本庁から、見慣れた景色の広がる地元の駅へ降りる。
結局こうなるっ! 結局こうなるぅぅっ!
「ここからは別行動ね。私とカイリはタクシーで一昨日の現場で吸い殻探し。
3人は寮で爆弾を搬入した防犯カメラの人物が工藤である証拠探し」
ぴこぴこっ。
LINEの着信にリカコさんがカバンからスマホを取り出す。
「あら」
くすっ。と小さく微笑んで、見せてくれたスマホの画面には数枚の写真。
「あ。東田……」
その画面に映る顔全体にはくっきりと赤く、菱形の網の跡。(笑)
「以上、葵ちゃんからのお知らせ。無事確保されたみたいね」
「ププッ。やっぱり距離が近かったね。まぁ、首を持っていかれなかっただけでもラッキーかな」
「ジュニア……。
イチに続いてリカコさんが思い出したようにクレームを入れた。
「そもそも100メートル先の人間を捕縛する程の威力はいらないでしょう? トリガー引いたら衝撃で私が吹き飛んだんだけどっ!」
「尻餅ついてたね。
大きなお尻がまた大きくなっちゃうねー」
「そんなに大きくないっ! そもそも一言多いのよっっ!」
リカコさんの振り上げるカバンをジュニアが余裕でかわした。
「ユースレス……。ほら、行くぞリカコ。ジュニアに一撃食らわせるには修行が足りな過ぎるよ」
残念そうに首を振るカイリに肩を押されて、リカコさんが連行されていく。
「行ってらっさぁい。さてと。あたし達も寮に帰ろうか」
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パソコンの画面を睨み続けること一時間……も経ってないかな。
いい加減飽きた。
「んー。やっぱり身の隠し方がうまいな。2人を拉致った時もそうだったけど、防犯カメラの位置を把握してて、映り込まないように動いてるんだ」
ジュニアが切り替える、爆弾搬入犯の映像はわずかに5回。
表門に入ってきた時の車、入り口を通る帽子にメガネにマスク。
同様に帰る時、そして室内の廊下に映る頬から肩に掛けての右半身。
「これはどうにもならないね。カイリ班のタバコの吸い殻回収にかけるしか無いや」
ジュニアもマウスを離して椅子に反り返る。
「指紋が一致しても6月4日当日にバンを使ってた証拠にはならないか。後は物証を並べて、
イチもパソコンデスクから離れてソファーに腰を下ろす。
「カエ。スマホ鳴ってる」
そんなイチの視線の先には、あたしのカバン。
「リカコさん?」
『こっちは、一応吸い殻の回収は終わり。同じ銘柄の物と、新しそうな物とでいくつか回収してきたわ。そっちはどう?』
「んー。残念なお知らせしか出来ないよ。ほとんど防犯カメラにも映ってないんだもん。
顔認証システムに掛けた、行き帰りの顔を隠したい画像と、社内の廊下でちらっと映るほっぺから肩にかけての正面。
ジュニアが、隠れるのがうま過ぎるって」
うん。
スマホの中で、リカコさんが小さく頷く。
『ほっぺから、肩か』
「うん。顔も3分の1くらいしか映ってなかった」
ジッと何かを考えているのが伝わってくる。
『カエちゃん。ちょっとスピーカーにして』
リカコさんの声に、画面を操作する。
「いいよ」
『ジュニア。社内で映った男の顔、耳は映ってる?』
「耳?」
放り出したマウスに再び手を当てて画面をめくって行く。
「ああっ。なるほどね。OKいけそう。
流石、我らがリカコお姉様。亀の甲より年の功」
また余計なこと言ってる。
『褒めてない、絶対褒めてない。ここの一件は収束するけど、次の内偵では背中注意して動きなさい』
『こらこら
電話の奥から、カイリの呆れた声が小さく聞こえてくる。
『俺たちはこのまま巽さん所に吸い殻の鑑定依頼してくるから、ジュニアは?
資料まとめておけって。頼んだぞ』
カイリがリカコさんと電話を代わって、通話が終わった。
「もぅっ。なんでジュニアはリカコさん怒らせるようなことするの?」
「えー。なんでだろ? つい、やりたくなっちゃうんだよね」
にこーっと裏のある笑顔を見せる。
「それより、耳。なんの事だ?」
イチもパソコン画面を覗き込み、拡大された耳を見る。
「耳の形ってね、指紋と同じように個人を特定出来るんだ。特に外周って言うのかな? 内側に丸まっているこの部分は個人差がはっきり出るみたい」
ふむふむ。
確かにイチとジュニアの耳の形も全然違う。
「こんな防犯カメラの荒い画像からで大丈夫なの?」
「ピースした写真から指紋が抜き取られるご時世ですよっと。問題ないね」
ジュニアの操作で、荒い画像がどんどん鮮明になっていく。
「爆発の火事と、その消化活動でダメになった映像も多かったって葵ちゃんも言ってたし、情報提供には申し分ないでしょ。耳の照合は本人のものと直接合わせて貰えばいいし」
処理が終わったことを知らせるテロップをジュニアがポチる。
「東田も逮捕されたし、これで
「とりあえず、一件落着ぅ!」
イチのホッとした声に、あたしも両手を大バンザイ。
『お疲れさんっ!』
3つの拳がコツッと交わった。