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第637話 防衛戦(復刻)㉙

 ふわわもこれは不味いと判断したのか蹴りで追い払う。

 距離を取ったと同時に敵機は好都合とばかりに長物に切り替えて連射。

 明らかに武器の精製速度が上がっている。 加えて弾丸の質も変わっていた。


 空中で炸裂して破片を撒き散らすタイプに変わっている。 炸裂弾だ。 

 攻撃範囲が広く、当て易いというメリットはあるが、このゲームに於いては――というよりヨシナリ自身が微妙と思っていた。


 威力自体は上がるが有効射程が短くなる。 

 破片を撒き散らす特性上、命中率も大きく上がるが、人体ではなく鋼の巨人であるトルーパーには肌の代わりに装甲があるのだ。 小さな破片程度ではかなり近づかないと威力を発揮できなくなる。


 常に至近距離で使用するというのであれば大きな問題はないが、ヨシナリはある程度の汎用性は必要と考えている事もあって選択肢には上がらなかった。

 ただ、この敵機のように自由に武器を出し入れできるのであれば話は別だ。


 必要な時に必要な物を呼び出せばいいのだから。 

 今回、ふわわに対して使用したのも理に適っていると言える。 

 広い攻撃範囲と高い威力の両立。 あのシチュエーションであるなら最適な使い方だ。


 戦い方も相手のアクションに対して有効な武装を選択するといった待ちのスタイルから積極的に攻めるスタイルへ。 

 一撃入れられてキレたのか、追いつめられて本気になったのか明らかに動きが違う。

 炸裂弾によって細かなダメージが蓄積しているふわわは少し焦ったのか、一気に決めに行った。


 野太刀を構えたのだ。 距離が開いたと同時だった事もあり、切り所としては悪くない。

 相手の攻撃を躱したタイミングで一閃。 タイミングは完璧と言っていい。

 敵機は縦に両断されたのだが手応えがない。 ホログラムだ。


 ――気配に敏感なふわわが虚像と実像を見間違えた?


 「ギリギリまで引き付けてから躱されたわ。 ウチも捉えたって思ってんけどなぁ……」


 映像をフォーカスして敵機の動きに注視。 

 ふわわが振り下ろしたと同時にホログラムを展開して回避行動を取っている。

 凄まじいタイミングの取り方だ。 


 ふわわは相手の気配を察知できる事もあって、この手の目晦ましはまず通用しない。

 それが通用したという事は攻撃の瞬間まで引き付けなければならないのだ。

 僅かにズレれば本当に両断されかねない危うい綱渡り。 


 ――真似できるか?


 野生の獣並の察知能力を持つふわわの意識から消える。

 ヨシナリは映像の敵機を自分に重ねて考えたが、難しそうだった。

 タイミングがシビア過ぎる。 早すぎれば気付かれ、遅すぎれば両断されるだろう。


 今の自分では少し難しそうだった。 その間にも映像は進む。

 敵機は直上から横薙ぎのレーザー。 ふわわは躱しながらナインヘッド・ドラゴンを一閃。

 恐らくは外した瞬間から使用を意識していたのだろう。 


 攻撃態勢に入るまでのラグが驚くほどに短い。 一閃。

 九つに分割された刃は七つまで正確に敵機を捉えていた。

 結果を知らなければ入ると確信できるほど見事な一撃だった――が、敵機は接触の瞬間に斥力フィールドを展開。 飛んで来た刃の群れを弾く。


 これまで使ってなかった事に対して舐められていると判断するべきか、使わせたと思うべき所かやや判断に迷うが振り切って僅かに硬直しているふわわは敵機にとって格好の的だ。

 大型の狙撃銃に切り替わる。 ほぼノータイムで狙いを付けると発射。


 想定内だったのかふわわは即座に太刀での切り払いを狙うべく振るう。

 ズンと重たい銃声が響き、銃弾が放たれふわわの斬撃は確かにそれを捉えたのだが――

 ヨシナリは内心で眉を顰める。 タヂカラオも気になったのか、映像を一時停止して僅かに巻き戻してスロー再生。


 妙に黒い弾丸はゆっくりとふわわに向かっていく。 彼女は太刀を一閃。

 軌道として銃弾の先端の一部を叩いて軌道を逸らす狙いである事が分かる。

 大口径の狙撃銃から放たれる弾は彼女といえど簡単に弾けるものではない。


 だから逸らす判断をした。 

 敵が銃口を向けて発射するまでの刹那に判断から実行に移している。

 改めてこの人、人間じゃねぇなと思いながら問題のシーンで停止。


 「なんじゃこりゃ?」


 最初に口を開いたのはマルメルだ。 何故ならふわわの刃はしっかりと弾丸を捉えていた。

 ――が刃は弾丸をすり抜けたのだ。 結果、ふわわは動体にまともに喰らって即死。 

 脱落となった。 


 ――あぁ、そういう事か。


 ヨシナリの脳裏に理解が広がる。 弾丸が黒い時点で気付くべきだった。


 「なるほど。 闇を凝縮した魔弾という訳か。 虚と実を混ぜる事で刃をすり抜け命を刈り取るとは……」

 「気付いたか戦友よ」

 「あぁ、あの魔弾は闇に属する物。 制するには闇の力を使う他ないだろう」


 同様の結論に至ったベリアルは意味深な事を言いながら考え込むように顔を手で覆う。

 ヨシナリも似たようなポーズで頷いて見せた。


 「おーい、分かったのなら説明してくれ。 俺にはさっぱりだ」

 「あ、はい。 えーっとこれを見て欲しいんですよ」


 ツガルの言葉にヨシナリは映像を戻して敵機の放った弾丸にフォーカス。

 真っ黒な弾丸がアップになる。


 「黒いナ」

 「真っ黒な弾にみえるな」


 ポンポンとツガルが見たままの感想を口にするのを見て苦笑しながら説明を続ける。


 「先に答えを言ってしまうとコレ、エーテルの弾ですね」


 それを聞いて察した者の脳裏には理解が広がる。


 「ご存じの方も多いと思いますが、一応おさらいしておきますね。 エーテルっていうのはエネルギーでありながら質量を持った半物質とも言える代物なんですよ。 で、そいつを利用する事で射撃武器としてはどっちの特性を持たせる事も可能というかなり使い勝手の良い代物です。 ――まぁ、欠点として燃費が悪いのであんまり派手に撃てない所でしょうかね」


 ヨシナリは映像を進めてふわわの刃がすり抜けた瞬間をフォーカス。


 「恐らくですが、ふわわさんの刃をやり過ごした後に物質化して機体を撃ち抜いたんでしょう。 流石にあの速度で遠隔操作は無理だと思うのであの銃自体に何らかの仕掛けが施されていると見て間違いないでしょう。 例えば発射後、コンマ何秒で物質化するとか」

 「それでウチが触れへんかってねんな」


 説明しながらヨシナリは内心で眉を顰める。 

 何故なら思った以上にヤバい代物だったからだ。

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