目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第38話 『スピリット・アドバンス』



 『白の死神』の、異名の由来。

 それは・・・白い見た目をしていることと、モンスターの中で一番、──人を殺していることにある。

 これは、創設してから約五百年以上の歴史を持つ冒険者ギルドの、『"確認された"死亡者リスト』なのだが。

 ダンジョンでの合計死亡者数は、約五百万人。

 そして、その半数である約二百五十万人が、白の死神によって殺されて死んだのだ。


 これを知ったとき僕は、心底恐ろしかった。

 だってそうだろう?

 冒険者はこんな危険なところに、わざわざ夢を見てやってくるのだから……。

 少なからず今の僕には理解出来ないし、今後も理解することが無いと思う。


 と……そんな白の死神について、僕が聞いたとき。

 僕達は、青草の茂みから向けられている、赤い瞳と小さな殺気に気がついた。


「「「「「───っ!?」」」」」


 そんな僕達は一斉に、武器を構えて臨戦態勢に入る。


「神器解放・魔術の神輪ヘカテイア


『プープー……プープー……』


 音とも捉えられる、そんか鳴き声が聞こえてきた。

 それは乱雑的に増殖していき、──僕達を囲んだ。


『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』『プープー』


 仕切りに鳴く音。

 それは狂気的で、死を直感させる。

 ──バサバサ。

 ハネを震わす音が聞こた。


「あははは……こりゃあ厄介っすね……」


「あぁ……下手したら、エリアボスより厄介だ……」


「むしろ、エリアボスが可愛く見えるわい……」


「ここまで来るとは……流石に騒ぎ過ぎたかのう……」


「これ……ボクも神器解放した方が良いよね……?」


 みんなのこの反応……間違いない、コイツラが白の死神の異名を持つモンスター、ラビバード。

 二百五十万人以上の冒険者を葬り去って来た、このダンジョンの最凶の死神だ。


 怖い……恐い……。

 でも、何でか出来る気がする……。


「いや、僕が一人で戦うよ……」


 プロメテウスに……みんなに向けて言った。

 そんな格好付けな僕は、一歩前に出るとパーカーのチャックを閉めて、パーカーのフードを深く被る。


「なっ!? ハルトは魔法の詠唱が必要では無いか! そんな無謀は、この余が許さぬぞ!」


「ワシも反対じゃ。ここはプロメテウスに、神器で一掃して貰った方が良い。というか……ラビバードと出逢ってしまったときは、その予定だったのじゃ」


 あはは……やっぱり、ヘファイストスさんとアルテミスさんには敵わないや。

 だって、優し過ぎるんだもん。

 まだ会って一ヶ月しか経って無いのに、こんなにも同じ仲間の一人として、大事に想ってくれている。

 その想い一つで僕の心がポカポカになって、少しだけ頑張ってみようって、そんな気になれるんです。


 だからこそ、──逃げる訳にはいかない。


 ここでみんなの力を借りてしまったら僕は・・・

 僕だけが頼りの状況で、みんなのことを助けることが出来なくなってしまう様な、そんな気がするから……。


 それに……


「僕にはアレがあります。大丈夫」


 鳴き声が未だに間断なく聞こえ、鳴き声は時が経つに連れて徐々に大きくなっていく。

 鳴き声が耳にキンキンと響く中で、僕の声が聞こえたらしいエマが反応を示す。


「ふむ、アレを使うのか……」


 顎に手を当てて考えるエマ。

 その様子から、多少の不安が省みられる。

 だからこそ僕は、エマを不安にさせないように、力強く宣言してみせるのだ。


「うん! だから僕、絶対に負けないよ!」


 僕の言葉を聞いたエマは、クスッと笑って頷く。

 他のみんなは、何が何か分からず困惑している。


「ふふっ……そうか、分かった。私達はハルトのことを、信じている。だからハルトも、私達のことを信じて全力で戦ってくれ。ハルトなら出来る。そう、信じてるぞ」


 そう言ったエマは、みんなに大声で指示を出す。


「ハルトが出来ると言った! ならばっ、私達はハルトを信じて見守ろう!!」


 その言葉を聞いて……

 ──笑顔のプロメテウスとアキレウス。

 ──頭を抑え呆れている、ヘファイストスさんとアルテミスさん。

 そうして五人は、それぞれが僕に言葉を残していく。


「ハルトなら余裕だよ! 知らんけど!」


「ワンパンっすよ、ワンパン! 知らんすけど!」


「うん、こんなのに遅れは取らないよ!」


 ニヒッ。そう微笑んだ二人が退却した。


「まったく……これだから家の男子おのこ共は……ハルト、負けることは余が許さぬぞ」


「ワシも許さんからな? 負けたらお尻ペンペンだわい」


 相変わらずツンデレ全開なアルテミスさんと、お尻を叩くジェスチャーをするヘファイストスさん。

 そんな二人は、僕の頭を撫でると退却した。


「ハルト。・・・勝て」


「了解、団長」


 僕に命令したエマが退却した。

 ココに居るのは、僕とラビバードのみ……。


 そしてこのとき・・・

 ラビバードの鳴き声が、ピタリと止まった。

 本気モードの僕は、深呼吸して落ち着いた。


 約三秒の静寂。

 それを過ごした僕の視界には・・・

 溢れんばかりの、──白に埋め尽くされていた。


 この光景はまるで……雪崩込む雪の様……。

 しかし! それに僕は臆すること無く、自分の中に眠る五種の精霊に、開戦の合図を宣言する!


精霊合体スピリット・アドバンス!!」


ーーー


【世界観ちょい足しコーナー】


『ラビバード(食べれる)』

▶︎兎に羽生えた見た目で、30匹程度の群れを成している

▶︎羽の加速があることで、そのスピードは300kmを超える

▶︎蹴りや頭突きを多様してくる

▶︎攻撃力は低いものの、多段的に攻撃してくる

▶︎別名:白の死神

▶︎タンパクな肉で、さっぱりしている


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?