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第635話 防衛戦(復刻)㉗

 ドローンは出現後、直ぐに攻撃行動に入るのでエネルギーの充填で嫌でも目に入る。

 ただ、出現直後は起動まで若干の間があるからこそ容易に排除できたのだが、今回はそこに足をすくわれた形になった。


 「つまりあの敵はあたしらの相手をしながら地下にせっせと罠をしかけてたって訳だナ」

 「そういう事ですね。 ――で、次の問題です」


 映像の向こうではアドルファスのドローンが制御を奪われていた。

 悔し気に拳を握る平八郎の肩を叩いていたアドルファスだったが、映像を見て肩を落とす。


 「ハッキングでドローンの制御を奪って来るとかありかよ……」


 物理的に取り上げるのとは訳が違い、遠隔で武器を奪われるのだ。

 たまったものではないだろう。 

 これの厄介な点は機体と違ってドローンの場合、完全に制御を奪われると取り返す事がほぼ不可能な点だ。 もしかするとあるのかもしれないが、今の時点では何とも言えない。


 ――俺も勉強用にドローン買ってみるか?


 採用するかは別として手触りを確かめるのはありだろう。

 そんな事を考えている間にアドルファスが残ったドローンを破棄。

 防ぐ方法が不明な以上、もはやドローンは役に立たないどころか足を引っ張りかねない。


 自爆させるのは賢明な判断といえる。 

 ユウヤ達のフォローもあって立て直し、何とかなると思われたが、ここで敵が更なる想定外の手を打って来た。 地面に仕込んだ無数のドローンによる砲撃。


 正直、多くても十機かそこらだと思っていた事もあって対応が大きく遅れてしまった。


 「これ酷くね?」


 マルメルの言う通りだった。 酷すぎる。

 映像で見ればよく分かるのだが、完全に想定外と人数の多さもあってヨシナリの脳で処理できるキャパシティーを超えていた。 適切な指示が出せずに逃げろとしか言えなかったのだ。


 こうして後になって冷静に考えると防御に長けたプレイヤーを固めて凌がせる等の手はあった。

 明らかにヨシナリの判断ミスだ。 内心で畜生と呟く。

 味方の被害は確実に減らせたが、あの時のヨシナリにはそこまでの気が回らなかった。


 代わりに考えた事は味方を思考から蹴り出して、敵機を仕留める事だ。

 パンドラのリミッターを解除して捨て身の攻撃。 

 敵は大規模な攻撃を仕掛ける以上、生き残れば必ず隙を晒す。 


 そう判断したのだ。 個人戦であれば正解だと思うが、集団戦に於いては余りいい選択ではなかった。

 自分のポジションに対しての自覚が足りていない。 ヨシナリはそう自分を戒めつつ映像の先を見る。

 ヨシナリが突っ込み、ベリアル、ユウヤがそれに続く。 


 三人を狙った攻撃はカカラが身を挺して守り、敵機を間合いに捉えた。

 ヨシナリ、ユウヤでドローンを排除し、ベリアルが接近戦。

 このまま粘るのは悪手と判断したヨシナリは捨て身で敵機に掴みかかり、道連れにするべく地面に叩きつけた。 味方が生き残っている以上、道連れに仕留められるのなら手としては悪くない。


 そう判断しての事だった。 パンドラを臨界まで持って行き、そのまま道連れに自爆。

 正直、勝ったと思った。 だが、結果はヨシナリの予想に反し、敵機は健在。


 「タヂカラオさん。 ちょっと確認したいので止めて貰ってもいいですか?」

 「あぁ、ここは僕も気になっていたんだ」


 タヂカラオが映像を止めて少しだけ巻き戻す。 

 あの距離、あの威力でどうやって生き残ったのか? それだけが分からなかった。

 ヨシナリが自爆する瞬間にフォーカスすると敵機は下半身のフロートの一部が開き、中から泡のような物が噴き出して機体を覆い、エネルギーフィールドのような物が展開される。


