サーバー対抗戦や侵攻、防衛戦なら問題はないのだが、ユニオン対抗戦で欠員が出るのはあまりよろしくない。
それに未だに枠が余っている状態なのは更によろしくない。
欠員を想定してもう三人から四人は欲しい所だった。
現状、『星座盤』の構成メンバーは八人。
ヨシナリ、マルメル、ふわわ、グロウモス、ユウヤ、ベリアル、シニフィエ、ホーコート。
構成としてはふわわ、ベリアル、シニフィエが前衛、マルメル、ホーコートが中衛。
ユウヤは前衛寄りの中衛といった所だろう。
ただ、前に出たがるのでヨシナリとしてはどちらにカテゴライズするのかは少し迷ってしまう所だった。
ヨシナリは全体を見て動く遊撃、そして後衛はグロウモスのみ。
バランスを考えるなら後衛がもう一枚欲しい所だ。
アルフレッドが居るのである程度は補えるが、ユウヤが落ちると自動的に脱落するという欠点がある上、撃破はパーツロストのリスクがある。
あまり無理させるのはよろしくないと思っていた。
後衛をこなせて、欲を言えばタヂカラオ並に全体を視れるプレイヤーだという事ないのだが……。
「そんなのが都合よく落ちてる訳ないよなぁ……」
増やすだけならどうとでもなるのだが、即戦力でなければあまり意味がない。
育てるという手もなくはないが『星座盤』の規模的に何人も抱えられないのだ。
やるにしてもホーコートがもう少し育ってからになるだろう。
付け加えるなら『星座盤』の空気に合うプレイヤー――要は既存のメンバーとある程度上手くやれる奴でないと場合によっては更に深刻な問題になりかねない。
「考えても仕方がない、か」
ヨシナリは小さく息を吐くとウインドウを操作。 ランク戦へのマッチングを開始する。
通常ではなく、当然フリーの方だ。
格下と当たってもあまり意味はないが、格上と当たればランクアップまでの道のりがぐっと楽になる。
――まぁ、勝てればの話だけどな。
マッチングが成立。 相手のステータスが表示される。
「相手は――お、これは楽しめそうだ」
プレイヤーネーム『アイロニカル』機体名『ティピカル・ジャッカル』
ランクはA。 見た事のないプレイヤーだ。
Aランクという事は高い確率でジェネシスフレームを使って来る。
完全初見の相手。 しかも何をしてくるか分からない事もあって対応力が試されるだろう。
ランクアップの為の作業のような戦いには飽きて来た所だ。
それにさっきまでのごちゃごちゃした考えを頭から追い払いたいといった気持ちもあった。
今はこの戦いにだけ集中しよう。 そんな期待と警戒の入り混じった気持ちでフィールドへと移動。
ホロスコープを駆り、降り立ったのだが――
「お、珍しいな」
見慣れた市街地ステージだが、珍しく夜になっていた。
廃墟と違って一応は電気が来ているという設定という事もあって街灯がぽつぽつと点灯している。
基本的に対戦時はステージ、時間、気候はランダムだが、夜や豪雨のような視界などが著しく悪くなる状態になるのは少し珍しい。
試合開始。 敵機の姿は――視認できない。
隠密タイプか? そう考えながらシックスセンスで索敵しながら空に上がる。
隠れている相手には一度撃たせて居場所を割った方が早い。
仮に撃って来なくても移動の痕跡などで特定は可能。
どちらにせよ相手はヨシナリのアクションに対して何らかの反応を返すはずだ。
そこを狙い撃ては良い。
――はずだったのだが――
「何の反応もないな」
動体、熱源、エネルギー流動に反応なし。
後者二つは隠す方法はいくらでもあるが、前者を隠すのは少し面倒だ。
隠していなければ動いていない事になるのだが、現状ではさっぱり分からない。
割と派手に噴かして居場所をアピールしているのだが、反応がないのはどういう事だ?
警戒している? 相手はAランクである以上、ヨシナリは格下だ。
そんな相手にここまで慎重になるのだろうか?
これまでの相手にしてきたランカーの傾向的に非常に珍しいケースだ。
「こちらを舐めずに徹底して自己のプレイを貫くタイプか?」
小さく呟き、どうしたものかと考える。 手っ取り早いのは空から撃ちまくって炙り出す事だ。
だが、相手はそれを待っているのかと考えていると軽々に試せない。
焦らしてくる。 もしかするとこちらが我慢できなくなるのを待っている可能性もあった。
一番いいのは先に見つけてしまう事なのだが現状、正確な位置を特定できずにいる。
初期配置的にヨシナリは西側だったので相手は東側にいる可能性が高い。
動いていないのなら大雑把な位置は絞り込める。
――まずは東側に集中して――
それは索敵の為に高度を落とした時に起こった。 動体に反応。
ビルの隙間からワイヤーのような物に繋がったアンカーが二つ飛んで来たのだ。
尻尾を出したかとヨシナリはアトルムとクルックスを抜いてアンカーを銃撃。
アンカーはスラスターを内蔵していたようで、銃撃に合わせて噴かして躱す。
片方は躱したが、残りが足に絡みついた。 繋がったワイヤーがピンと張られる。
引きずり込もうとしている事は明白だった。 ヨシナリは即座にワイヤーに銃撃。
弾は命中したが僅かにたわむだけで千切れる気配がない。
だったらとエネルギー弾に切り替えて発射。 弾かれた。
恐らくは対光学兵器用のコーティングが施されている。
同じ場所に連続して当てるか高出力のレーザーなら焼き切れるだろう。
アシンメトリーを抜いている暇はない。 だったらとヨシナリはイラを抜いてギミックを起動。
回転刃を当てて強引に切断。 流石は材質不明とヨシナリは大剣に感謝しつつ即座に上昇。
一瞬、後れて弾体が通過。 レールキャノン。
マルメルが使っている物よりも小口径だがまともに喰らえば一撃で沈みかねない代物だ。
引き千切るのがあと少し遅れれば不味かったと思いつつも敵機の居場所を割った以上、今度はこちらの番だとアトルムを連射。
流石に居場所を隠し通す事は難しかったようでようやく敵の姿を捉える事に成功した。
変わった形状の機体だった。 姿勢が異様に低いのは四つん這いになっているからだろうか?
その割には探知するまで気配がなかった。 接地していない?
犬のような四つ足の形状だけならキマイラ・ループスのような可変機で珍しくはないが、ひらひらと靡く物で全身を覆っている事でデザインの詳細が分からない。
ヨシナリの印象としてはヴェールのような物で覆われた四つ足の獣だ。
ともあれ、姿を確認できた以上、ここからこちらが仕掛ける番だった。