瞬時に車内の空気が引き締まり、身体が臨戦体勢になる。
「だいぶ遠かったな……」
カイリが窓の際からそびえる警視庁の建物を
「建物の中からかな? 反響しててよくわからなかったね」
ジュニアの声にイチが振り返った。
「庁内? こんなところでぶっ放すなんてただのバカだろ。暴発とかじゃねぇの?」
銃声はよく風船の割れる音と間違えられたりする。
でも、聞き慣れたあたし達からすれば間違いようなんて無いくらい、はっきりと銃声だった。
……あんまり慣れたいものじゃ無いけどね。
「どうする? 出る? 出る?」
「カエちゃん。ワクワクし過ぎ」
リカコさんにたしなめられつつ駐車場入り口から目が離せない。
「気になるっ。たむたむ中にいるかな?」
LINEを開いてだいぶ下の方に追いやられてしまったたむたむのトーク画面を開いてみる。
「2発目とかは無いね」
動きの無い地下駐車場。ジュニアの一言に徐々に空気もだれてくる。
手に握るスマホが着信を知らせてきた。
「たむたむだ。もしもし?」
『香絵ちゃん? また本庁の中にいるの? 今物凄く立て込んでるから! 絶対にチョロチョロ動いちゃダメだよっ!』
電話の奥からも怒号が飛ぶ。
「たむたむ。何があったの? さっきのは銃声だったよね?」
『詳しくはわからないけど……。東田副総監が発砲したらしいんだ。
さっき、捜一の前の廊下を通ってっ、たまたまここに用事のあった女子鑑識官を人質にエレベーターに乗り込んだみたいで。とにかくっ、終わったら連絡するから大人しく隠れてて。いいねっ!』
一方的に通話が切れて、耳に虚しい無音が響く。
あたしに注目していたみんなに、大体の流れを伝え終え。
「あらあら、事情聴取に来た〈おじいさま〉の側近に
「ただのバカだったねー。エリートはストレスに弱いから」
リカコさんとジュニアに言われたい放題。
「エレベーターに乗ったんだろ? どこに出るつもりなんだろうな」
車内を振り返るカイリにジュニアが答える。
「正面からは出られないね。出たとしても、囲まれて逃走は不利。だとしたら、
リカコさんに視線を向ける。
「ええ。一昨日は白いセダンで廃工場に来ていたわ」
「来るね、ここ。捕まえたい人ぉっ!」
「はぁぁいっ!」
ニコニコと微笑むジュニアに、大きく手を挙げる。
「無理言わないの。周りは警察官だらけなのに手は出せないわ。大体捕まえたところで手錠もインシュロックも無いし、
呆れたようなリカコさんの言葉に、楽しそうにジュニアは運転席の下を指す。
「カイリ。そこのドラムバック引っ張り出して。
リカコ。インカム貸して。
備え付けの道具箱からドライバーを出すと、リカコさんの放り投げるインカムをキャッチ。
「なんでリカコさんのインカムなの?」
「コレはホストインカムだからね。周波数の設定ができるんだ」
パチンとインカムが2つに割れて、細かい部品の中のツマミを回す。
「確か、この辺り」
再びインカムを閉めるとゴホンゴホンと、わざとらしく咳払いをした。
「総員に告ぐ、総員に告ぐ。犯人は人質を盾に1階正面入り口に到達の模様。総員速やかに現場に集合し待機せよ。
なお、犯人は拳銃を所持している。注意されたし」
いつものふざけた軽い声ではなく、男の人を思わせる低くドッシリとした渋い声。
うん。ジュニアは男の人なんだけどね。
「さてと、上はしばらく持つでしょ」
いつもの声に戻って、リカコさんのインカムをポケットにしまった。
「動き出しちゃったから、クレームは受け付けませぇん。諦めてサクサク行きましょう」
膝立ちで宣言するジュニアに、リカコさんが頭を抱え、慣れた様子でカイリとイチが腰を上げる。
「このドラムバック。黒スーツとヤリあった時の?」
見覚えのあるバックに記憶が蘇る。
「そ。あの時の捕縛機。開けていいよ」
ジュニアの声に、勢いよくファスナーを開けた。
「うっわ。何これ? ロケットランチャー? どこで買ったの」
あたしの一言にバックを覗き込んだリカコさんが目を
「どこで買ったかなんて。聞きたいの?」
にぱぁっと笑うジュニアにちょっと引いちゃう。
「……やっぱり、いい」
「一応聞くけど、誰が撃つのよ」
「あたしやりたいっ!」
リカコさんの確認に、あたしはピシッと手を挙げるけど。
「ダメぇ。飛距離伸ばすために単発にしちゃったから、チャンスは1回だけ。撃つならリカコだね。
ライフル用のスコープ付けといたから問題ないでしょ?」
むぅ。銃火器は確かにリカコさんが一番上手。
「ライフル用スコープが付いてるならいいけど」
渋々と頷くリカコさんにジュニアは満足げに頷く。
「日の目が観れてよかったよ。作戦説明するからね」