 爆発。 

 至近距離での爆発の破壊力がフィールドを貫通し泡のような物を蒸発させるが、威力の大部分を殺していた。 


 「なんだあの――泡?」

 「見た感じ、熱と衝撃を吸収しているように見えるゾ」


 ツガルとポンポンは分からないと首を傾げる。

 ヨシナリは何か知ってますか?と視線を巡らせるが、大半が困惑といった様子だった。


 「いや、見た事あるぞ!」


 そう言ったのはカカラだ。 


 「ご存じなんですか?」

 「サガルマータの強化プラン実行の時にメーカーに提案された装備に似たような物を見た覚えがある。 細かい名称までは思い出せんが、何とかアブゾーバーとか言っておったぞ」


 聞けば衝撃と熱を吸収する泡らしい。 

 エネルギー兵器のような点で焼いてくる兵器には効果が薄いが爆発などの面でダメージを与えて来るタイプの攻撃には非常に有効らしい。 


 「ちなみに採用しなかった理由は?」

 「あの泡は専用の格納容器が必要でな。 サガルマータを覆うには容器が大きすぎて積めなかったのだ」


 ――なるほど。 


 あの敵機は下半身にその泡の容器を抱えていたという訳だ。

 それでも無傷とは行かずにそれなり以上のダメージは与える事は出来た。

 戦果としては上々といいたかったが、その後を見ると流石にこれは理不尽ではないかと思ってしまう。


 驚くべき事に敵機はドローンではなく予備パーツを生み出して損傷部分を補ったのだ。

 それだけでは留まらずに機体の構成まで変えて来た。 

 ドローン主体の機体から武器を次々と生み出して直接戦闘を行うスタイルへと。


 「これ汚ねぇな。 自爆までして削った俺がバカみたいじゃないか」


 思わずそんな事を呟いてしまう。 挙動からダメージはほぼなくなっている。

 ヨシナリでなくても理不尽と感じてしまうだろう。 

 機体だけでなく戦い方まで変わっている。 


 元々、機動に関してもSランク相当だと判断していたが、回避に偏っているのかとも思ったが寧ろこちらが本領なのではないかと思ってしまうほどに動きが良くなっていた。

 ツガルの独特な起動を即座に看破し、出現させたチェーンソーのようなブレードで一撃。


 「あぁ、クソ」


 ツガルが小さく呟く。

 次いで直上から仕掛けたシニフィエをシールドバッシュでいなして態勢を崩し、拳銃で一撃。

 シニフィエがぐぬぬと小さく唸る。 それだけに留まらずふわわの野太刀による斬撃を躱しただけでなく蹴り折ったのだ。 更に負った刃を蹴り返すという離れ業まで披露する。


 ――意味が分からない。


 何故、こんな曲芸じみた真似ができるのかヨシナリにはさっぱり分からなかった。

 攻撃モーション後の隙を狙ってアリスとグロウモスの狙撃を当然のように躱し、合わせるようにモタシラが仕掛けたが相手の剣、凹凸のついたソードブレイカーに刃が噛んでしまって得意の巻き取りが出来なくなっていた。


 動きが止まった所を蹴り飛ばし、地面に叩きつけた後にグレネードランチャーで一発。

 モタシラがあっさりとやられた事にも驚きだが、武器の選択も秀逸すぎる。

 彼の強みを瞬時に殺して見せたのは凄まじい。 


 アドルファスとポンポンが挟みに行ったが、アドルファスの懐に入る形でやり過ごした。

 タイミング自体は悪くなかったが、二人の仕掛けのタイミングにズレがあった事でそこを突かれたのだ。 合わせに行った分、アドルファスが僅かに振り遅れている。


 一瞬でそれを見極めるとポンポンの一撃を躱し懐に入る事でアドルファスの攻撃の起点を潰したのだ。

 そして密着した所を一撃。 見れば見るほどに絶望的な状況だった。

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