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第639話 防衛戦(復刻)㉛

 向けてからの照準が早すぎる。

 ポンポンはその辺りは織り込み済みだったようで、レーザーが飛んで来た。

 アリスとグロウモスの援護だ。 


 躱すと同時に更に踏み込み、盾裏に仕込んだ拳銃を抜きながら接近戦の間合いへ。


 「回避先、視えてたんですか?」

 「あぁ、アイツは常に最小の動きで躱そうとするからナ。 アリスとグロウモスの援護を躱してあたしを仕留めに来るはずだ。 そこを狙い撃ちだ」


 肉薄したポンポンに対し、敵機は迎撃しようと砲口を向けるが盾で跳ね上げながら銃を向けてそのままバースト射撃。 流石にこれは躱せなかったのか被弾する。 

 ユウヤ達が刻んだ大きな損傷個所に命中したようで明らかに効いていた。


 更に連射しようとしていたが敵機は撃たせまいと銃身を掴む。

 ポンポンはそれがどうしたと言わんばかりに引き金を引くが、弾が出なくなった。

 敵機の手の平が赤熱しており、それにより銃身が溶けたのだ。 


 「……ガントレットの機能でしょうね」

 「使ったら外すからそのままにしてるのは少し引っかかってはいたんだけどナ」


 考察している余裕はなく、そのまま押し切ろうと考えた訳だ。

 銃を使い物にならなくした敵機はすっとポンポンに手の平を向けると更に真っ赤に輝き、一瞬後には熱線のような物が放射され至近距離で喰らった彼女の機体は耐え切れずに爆発し、脱落となった。


 「電子レンジみたいな感じですかね。 中から焼かれているように見えました」

 「機体より先にアバターが死んだからその認識で間違いないと思うゾ」


 ポンポンの口調は悔しげで、小さく「2500以上か……」と呟いていた。

 彼女が落ちた事で負けが秒読みかと思われたが、タヂカラオはまだ諦めていないようだ。

 戦いの組み立ては変えずにベリアルを前衛として他がその援護に回る。


 ポンポンが抜けた分、アリスが積極的に手数を増やしていたが、彼女は連携に慣れていない事もあってやや動きに固さがあった。 

 それはヨシナリの目からも明らかで、味方の挙動を確認してから仕掛ける形で援護を行っていた事もあって敵機からすれば最も狙い易い獲物だろう。


 ポンポンやツガルが残っていればそこはフォローしていただろうが、ここまで減らされてしまった以上はどうにもならない。

 味方の挙動を確認する為に僅かに動きが止まった所を撃ち抜かれる。

 アリスがやられた自分の姿を見て小さく溜息を吐いた。


 「我ながら格好悪い」

 「これは仕方ないですよ。 寧ろ初めてでここまでできたんだから感謝しかありません」


 本音だった。 『烏合衆』のメンバーは基本的に連携に不慣れだ。

 他人に合わせる事に対する経験値が少ない事もあって、初見の組み合わせに入るのは酷な話といえる。

 それに彼女の行動は無駄ではなかった。 


 できた隙を最大限に活かすべくベリアルがラッシュをかける。

 ヨシナリが注目したのはそこではなく、敵の挙動。 

 視線はベリアルでなく、一瞬だけタヂカラオに向く。 


 明らかにベリアルの動きを起点に連動したタヂカラオを狙っている。

 ベリアルの処理が簡単ではないと判断して比較的、楽な相手から処理して数を減らそうと考えているのは明白だった。


 恐らくはリングでの拘束を狙ったタイミングを狙っている。


 ――だが、敵機の予想に反してタヂカラオはベリアルの分身による攪乱に合わせて前に出たのだ。


 流石に想定外だったようだが、驚きは刹那。 タヂカラオの刺突を引き付けて躱す。

 そのまま仕留めに行こうとしたが、転移でその背後に付いていたベリアルが襲い掛かる。

 ご丁寧に他に分身を二体出現させて意識を散らせる事も忘れない。


 敵機は分身を処理した事で余裕がなかったのか、タヂカラオをスルーしてベリアルの対処。


 「さっきも見ましたけど、これは本当にお見事です」


 こうして見ると彼等の取った行動は非常に分かり易い。

 タヂカラオが前に出た理由はベリアルと直接接触する為だ。

 スルーして敵機の視界から消えたと同時にベリアルがエーテルの外装をタヂカラオに被せ、プセウドテイそっくりな見た目へと変える。


 敵機が気付く前に大きな動きで打ち合いに持ち込み、転移で死角に回り込んだと見せかけてベリアルに化けたタヂカラオが至近距離でエネルギーリングを叩きこむ。

 時間があれば容易く見破られただろうが、ベリアルがその暇を与えなかったのだ。


 エネルギーリングの効果で敵機を拘束し、ベリアルとタヂカラオでしがみついて物理的にも拘束。

 そして後ろで隙を虎視眈々と伺っていたグロウモスが渾身の一撃を放つ。

 流石に躱せなかった敵機はそのまま射抜かれて脱落となった。


 ボスの撃破に伴い、ミッションはクリアとなった。

 映像が終了し、見入っていた何人かが大きく息を吐く。 

 ヨシナリもその一人だった。 


 「いや、今日はお疲れさまでした。 ギリギリでしたが勝てて良かったですね!」


 そう言いながらも脳裏ではさっきまでの戦闘の様子を反芻していた。


 「一通りの確認は済みましたが、気になる事があったら是非とも共有しましょう」


 後は個々人の感想を聞いてお開きにしよう。 

 そんな事を考えながらヨシナリは全員をぐるりと見回した。



 「だぁ、クソ! 負けた! 負けた!」


 場所は変わって『烏合衆』ユニオンホーム。

 アドルファスは戻ったと同時にそう叫んで近くのソファーに座り込む。


 「はっはっは、やはり集団戦は個人戦と違った難しさがあるな!」


 カカラは笑い、あまりいい所がなく沈んだモタシラと平八郎はやや肩を落としている。


 「Sランクに行きたいのならあのレベルの個人技が必要になって来るのか……」

 「うーむ。 儂もまだまだ修行が足りんわぃ」


 モタシラは連携よりも敵の水準を見てSに行く為には更なる技量向上を意識し、平八郎は地中という死角からの攻撃に対しての認識が甘かったと周囲への更なる警戒をと連携よりも自分のプレイに対する反省が多くを占めていた。


 逆にカカラは連携の面白さを理解したのか、自身の強みを活かしつつ他にどう合わせれば相乗効果を齎せるのかをさっきまでの戦いを思い返す事で考えている。

 アリスも似たような事を考えていたが、彼女の場合はプライドの問題だった。


 映像で自分の無様な姿を晒してしまったのだ。 

 それを払拭するべく自身に足りない物を補っていくべきだと自戒していた。  

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