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サンクチュアリ・ネミリア大聖堂
プレミアムウエディングフェア・開催中☆
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────女神のご加護を お二人に
厳格で神聖なホールで彩る祝福の時間
純白の壁・夜空のステンドグラスが
お二人のprecious・weddingを実現
──星空が祝福を降らす中
永遠の愛を誓いませんか?
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※ ロイヤルまたはアッパーの爵位が必要です
────
聖堂の中庭。
手入れされた鮮やかな緑を茂らせる生垣と咲き誇る花々・吹き抜けのテラス。
8月の、燦々としながらも柔らかな日差しを綺麗に避けて、彼らは二人、テーブルに着いて花園を背負う。
盟主・エルヴィス・ディン・オリオン。
皇女・キャロライン・フォンティーヌ・リクリシア。
彼らをもてなすのは気品漂う茶器。
淹れたての珈琲が香りよく辺りを包み込み、王室御用達のパティシエが作るスイーツが、銀素材のスタンドを華々しく飾る。
そう。それはお茶会。
誰がどう見ても優雅でエレガンスなひと時。
シルクの様な銀の髪を持つ皇女と、彫刻のような顔だちをしている盟主。美と美の合わせ技。並んだ二人を絵画に収めたいと申し出る絵師は後を絶たない。
そんな彼らが向かい合い語られる話題は──────もちろん
「────キャロライン。まず、魔具の普及率だけど。あれは俺たちの間で大きな誤算があった。一般人における魔具普及率は国連が認識しているような数字じゃない。今調査を入れている最中だけど……、……実態は、もっと低いと見ている」
「その正確な数字はいつ出るかしら? 事実をもとに予想を立てなければならないわよね?」
「……そうだな……こちらに関しては、連盟で足を揃えるべきだろう?」
「そうね、その通りだわ。少々骨が折れるけれど、手配させましょう。魔具の便利さについては貴族を中心に広まっているから……火事などを防ぐためにも早めの浸透を目指したいわね?」
戦略会議である。
遠目から見れば『キャロライン様……、本日もお綺麗で。僕の胸は高鳴っています』だとか『あらエルヴィス……、貴方も素敵よ?』だとか愛を育んでいそう─────なのだが。
テーブルの上いっぱいに広がるのは資料。
耳に入るは小鳥のさえずりではなく、バサバサという紙の音。
用意された珈琲も焼き菓子も邪魔にならないように除け者状態。
ロマンも愛情もなにもなかった。
エルヴィスは用意した資料を真剣に読み込み、キャロラインは腕を伸ばして淹れたてのコーヒーをひとくち。そして彼女は、深紅の瞳を資料から離さず口を開け、凛としながらも圧のある声を張る。
「……ねえエルヴィス。調査件数は────まさか
「まさか。連盟三国、全件調査するなんて骨だろ。どの程度のサンプルを取ればいいかは、統計学者に聞いた方が適切じゃないか?」
「そうね。調査用紙はこちらで用意しましょう。最新の
「────あれ、買ったのか?」
「ええ。4台ほど」
「どうだった?」
「損はしないわ、お勧めするわよ?」
流れるような会話の中、挟み込まれた雑談も交わす彼らは、かつての級友である。
王家・貴族の集まるロイヤルスクールで共に学び、今や盟主と皇女という立場になった。学生時代は互いにライバルのような存在であったが、それも彼らの『縁の形』。互いが互いを、それでよしとしていた。
しかしいくら『級友の仲』で『お互いがそれで良しとしている』とはいえ、監視の老中や侍女がいる中、この態度でやりとりするなど到底できるわけがない。
キャロラインはキャロラインで『気品漂う皇女様』を演じなければならないし、エルヴィスはエルヴィスで『同盟領の盟主』で居続けなければならない。
その、やりにくいこと。
夏の花園・日陰とはいえ、じんわりしたと暑さを感じ、首筋にまとわりつく汗をひそかに拭うエルヴィスの前。キャロライン王女は、ばさばさと資料の中から一枚、羊皮紙を抜き出すと
「それで。次の議題は『連合国内における女性の人権問題』ね。……貴方に出してもらった資料見ているけれど、」
「おーそくなってすまん!」
キャロラインの声を遮って、少々慌てた声が聖堂の花園に響いた。盟主と皇女、二人が揃って目を向ける中、足早に近寄ってくるのは一人の男。
年の頃なら20代半ば。
金の髪をゆるく縛り上げ、長めの前髪から新緑の瞳を覗かせる。国のカラー・青の公服をまとった──彼の名は『リチャード・フォン・フィリッツ』。
三国国際連盟・アルツェン・ビルドの第一王子である。
