目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第640話 防衛戦(復刻)㉜

 アドルファスも内心では複雑だった。

 何せあっさりと落とされたのだから悔しくない訳がないのだ。

 だが、それ以上に面白かった。 


 大人数でわいわいやりながら作戦を立てて、それが嵌まった時は思わず拳を握ってしまった。

 負けても誰かが繋いでくれる感じも悪くない。 

 少なくとも負けて終わりとならないのは個人戦ではあまり出てこない発想だからだ。


 課題も見えた。 それ以上に楽しめた。

 満足がいななかった面もあるが、総合すると面白かったといった感想が脳裏に浮かぶ。

 だから、アドルファスはやって良かったと心から思っていた。


 その反応に満足したのかカカラは笑みを浮かべながらアドルファスの背をバシバシと叩く。


 「皆はどうだった? 俺はやって良かったと思ってる」

 「野暮な事を聞くな」


 カカラは笑って見せ、モタシラと平八郎は前者は小さく肩を竦め、後者は小さく頷く。


 「俺はヨシナリに世話になったから参加はしたが、今回でより一層個人技の強化を意識させられた。 悪くはなかったと思うが今の俺にはあまり必要とは感じなかった」

 「儂もだのぅ。 自分の事で手一杯じゃ。 もうちっと鍛え直す必要を感じたわい」


 アリスは小さく息を吐く。


 「次は負けたくないから。 私はもう少し頑張るわ」


 それだけ言って踵を返して去って行った。 彼女なりに思う所があったようだ。 

 アドルファスはこの興奮を冷ませるのは少しだけ勿体ないと思った事もあって、残ったメンバーにユニオン戦をやらないかと提案した。



 「――って事があったんですよ」

 「そう、苦労したのね」


 ポンポンはツェツィーリエにさっきの戦闘の詳細を話していた。

 これまで結構な回数あのミッションをクリアしてきたが、あんな化け物が現れるのは知らなかった。


 「それにしても何故、今回に限ってそんな相手が出て来たのかしら?」


 話を聞いてツェツィーリエが思ったのはちょっとした悔しさだ。

 そんな強敵と戦れるのなら自分も参加すればよかったと思っていた。

 あのミッション自体はユニオンの資金稼ぎに定期的に参加していたのだが、もう何度も擦った内容なので正直飽きていた面もあり、今回は参加を見送ったのだが蓋を開ければ面白い事になっていたのだ。


 惜しい事をした内心で歯噛みする。


 「恐らくですけど人数の問題かと。 推奨人数より少ないか、少しオーバーするぐらいの戦力で挑むとあいつが出て来ると思っています」


 普段とは違う要素として最も分かり易いのは人数だったからだ。

 あのミッションは推奨人数は設定されているが参加人数の制限はない。

 極端な話、一万、二万と人数をかける事も可能でいくら増やしても敵の戦力は据え置き。


 加えて、クリア報酬だけでなくエネミーの撃破も報酬に絡んでくるのだ。

 人数をしっかり用意してエネミーの撃破に力を入れた方が簡単に稼げる。

 つまり無理に人数を減らす意味がないのだ。 


 今回はヨシナリの意向で集団戦の予行演習といった側面もあった事もあり、あの人数での挑戦となったのだが予想外の発見があったのはポンポンとしても驚きだった。


 「あの時に出てきたのとまったく同じって事で間違いなかったの?」

 「はい、マジモンの化け物でした」


 個人技に優れた『烏合衆』のメンバーがあっさりとやられるのだ。

 尋常な強さではない。 前の防衛戦に出て来たエネミーも大概だったが、彼女の感覚ではあいつの方が総合力では上だと思っている。


 ――それでもラーガスト程ではないのはどういう事だろうか?


 一人ではまず勝てない。 運営の用意した本物の怪物機体、怪物ユーザーだ。

 だが、あのエネミーとラーガストが戦ったとして負ける姿が想像できなかった。

 いや、どうなってるんだよと思っていたが、それはそれとして得るものの多い戦いではあった。


 「……収穫はあったようね?」

 「はい、圧倒的な格上でも連携が刺されば勝てる。 それを証明できただけでも収穫でした」


 無敵の敵などいないのだ。 勝ち目がない強敵でもやりようによっては撃破は可能。

 それが知れただけでもポンポンはやって良かったと思っていたのだ。


 「今後の課題は?」

 「連携の強化――というよりは相手が誰であっても自分の力を活かす訓練が要ると思いました」


 ユニオン対抗戦なら身内との連携強化に力を入れればいいが、次はサーバー対抗戦だ。

 身内だけでなく、知らない相手であったとしても充分なクオリティを発揮できる柔軟性。

 それがポンポンの今回の戦いで得た学びだった。 


 つまり必要なのは敵味方に対する解像度を上げる事が、今の彼女に最も必要なものだ。


 「楽しそうね?」

 「はい、やられはしましたが手応えは感じてるので」


 ポンポンは楽しそうにそう口にしており、脳裏ではまだまだ自分は強くなれるといった手応えを握りしめていた。



 「――はー、やっぱ機体の強化だよなぁ……」


 ツガルはそう言って大きく肩を落とす。 今回の一戦、非常に不満の残る内容だった。

 あまり活躍できなかったのは彼としては非常によろしくない。


 「どう思うよ?」

 「いや、まぁ、単純に火力不足かと」

 「だよなぁ……」


 フカヤに意見を求めたのだが帰って来た答えは単純明快。

 当初こそ重力制御を利用したトリッキーな機動で攪乱しつつ敵を刺すといった戦い方は上手く機能していたのだが、徐々に火力不足という弱点が浮き彫りになりつつあった。


 「相手からしたら蠅みたいなもので鬱陶しいだけなんだよなぁ……」


 蠅よりは一刺しが脅威と思える蜂になりたい。 

 そうするにはもはや技量の向上だけではどうにもならなかった。

 つまりマシンスペックの強化。 簡単に言えばパワーアップだ。


 具体的には武装の強化。 

 装甲の強化や機体の各所にブレードや衝角を取り付ける強化プランは提案されていたが、予算との兼ね合いで現状保留中なのだ。 


 「とにかく金がねぇ」

 「GならともかくPは簡単に稼げないよ。 どうしてもっていうのならランク戦を頑張るしかないと思う。 それか――」

 「言うな。 それはあんまりやりたくねぇ」


 フカヤの言わんとしている事を理解していたのでやんわりと遮る。

 ユニオン資産――要はカナタに泣きついて金を融通して貰う事だ。

 確かに強化費用ぐらいはポンと出してくれそうな気はするが、可能であれば自力で達成したいといった意地もあった。 


 「ま、地道にランク戦を頑張るか」

 「だね」


 結局の所、地道に積む事こそが重要という訳だ。

 そう納得したツガルはランク戦でもやるかとウインドウを操作した。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?