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第50話

「王都とロルクアの町の間とはなあ」

「依頼をしている身としては意外でもないけどな?」

 御者台に座っているイフリーがポロっとそんなことを零す。あたしとしては特に気になる点はないので肩を竦めながら返していた。

「そうなのー?」

「ああ。ゴブリンもオーガもどちらかと言えば賢い部類に入るだろ? 人間の町……集落の近くへやってくることが多いんだ」

「ほう、あやつらも適当ではないのか」


 ノルム爺さんは顎髭を撫でながら興味深げに頷く。

 人間を主食にしてはいないけど、死んだ者は動物と同じなので食うことはある。が、基本は動物や魔物を狩る。

 そしてギルドは増えた魔物などを倒すよう依頼する。それの意味するところは『狩場がバッティングする』ということだ。

 この前のゴブリンのように森の少し深いところに住むタイプが多いけど、割と狩場は被っていたりするんだよね。


「なるほどのう。ワシらがまだ聖女に仕えていない時はどこにでもいた気がするわい」

「これも時代かねー」

「はは、歳より臭いよシルファー」

「年寄りは年寄りかもだよー」


 そういえばどれくらい前から生きているのかな? そんな話をしていると、目的地付近へ近づいてきた。


「報告と依頼はこの辺りだな……」

「エルゴさん、慎重に行きましょう」


 地図を確認しながらエルゴさんが周囲を確認する。冒険者も警戒しながら言う。

 さすがに嘘の依頼はしないだろうから間違いなくいるんだろうな、と思いながらあたしも顔を覗かせる。

 森まで二時間ほどかかっているため、もうすぐ昼時だ。水と食料は持ってきているけど早めに見つけたいところである。

 依頼は迅速に見つけて処理するのが生き残るコツだと親父が良く言っていたのを思い出す。


「そろそろ中層か……この辺りのはずだが」


 中層、ということはそれなりに奥まった場所へ入ったということになる。

 少し薄暗くなってきたのがそれを物語っていた。


 さらにそこから十五分――


「グルル……」

「……! 居た、オーガだ」

「みな、音を立てないように。一応、報告通りのようだ」

「さて、どうするか」


 馬に乗ったまま木陰に隠れるあたし達。森の中で馬車は目立つけど、聖女の移動にはこれをと言われて仕方なく乗っている。

 まあ先に見つけられたのは良かったかも。

 視線の先にオーガが五体見える。対するこちらの数はあたし達を含めて十九人。

 数だけなら勝っているけど、オーガの一体の力は相当なものなので丁度いいくらいだな。


「聖女様とイフリー達は後衛をお願いします。私が先行する。三人ついて来てくれ。残りは五人ずつパーティを組もう」

「了解」

「お、手早い」


 流石はギルドマスターという指示を出すエルゴさん。自分のパーティは四人で、残りは近接と魔法が得意なメンバーを振り分けていた。


「アリア、すまないけど俺はエルゴのパーティに入るぜ」

「ええ、頑張ってください」

「いいのか?」


 そこでイフリーがあたしに頭を下げてからエルゴさんの横へ行く。人数が少ないところなので丁度いいと許可をしておく。

 メンバーが決まったところで静かに散開し、オーガを取り囲むように移動を始める。不意打ちなら首を落として勝負が決まるけど――


「……ふむ、ワシは単独で動いてもいいかのう? シルファーとディーネがおればなんとかなるじゃろ」

「ノルム爺さん? あたしは構わないけど」

「なんかあるのー?」

「なに、念のためじゃ」


 そう言ってノルム爺さんは片手を上げてスッと消える。土の精霊だけあって周囲に溶け込むのが上手い。


「ま、冒険者さん達が倒してくれるのを待とうか。アレくらいならイフリーが居ればいけるだろうし、様子見かな」

「魔法の特訓成果が出せると思ったけど、まあ遊びじゃないしな」

「あ、行きましたよ!」


 折角だし魔法で戦ってみるかとも思ったけど、ここは本職……あたしもだけど、彼等に任せるとしよう。

 ディーネが声を上げたその瞬間、エルゴさんのパーティが躍り出るところだった。


「つぉりゃぁぁぁ!」

「おお、気合が入っているな! いつものエルゴさんとは大違いだ」

「だねー。気弱な感じの人かと思ったけど、武器もバトルアクスだし実は好戦的だったりしてねー」

「そういや嫌がらせを受けてるんだっけ。なにが原因なんだろうな」

「言葉遣い。……でもそうですね、聖殿に愚痴の一つでも言いに来てくれれば分かると思うのですが」


 エルゴさんの気迫にあたし達は感嘆の声を上げていた。いつもの様子はなりを潜め、大振りだけど力強い一撃は見ていて気持ちが良かった。

 そこで嫌がらせを受けている理由がふと気になったので呟くと、ディーネが謁見に来ればいいのにと珍しく面白いことを口にしていた。


「お、イフリーがオーガの胸に一撃入れたぞ! ってそのまま焼くのか、エグイな……」

「あれが炎の精霊の力だねー。魔法と違いノータイムで炎を出せるから隙がないんだよー。お、他のパーティも奇襲をかけたねー」

「これはなんとかなりそうですね」


 ディーネの言う通り、最初のアタックで一体倒したのでオーガがびっくりして怯んだのは大きい。

 それにより他のパーティもスムーズに攻撃に移行できていたからだ。それでも適当に振り回した棍棒は冒険者の盾をひしゃげさせ、吹き飛ばす。


「やったな……!」

「グォァァァァ!」

「ぐう……! まだまだ……!」


 それでも戦意は失っておらず、立ち上がって血を吐くとまた攻撃を仕掛けに駆け出す。

 あまり強くない冒険者ばかりが残ったと言っていたけど、中々どうして根性があるやつばかりのようだ。


「……! 右、気を付けて! 〈ファイアアロー〉」

「グアァァア!?」

「た、助かりました聖女様! くらえ!」


 別のパーティと戦っているオーガが死角から襲い掛かろうとしていたので、咄嗟に魔法を放った。見事、肩と胴体に刺さり対処できた。


「ふう」

「おー、やるねー」

「魔法も上手くなりましたし、聖女としての一歩は確実に進んでいます」

「いや、あたしは目指してないから……」


 そんな話をしながら周囲に目を光らせていた。

 イフリーが参戦しているためそれほど危ないとは感じない。

 残り三体。このまま終わる。そう思っていると――


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