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第638話 防衛戦(復刻)㉚

 このゲームに於いて攻撃の属性は大きく分けて二つだ。

 物理と光学。 前者は質量を伴った攻撃で後者は純粋なエネルギーによる攻撃だ。

 どちらが優れているとは一概には言えないが、環境的に取り回しや重量が少ない後者が多く使われている印象ではある。 


 だからと言ってそれが絶対的なのかと問われるとヨシナリはノーと答えるだろう。

 特に後者は扱い易い分、防ぐ手段が多いのだ。 エネルギーフィールドなどはその最たる例だろう。

 出力で上回るなら理屈の上ではあらゆる光学兵器を無効化できる。 


 反面、質量を伴った攻撃に対しては効果は薄い。 

 その為、物理、光学の両方の武装を積んで対応力を上げるのは中級以上のプレイヤーからすれば基本と言っていい。 


 ――まぁ、例外はいるが。


 さっきから光学兵器の話ばかりしているが、物理兵器にも当然ながら弱点はある。

 単純な話、物をぶつけてきているので重装甲で身を守ればいい。 

 マルメル達が使っている強化装甲やパンツァータイプの複合装甲は少々の攻撃は物ともしないだろう。


 ただ、こちらも明確な弱点がある。 光学兵器だ。

 重装甲といえど、閾値を超える熱に晒されればあっさりと貫かれる。

 そんな理由で防御を意識したビルドは本当に難しい。 


 被弾を許容するビルドの機体は多いが、全てに対して完璧に対応する事は不可能といえる。


 ――だから、高機動の機体が主流になるんだよなぁ。


 被弾リスクについて考えるとキリがないので機動性を上げて躱せばいいと判断したのはヨシナリだけではないだろう。 

 さて、前置きが長くなってしまったが、あのエーテル弾の厄介な点は物理、光学の両方の属性を備えている点にある。


 重装甲の相手には非物資状態のエネルギーを、エネルギーフィールドを展開する相手には質量を持たせる事でそのまま貫けばいい。 

 特にあのサイズなら大抵の相手は上手に当てれば一撃だ。 

 ふわわの攻撃をやり過ごして直接当てるという恐ろしい使い方をしていたが、それ以上に属性を弄れる点はかなり厄介な代物といえる。


 可能であれば欲しい、真似したいと思っていたが、今のホロスコープには難しい。

 ホロスコープのエーテル操作の範囲はパンドラを中心に十数メートルといった所だ。

 武器にエーテルの弾を吐き出させる事は可能だが、通常の武器に無理なエーテルの供給を行えば内部にダメージが入る事は確認している事もあって真似は出来ないと言わざるを得ない。


 どうしてもしたいのであれば専用の武器が要る。


 ――今後の課題、か。


 一通りの検証と確認は終えた事もあって、映像は次の場面へと進む。

 ふわわが脱落した事で残ったメンバーがフォーメーションを組み直して仕掛けに行った。


 タヂカラオがエネルギーリングを連射して敵の拘束を狙う。

 彼の特性上、リングをばら撒いて敵機の動きを封じる挙動はかなり効く。


 入れば一秒から二秒は完全に動きが止まるからだ。 

 ただ、リングが欠けてしまえば効果を失うという弱点があった。

 敵機は無駄のない動作で拳銃を生み出すと次々とリングを銃撃し、効果を喪失させる。


 だが、それでいい。 個人戦であるなら絶望的な場面ではあるが、これはチーム戦だ。

 それを理解しているからこそタヂカラオはリングをばら撒き続ける。

 タヂカラオが牽制に力を入れる以上、中衛が足りない。 


 それを補うべくアリスが前に出て攻撃を開始。 

 レーザーの銃身を排除してガトリング砲に切り替え、派手にエネルギー弾を連射する。

 合わせてまんまるが下がりつつ、位置を変えながら砲撃に専念。 


 グロウモスから離れる位置取りだ。

 そうする事でと相手の意識が分散する事を期待してのポジショニング。

 最後に敵機にとって最も目障りな位置に居座るのがベリアルだ。


 短距離転移で肉薄し、ひたすらに接近戦を仕掛ける。 やり方も上手い。 

 常にグロウモスを背負う形で仕掛ける事で彼女の狙撃を警戒せざるを得ない状況を作っている。

 これをやられると敵機は意地でもグロウモスを視界に捉える位置に移動したくなるだろう。


 明らかに自分ごと撃たせるポジショニングだからだ。 

 隙を晒せばベリアルが掴みかかり拘束を狙うとでも思っているはずだ。

 その為、足を止められない。 


 グロウモスもベリアルの動きから意図を理解してベリアルの背中を常に射線に入るように移動している。

 敵機は逃げ切るのは難しいと判断したのかベリアル相手に接近戦を行う事にしたようだ。

 銃ではなくガントレットにしたのはそういう事だろう。


 「こいつもかよ……」


 思わず呟く。 敵機はベリアルのラッシュを物ともせずに捌き、殴り返す余裕すらあった。

 反応が異様に良い。 チートかとも思ったが、動きの感じから考え難かった。

 ホーコートと違って動きに固さがなく、ナチュラルな印象を受けるからだ。


 ベリアルへの対処も上手い。 

 以前の防衛戦の時に現れたエネミーもそうだったが、受けるのではなくエーテルの外装を剥がす事を念頭に置いた動き。 これをやられるとベリアルは外装の修復の為にリソースを割かざるを得ない。


 それを理解しているベリアルは転移で回避しながら凌ごうとするが、敵機はさせまいと間合いを詰めるがポンポンが即座にカバーに入る。

 転移で距離を取るやり方はシックスセンスを装備しているポンポンにとっては敵機とベリアルの動きを早い段階でキャッチできる事もあって好都合のようだ。


 敵機はポンポンとベリアルでどちらの処理を優先するのかで迷ったようで僅かに動きが鈍る。

 判断としてはベリアルに対する追撃はリスクと判断して下がった。

 タヂカラオがばら撒き、ホーコートが突っ込む。 あっさりと返り討ちに遭ったが無駄ではなかった。 


 処理に費やした事で僅かな間だが敵機の出力が低下する。 

 ここが勝負どころだとポンポンが突っ込む。

 突撃銃を連射しながら盾に内蔵されているブレードを展開。 


 接近戦に持ち込むつもりのようだ。 

 敵機はポンポンを返り討ちにするぐらいは問題ない判断しているのか持っていたレーザーキャノンを向ける。 

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