どちらかというと面長で、優しい瞳の持ち主だ。
────そう。
盟主でありスパイのエルヴィスに、まるで『年配の男性が若い女性に贈るような文面』で依頼を出してきた、あの男である。
聖堂の花園を『のっしのっし』と突っ切りながら『すまんすまん!』と手を振るリチャードに、エルヴィスとキャロライン、二人の呆れに満ちた視線が注がれる。
「…………遅いぞ、リチャード」
「貴方ね。この前も遅れてきたじゃない」
「わーるかったって! そう睨むなよキャロル! ”皇女さま”は〜、微笑んでいたほうがいいと思うぞぉ〜?」
「────余計なお世話よっ!」
「……いいから座ってくれ、リチャード。早く話を進めたい」
「はいはーい」
先にいた二人に怒りと呆れで迎え入れられ、金髪・
太古の昔、ネム・ミリアが眠ったという大聖堂の花園。
円卓を囲むこの三人──いや、三国は『シルクメイル地方ネム連合国』として協定を組み、同じ神を讃える国同士、目指す未来を共にしていた。
各国それぞれ、彼らの親は早々に亡くなり、正当な王位に就ける30を迎えるまで『次期
「────でー? 今、なんの議題だったんだ?」
円卓にかけ目配せをしながら資料を出すリチャードに、じろりと目を向けるのはキャロライン皇女だ。真紅の瞳でリチャードを睨み射ると、
「『連合国内における女性の人権問題』よ」
「あぁ〜、資料読ませてもらったよ。……エルヴィス〜、おまえさんとこ、もう少しなんとかならないかぁ?」
「────やっているよ、リチャード。俺の親の政策を知っているだろう? ……根が深いんだ」
「私たち三国は、足並みを揃えるべきだわ? エルヴィスにはもっと早く結果を出して貰いたいのだけど」
花園の円卓。
息をつくエルヴィスに、キャロラインのツンとした声が飛ぶ。
しかし、それに眉をくねらせ、あごを撫でるのはリチャードだ。
資料に目を滑らせながら唇を上げつつ口を開くと、
「んん〜? そういうキャロルのとこも、芳しいとは言えないんじゃないか〜? 去年より落ちてるぞ?」
「──っ! …………うちは! …………ごく最近まで継承戦争の後を引いていたの! それどころじゃ、なかったのよっ」
「いや〜〜〜、それにしても、結果がねえ〜
ムキになるキャロライン皇女を視界の隅に、リチャード王子はガリガリと後ろ頭をかく。そんな二人にエルヴィス盟主はその重い口を開くと、ため息交じりに言い放った。
「…………どうにかしたいのはどこも同じだ。けれど、染み付いた価値観はなかなか変わらない。……少なくとも30年は見ておいた方がいい」
「そうなんだがなぁ〜、わかってるんだがなあ〜」
「私としては、エルヴィス? 貴方のところの『女性の労働に対する男性の意識レベル』については、早急に対処したほうがいいと思うの。才のある女性が埋もれてしまうわ。国としても、宝の持ち腐れよ?」
「…………ううぅーん」
資料を見ながら言うキャロラインに難しい顔で唸るのはリチャードである。
はぁーとため息をつきながら、ぐいーんと背を逸らして
「……『才ある女性』ねえ〜。『さいのう』が外から見えたらいいんだがなあ〜、なあ? エルヴィス?」
「…………俺に同意を求めるな」
「そういう魔具とかないのか?」
「……あるわけないだろ」
辟易とエルヴィス。そこにキャロラインの針が飛ぶ。
「エルヴィス。リチャード。貴方たち、真剣に考えているの? 貴方たちの国の『女性の労働に対する意識調査』の回答は見たの?」
((────しまった))
資料を手元に火のついたようにしゃべり出すキャロルに、男二人は制止した。しかしキャロルは止まらない。
「『……家に入って当然』『家事はおろそかにしないことが前提』『女には針仕事ぐらいしかできない』……。……はあッ……! ……50過ぎの彼らを侮辱したくはないけれど、言いたくもなるわよ。どうしてわからないのかしら。『もう、そのような時代ではない』ということを。──
『…………』
ぎろりと睨み上げ、八つ当たりのようにくぎを刺すキャロルに──男二人は黙り込み、そっと目くばせで息をつく。
軍事から産業へ。
男子優遇から男女平等へ。
変わりゆく時代の中で、『これから』を生きるために。
トップが知識を出し合い、改善を促しているが、これがまた『難しい』のだ。
去年と代わり映えのない資料を前に、公国の王子・リチャードは呆れまじりのため息をつくと、こめかみをカリカリ掻きながら口を開ける。
「……んん〜、まあ、どこの国も大まかな動きは一緒だな?」
「……そうだな。若い貴族を中心に、少しずつ変わっては居るが」
「問題なのは50代以上ね。……頭の硬さはどうにかならないのかしら」
資料を睨みながら、赤い瞳をキリッと尖らせるキャロライン。
そんな彼女に──エルヴィスは、深い深い息を吐き──……