母の仕事先の同僚たちと会うのはこの日が初めてだった。なかには息子さんがいらしたなんて聞いたことがなかったと云う者までいて、ジョニーはどんな顔をすればいいのかわからず俯いた。こんな吃りの息子など、誰にも紹介する気はなかったということか。
ほとんど酒代のために働いていた母の死因は過労と、風邪をこじらせたうえに起こした肺炎だった。最後までわかりあえなかった母の葬儀は、ジョニーが他人事のように見ている前で淡々と進んでいった。
隣にはロザリーが寄り添っていた。ロザリーは
だが、ジョニーがそれを厭なはずがなかった。
仕事はしばらく休みを取った。ジョニーはそのあいだに母の遺品や不用品を処分し、家屋の傷んだところを修繕した。壁も塗り直し、カーテンやソファのスローも新しく買ったものに交換すると、家の中の雰囲気はがらりと変わった。
ジョニーは、葬儀のときに云ったこと、嘘じゃなく本当になってほしい、とロザリーに伝えた。ロザリーは、私、本当は途中から嘘って気がしてなかったの、と笑った。ジョニーはロザリーの手を握り、慈しむような優しいキスをした。
そして、いつものようにジーンズ姿のロザリーが、少しの荷物と一緒にやってきた。これから一緒に暮らすのだ。
「おじゃまします」
「きょ、今日から君の家だよ」
「ふふ、そうだった」
ジョニーはロザリーの頬に軽く口吻け、ベルトが二本掛かった革のトランクを持った。ロザリーも小さめのバゲージを運び入れながら「そのトランク、中身はぜんぶ服なの。ワードローブはどこ?」と尋ねた。
「二階だよ。き、君の部屋」
お先にどうぞ、とジョニーはロザリーを階段へと促した。
「すごい。前に来たときとずいぶん変わったのね。素敵」
ロザリーはうっすらと灰色がかった淡い黄緑色の壁や、ダマスク模様のカーテンを見て華やぐような笑顔を見せた。
「う、うん。俺もき、気分転換になって、よかったんだ」
真新しい小花模様のベッドスプレッドやクッション、そしてこれまでにはなかったドレッサーをひとつひとつ確かめるように、ロザリーは部屋の中を一周した。
「これ、私のために? ……嬉しいわジョニー、ありがとう」
ハグをし、しかしロザリーは少し途惑ったような表情でジョニーを見上げた。
「でも、どうして私の部屋にベッドが? ……やっぱり、営み無しなのに一緒に寝るのは無理?」
その質問に、ジョニーは慌てて首を横に振った。
「ち、ち、違うよ。お、俺は一緒に眠りたいよ。き、君が別のほうがぐっすりね、眠れるのかなって思って……」
「ほんと? じゃあ、ジョニー。あなたのお部屋もあとで見せてね」
「も、もちろん」
そう云うとロザリーは、早速トランクを開けて荷物を片付け始めた。
「大きなワードローブね。余っちゃう」
ジョニーは、ロザリーが洋服をワードローブにしまうのを笑みを浮かべ眺めていたが、トランクの中に下着らしきものが見え、「し、
「ありがとう。……ね、ほら見て。いつもこんな恰好ばかりだけど、いちおうこんな服も持ってるのよ。似合う?」
その声にジョニーは廊下で振り返り――どくんと打った心臓の音を聞きながら目を瞠った。
ロザリーは得意げな顔で、赤いワンピースドレスを肩から当て、踊るように躰を揺らしていた。不規則に散らばった細かなドット模様はまるで夜空に瞬く星のよう、そして華やかなフリルや広がった裾は溢れ出る血のようで――
頭のなかに、これまでに殺した女たちの姿が瞬いた。
「……ろ、ろろ、ロザリー……」
微笑むロザリーからじりじりと後退り、ジョニーは背後のドアにぴたりと背をつけ、立ち竦んだ。
「……お、おお、おねがいがある。た、頼むからお、俺の前では赤はき、着ないでくれ――」
不思議そうに小首を傾げるロザリーから隠れるように、ジョニーはドアを開け、部屋に飛びこんだ。
ばたんと音をたて、ドアを後ろ手に閉める。子供の頃から使っているベッド、デスクに小ぶりなチェスト――ついさっきまで居たジョニーの部屋には、つけっぱなしのラジオから音楽が流れていた。ボリュームを絞ったラジオから聴こえているのは、〝
オーケストラとメロトロン、そして嘆きのようなコーラス。