだが、何処から手を付けていいのかが分からないのだ。

 リザルトを特に確認もせずに次のランク戦に参加。 

 相手はソルジャー+、エネルギーウイング装備の高機動型。


 即座に脳裏で戦い方を組み立てる。 敵機は真っ直ぐに突っ込んで来た。

 恐らくは機動で攪乱して来る。 射程に入ったと同時に旋回に――入る前にアノマリーで移動先に撃ち込むと敵機は想定していなかったのかたたらを踏むように動きを止めた。


 そこで実弾に切り替えて連射。 敵機は即座に回避に入るが、いくつか命中する。 

 推進装置に命中したらしく、明らかに挙動がおかしい。

 敵機は身を晒した状態は不味いと判断して急降下。 


 体勢を立て直そうと狙うが、相手が視界から消えたと同時にハンドレールキャノンをチャージ。

 射撃精度に差があると判断したのかこちらの死角を突こうとビルを盾にして回り込もうとしているが、このマップのビルの配置はほぼ頭に入っている。


 すっと狙いを付けて発射。 弾体は狙いを過たずに敵機をあっさりと射抜く。


 「その辺はビルが詰まってて隙間が細いんだよなぁ……」


 通るルートが制限されると自然と減速してしまう。 そこを一刺しだ。

 試合終了。 リザルト画面が表示される。 

 無視して消そうとしたが、昇格の二文字が現れたので思わず手を止めた。


 いつの間にかCランクに上がっていたようだ。 


 「次でBか」


 小さく呟く。 

 始めた当初であったならこれでPが定期的に貰えるぜラッキーぐらいの感想だったが、今はジェネシスフレーム獲得までどれぐらい稼げばいいだろうとしか考えられない。


 ハンドレールキャノンの扱いに関しては我ながら慣れて来たと思っていた。

 左右での使い分けも形になっている。 右利きという事もあって左はやや精度が落ちるが、そもそも右を外した時の二の矢として使う事が多いので、そこまで大きな問題ではない。


 必要なのは新しい武器だ。 今ある武器を磨くにしても限度があった。

 ヨシナリは時間をかけて長所を伸ばす事の重要性を教えてくれたが、伸びしろがなくなってきた以上は新しい何かに手を出すべきだとマルメルは考えていた。


 その一環としてシニフィエに教えを乞うたのだが、対応力を上げる一助になっただけでマルメルの望む成長には繋がらない。 


 「……そうなるとヨシナリの真似でもしてみるか?」


 果たして自分のコミュ力でそれができるのかは怪しいが、縁だけは繋がっているのだ。

 やるだけはやってみるべきだろう。 

 そう考えてマルメルはメッセージを送る為の作成メニューを呼び出した。



 『こ、こんなのどうすりゃいいんだよ!?』


 一人のプレイヤーの嘆きがフィールドに響き渡り、その一瞬後には機体ごと両断された。

 ふわわは特に何も考えずに無言で次のマッチングを開始。

 考えるのはあの戦いの結果。 惨敗だった。 


 何かを掴み、新しい境地に至った手応えもあったが、まだまだ足りていないと即座に思い知らされる。

 面白い。 このゲームは本当に面白い。 上には上がいる。

 打倒すべき壁、障害が無数に存在するのは彼女にとって歓迎するべき事柄だった。


 新しく得た装備は非常に有用だ。 そして自分はまだこれを使いこなしていない。

 差し当たっては今の装備に慣れる所からだろう。 

 ついでに個人ランクを上げればいいとランク戦に潜っていたのだが、歯応えのある相手が居ない。


 最近、実装されたフリーのランク戦を活用して高ランクプレイヤーとの戦いを期待していたのだが、文字通りのランダムなので格下と当たる事も多かった。

 それでも早い段階でBランク以上のプレイヤーとランク戦ができるのはありがたい。


 歯応えがある上、貰えるポイントも多くランクアップまでの時間も短縮できる。

 何なら次のアップデートの時に同格以上としか当たらないフィルタリング機能でも付けてくれれば尚いいとさえ思っていたぐらいだ。


 強化装甲『ハクサンゴンゲン』のお陰で性能としては大きく向上したが、ソルジャーフレームではここが限界だろう。 

 Aに上がるまではこの機体で戦い抜くしかない。 

 並のランカー相手なら充分に勝てるといった自負はあるが、ベリアルやユウヤのような上位のプレイヤー相手はまだまだ厳しい面も多い。


 その為にもっと力を付けなければならない。 もっと強くならなければならない。

 しばらくゲームから離れ、自らの剣と向き合った結果はこの仮想の世界であっても効果は如実に表れていた。

 相手の殺気のみに頼るな。 もっともっと相手の動きに対する解像度を上げろ。


 そうすれば相手が動く前にその挙動を捉えられるはずだ。 

 試合が始まる。 相手はCランクのキマイラ+。 

 こちらの姿を認め、装備構成から距離を取るべきと判断して開始と同時に急上昇。


 ふわわは特に動揺もせずに野太刀を鞘ごと外して刺突の構え。

 敵機がこちらの状況を確認しようと減速したと同時に解放。 

 彼女の神速の突きは鞘の電磁加速との相乗効果を経てそれ自体を巨大な弾丸と化す。


 バチバチと鋭くスパークする音が響き。 鞘が消えた。

 次の瞬間、敵機は鞘に射抜かれて胴体に文字通りの風穴が開く。

 何が起こったのか分からないといった様子でふわわを見ていた敵機がやがて爆散。


 試合終了となった。 


 「そろそろAランクとバチバチに戦りたいなぁ……」


 リザルト画面を見ながらふわわはそう小さく呟いた。

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