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第644話 各々の課題/遭遇戦④

 完全にすっぽりと覆われており、全容は見えないが闇の中から薄く輝くカメラアイが不気味だった。

 一瞬、キマイラかとも思ったがシルエット的に違うと判断。

 間違いなくジェネシスフレームだ。 


 ――センサー系に引っかからないのはあのひらひらした被り物の所為か?


 詳細は不明だが、ステルスマント、ステルスコートといった探知を無効化する装備が存在するのでその類だろう。 居場所を割った以上は何の関係もない。 

 隠密に特化した機体である以上、耐弾性能は余り高くないはずだ。

 アトルムをバースト射撃。 敵機は音もなくゆらりとした動きでビルの陰に入って躱す。


 ヨシナリはちらりとシックスセンスの観測結果を確認。 敵機の姿は観測できない。

 正確には動体は見えているが、それ以外は上手に隠れていた。

 隠密系の比較対象はグロウモスやフカヤだったのだが、あの二人の場合は何らかの装置を使用する事で気配を隠している。 


 それが何を意味するのかというと姿を隠し続ける事は少なからずジェネレーター出力を圧迫しており、発見されれば使い続ける事はリスクでしかない。


 ――にも関わらずこの敵機は使い続けている。


 それが意味している事は隠密効果がノーリスクで使用できるパッシブか、使い続けなければ何らかの不都合があるのかのどちらかだ。

 手持ちの情報ではどちらかの判断が付かない。 もう少し観察が必要だ。


 攻撃手段はワイヤー付きのアンカーとレールガン。 

 以前のグロウモスと同じで気配を消して一刺しを狙うタイプかとも思ったが、動きから発見された事による焦りの類を感じない。 


 寧ろ発見させて誘い込もうとしているような意図すら感じる。 

 やり難い相手だ。 これまでに戦ったどのプレイヤーとも類似点が見当たらない。


 『テクニカル。 判断が早い』


 不意に通信に声が入る。 幼さが残る少女のような声だ。

 挙動から陰を含んでいるような印象だったが、機体の動きとは裏腹に声には自信が感じられる。

 フランスのSランクと似た年頃だろうか? 声が幼いからと油断はしない。


 「そりゃどうも」


 イラをマウントしながら銃撃で牽制しつつアトルムをホルスターに戻してアシンメトリーに切り替える。

 敵機が影から出てきていない事を確認してチャージショット。 

 高出力のエネルギー弾が建物を貫通するが、手応えがない。


 動体センサーに反応。 背後だ。 回り込まれた? いつの間に?

 疑問はあるが、反応せざるを得ない。 上昇しながら振り向いて射撃。

 放ったエネルギー弾は敵機らしき物の頭部を過たずに射抜いたが、額に風穴を開けられた状態にも関わらず敵機はゆらりとした動きでまたビルの陰へ。


 『プラクティカル。 大当たりだ』


 また背後から動体反応。 アンカーが飛んでくる。

 それは一回見た。 引き付けた後に旋回で躱し、アンカーが重なった所を纏めて撃ち抜く。

 ワイヤーは固いがアンカー本体はそこまでではないようだ。 直接当てればどうにでもなる。


 ――執拗にアンカーで拘束を狙って来るな?


 動きを止めたいという事は当て辛い大砲を隠し持っている?

 いや、さっきのレールガンで充分か。 


 ――あぁ、余り良くないな。


 変に思考する為の余裕がある分、余計な事を考えてしまう。

 アンカーの出所を見ると同じデザインの機体が音もなくまたビルの陰へ。

 鬱陶しいが、また一つはっきりした。 敵機は複数いる。


 分身しているのか、ドローンなどを用いて複数いるように見せているか。

 ヨシナリの感覚としては後者の可能性が高い。 特にあのひらひらした被り物が怪しいかった。

 輪郭がはっきりしないのは中にドローンしか入っていないから撃ち抜いても手応えがなかったと考えれば説明が付くからだ。


 ――だったら分身を全部潰してしまえば本体が出張らざるを得ないよなぁ!


 動体反応を検知。 即座にアシンメトリーで撃ち抜く。

 胴体らしき部分に命中。 例によって手応えがなく、敵機は構わずにアンカーを飛ばしてくる。

 引き付けて急加速で正面突破。 スラスターで微調整はしているが、急な動きの変調に付いて来れていない。 明らかに自動操作だ。


 恐らくはロックオンした場所を狙って自動で飛んでいくようにできているのだろう。

 ビルの陰に入る前に敵機の首を掴むが手応えが全くない。 

 裾を掴んでめくり上げると中身は空で球状のドローン三基が頭部、胴体二か所を押し上げる事で形を作っているだけだった。 


 内、胴体部分を担当している二基にはアンカーが内蔵されていたが、残り一基には何もない。


 『テクニカル。 女性の服を剥ぎ取るなんて嫌らしい男だな』


 何とでも言えと思いながら無装備のドローンを掴んで握り潰すと、残りの二基は制御を失って落下。

 なるほど。 三基でワンセットという訳か。


 『ジャッカル。 バレてしまっては仕方がないな。 ここからは少し乱暴に行こう』


 そんな声と同時にヨシナリを包囲するように動体反応が――九つ。


 「多いな!」


 あちこちから同じデザインの機体――に偽装したドローン群が現れる。

 そこでヨシナリの脳裏に理解が広がった。 

 どうやらこいつはさっきまでせっせとドローンを撒いていたようだ。


 九機全てがアンカーを同時発射。 躱すなら上だ。

 反射的に上昇しかけてぐっと踏みとどまる。 何故ならここまで周到に準備している奴が、こんな分かり易い逃げ道を残すかといった疑問があったからだ。


 ――相手の思考を上回らないと手玉に取られて終わる。


 ここは上ではなく突破を狙う。 ヨシナリは上ではなく下に活路を見出すべく降下。

 地面スレスレを這うように飛んでアンカーを躱す。 


 『ロジカル! 冷静だな。 だが、まだまだ甘い』


 上から更に無数の動体反応。 数は二十以上。 

 射出されたアンカーだ。 ちらりと空を見上げると夜空から滲み出るように無数の敵機が湧いてくる。


 「やっぱり上に伏せてやがったか」 


 全部で十。 地上より多く配置している時点で上に逃げるように誘導していたのは明らかだ。


 『ティピカル。 そろそろ詰みだ』


 不意に通り過ぎようとしてビルが破壊され、中から敵機が飛び出してきた。

 咄嗟に反撃しようとしたが、上と周囲からアンカーが飛んできている状況でまともに身動きが取れない。 

 明らかに目の前の敵機が本体だ。 


 中身がスカスカのドローンではビルを突き破るなんて真似は不可能。

 つまりあの機体には中身が詰まっている。 

 本来なら待ってましたと迎撃したいところだが、状況がそれを許してくれなかった。

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