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第636話 防衛戦(復刻)㉘

 敵機はそのままポンポンを仕留めに行ったが、マルメルがフォローに入る。

 アノマリーの連射で気を逸らそうとしていたが、敵機は無駄のない動きで躱した後、おもむろに出現させたランチャーを向けた。


 「ミサイルだと思ったんだけどなぁ……」


 確かにミサイルランチャーに見えなくもないが、よく見ると違う事がよく分かる。

 穴の奥に弾頭ではなく杭のような尖った先端が見えるからだ。

 大型のニードルガンだろう。 焦りで余裕もなかったマルメルはそれを見落としてしまった。


 ハンドレールキャノンで纏めて抜こうと考えていたようだが、ニードルガンはミサイルよりも遥かに出が速い。 

 空気が抜けるような音が微かに響き、文字通り串刺しにされてしまった。

 コックピット部分をしっかり破壊している点も抜かりなく、マルメルは碌な抵抗も出来ずに脱落。


 何とか立て直しを図る為にポンポンとニャーコが仕掛けに行ったが、彼女のラッシュを敵機は軽い動作でいなし、蹴りの一発で地面に叩きつけた後、手榴弾を放って仕留めた。

 どうにか立ち上がったカカラが敵の勢いを止める為に弾幕を張る。


 ユウヤとベリアルがフォローに入ろうとするが、それをあざ笑うかのような一撃でカカラは撃ち抜かれて脱落。 

 損傷しているとはいえ、彼の堅牢な機体を一撃で射抜いた武器はハンドレールキャノンだろう。


 ――なんでも出て来るな。


 忍び寄ったフカヤがクロスボウを構えるが、居場所は既に看破されていたのか振り向きもせずに散弾銃を出現させて背後に一発。 上半身を穴だらけにされて即死。

 もう詰んだ。 そう思った者は多いかもしれないが、ここでユウヤが一人で前に出る。


 連携では崩せないと判断し、単騎で挑む事にしたようだ。

 本来なら手数が減るので不利になるようなシチュエーションではあるが、彼の場合は単独になるとアケディアという切り札が使用できる。 


 エネルギー兵器の無効化。 

 正確にはエネルギー精製の阻害とでもいうべきそれは敵機の武器精製すら阻む。

 作る為の前提を崩せば相手の動きはかなり制限できる。


 連携に組み込めるのならもっといい結果が出せたのかもしれないが、敵味方の区別がつかない事もあってか難しかったようだ。 

 長時間の維持は難しい事もあり、相手の行動の起点を潰す為にシビアなタイミングで連続起動。


 敵機の武器精製とエネルギーウイングによる加速を封じて自分の土俵へと引きずり込む。

 上手い。 相手の強みを削ぎつつ、自身の強みを確実に活かせる場面を作り出している。

 敵機の攻撃も背中を向けて大剣に当てさせる事で防ぐなど、接近戦での反応も大きく上がっていた。


 間合いに入ったと同時に大剣を振るい、途中でハンマーに変形させて間合いを変える。

 大剣には近いと相手に判断させた上での一撃だ。 

 意表は付けたはずだが、敵機の挙動はユウヤの想定以上だった。 


 敵機は大きな動きで躱さず横薙ぎに振るわれたハンマーの上を転がって懐に入って来たのだ。


 「こんなのありかよ!」


 思わずマルメルが叫ぶ。 ヨシナリも同じ気持ちだった。

 いくら横幅があるハンマーだからと言ってあんな大道芸が簡単に成立するほど甘くない。

 とんでもない反応と機転だ。 この距離では武器は使えない敵機は掬い上げるように拳を振り抜く。


 まともに喰らったユウヤの首が千切れ飛ぶ。 それでも諦めなかった彼はコックピット部分を解放。

 強引に視界を確保。 散弾砲を構えるが腕ごとダガーで切断される。

 ユウヤはそれでも諦めずに得物を大剣に戻して強引に振るう。 片手で速度も乗っていない一撃。


 簡単に躱されてしまうだろうと思ったが、彼はここで意外な行動に出た。

 下から斜めに振ったハンマーを蹴り飛ばして強引に加速させたのだ。

 カナタがよく使っている動きだった。 ツガルとフカヤが意外そうにユウヤを見るが彼は無言。


 それにより目測を見誤った敵機は回避が遅れ、胸部装甲が大きく抉り取られる。


 ――これも躱すのか。


 それでも諦めないユウヤは武器を捨てて拳を固めて真っすぐに突き出す。

 対する敵機はダガーによる刺突。 リーチの差は明らかだが、ユウヤは相手がコックピット部分を狙っているのを無視して強引に前に出た。


 結果、貫かれはしたがその頭部に拳の一撃を入れる事に成功していた。

 彼の執念が手繰り寄せた結果といえる。 

 崩れ落ちたユウヤを見てベリアルが前に出ようとするがそれをふわわが止めた。


 「ごめんなぁ、ウチも戦ってみたかってん」


 敵機もそれに応じるつもりなのか動かない。 

 互いに僅かな時間、向かい合い――ふわわが野太刀を振るった。

 敵機の回避に合わせて柄を投げ捨てると鞘で殴りに行く。


 元々、剣での戦いに拘っている傾向にあったが、鞘も武器として使う事で選択肢が増えた。

 剣技自体に磨きをかけてはきたのだろうが、それ以上に攻撃手段の拡張に力を入れた印象が強い。

 鞘を拳の一撃で破壊。 ふわわは特に動揺せずに小太刀に切り替える。


 大抵は太刀、小太刀と間合いを揃えない為に左右非対称にするのだが、攻撃の回転を重視したのか両方とも小太刀だ。

 刺突と斬撃を織り交ぜて敵機を切り刻もうとするが、敵機は凄まじい反応で躱す。


 以前と比べてキレの増したふわわの攻撃を簡単に捌く敵機の技量もまた凄まじい。

 ふわわも負けておらず、小太刀を小刻みに手の中で回して攻防に利用しており、見た目以上に回転が速い。

 凄まじい攻防だったが、ふわわの動きが僅かに変調する。

 太刀に手を伸ばしたからだ。 


 初見であったのならここで長物?と疑問を抱くが、一度見ているの事もあって驚きは少ない。

 恐ろしい事に彼女は太刀による一閃で相手のダガーごと切り裂いたのだ。


 ――何回見ても意味が分からねぇ……。


 どうやって相手の武器ごとダメージを入れたのかヨシナリにはさっぱり理解できない。

 流石にこれには敵機も驚いたのか、その後の動きが変わる。

 明らかにギアを上げて来た。 あれだけの動きを見せていながらまだ本気ではなかったのだ。


 ダガーを捨てて武器を拳銃等の射撃武器へと切り替える。

 動きのクオリティが段違いだ。 銃を突き出したと同時にバースト射撃。

 手足の延長として銃撃を行う独特な戦闘法。 


 「映画かよ」


 思わず呟く。 まるでアクション映画のような挙動だった。

 加えて打撃や、さっきまで使ってなかったホログラムで間合いを狂わせる動きと明らかに質が違う。

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