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カンチョー好きの兄、カンチョー嫌いな弟
カンチョー好きの兄、カンチョー嫌いな弟
結城刹那
文芸・その他ショートショート
2024年11月08日
公開日
2,266字
完結済
俺の兄はカンチョーが大好き。 そのため、弟の俺に毎日のようにカンチョーを仕掛けてくる。 だから俺はカンチョーが大嫌いだ。

本文

カンチョー好きの兄、カンチョー嫌いな弟

 俺の兄は『カンチョー』が大好きだ。


 カンチョー好きな兄を持った場合、弟は一体どうなるだろうか。


 そう、毎日カンチョーを喰らう羽目になるのだ。


 だから俺は『カンチョー』が大嫌いだ。


 兄の前で尻を見せようものなら、素早い動きで肛門を指で刺される。その痛さは経験したものにしか分からない。


 一度喰らって以降、俺は尻と兄との位置関係には十分な注意を払うことにした。


 うつ伏せで寝転びながらゲームをしている時、後ろに兄の気配を感じようものなら尻に力を入れて穴を隠す。


 階段を上っている時、後ろから兄が上ってこようものなら追いつかれないように駆け足で上る。


 そうして必死に兄のカンチョーを回避していたわけだが、一点だけどうしても回避できないシチュエーションがあった。


「っ!」


 朝。俺は下半身から響く痛みによって目を覚ました。


 あまりの痛みに寝転んだ状態で右往左往してしまう。俺の状態を見て嘲笑っているのか、隣から「キキッ、キキッ」と猿みたいな声が聞こえてくる。


 声のする方を覗くと兄の姿があった。嫌みたらしい笑みを浮かべている。


 どうやら、いつものように俺が寝ている所を狙ってカンチョーをしてきたらしい。


 怒りたい気持ちはあったものの、今日のカンチョーは奥の方まで入っていったようで激痛のあまり涙を流すことしかできなかった。


 悶える俺を見て満足したのか、兄は俺の寝ている部屋から出ていく。


 それからしばらく俺は痛みを抑えるように尻を押さえていた。


 どれだけ兄のカンチョーに気を配っていても、寝ている最中のカンチョーだけは避けることができなかった。


 一度だけ部屋に鍵をかけて寝たことがあるが、兄は小銭を使って部屋の鍵を開けて来やがった。


 もう、どうしろというのだろうか。


 ****


 いくらカンチョーが大好きな兄でも、高校生くらいになれば流石にやらなくなる。中学に上がった頃には、俺はカンチョーの地獄から解放されていた。


 時は流れ、俺が高校2年生になった時のことだ。


「痛ってぇ……」


 早朝。俺はリビングのソファーでぐったりしていた。


 起きてからお腹が尋常じゃなく痛いのだ。普段の腹痛なら、寝転びさえすれば痛みは引いてくれるのだが、今日の腹痛は全くと言っていいほど引いていかない。


 どれだけ時間が経っても、痛みが引いていく気配はなかった。


 今日は部活の大会がある。幸い、応援に行くだけなので、行かなくても支障はない。


『すみません。腹痛のため欠席します』とチャットで部長に伝える。すぐに承諾の連絡が来た。自分の入った部活がゴリゴリの体育会系でないことに心から安堵する。


 それから親に言ってかかりつけ医に診てもらうことにした。


「あぁ……お腹にガスが溜まりすぎてますね」


 俺のお腹のレントゲン写真を見ながら先生はそう言った。どうやら、お腹に異常に発生したガスが腹痛の原因だったようだ。


「これってどうしたら治るんですか?」


 正直、原因はどうでもいい。俺が知りたいのは痛みを治す方法だ。それを知りたく、前のめりになって先生に問いかける。


「そうですね。一番手っ取り早いのは『カンチョー』ですかね」


 医者の言葉に全身の毛が逆立つのを感じた。


 世界がスローモーションになったかのように長い静寂が続く。おそらく、俺の脳が今の状況を処理するのに苦労しているのだろう。


 前のめりになった体を元に戻し、手を頬に添え、もう一方の手を肘に添える。


「カンチョーですか?」


「はい、カンチョーです」


 聞き間違いかと思い、確認を取ると速攻で肯定された。


 今まで幾多の病気を治してくれた先生だが、今回ばかりは信用できなかった。


 俺が「それでお願いします」と言おうものならどうなるかを考えてみる。


 俺と先生が座っている隣にベッドがある。そこに俺がうつ伏せで寝転び、尻だけを突き出す。出っ張った尻に目掛けて先生が指をブッ刺し、お腹に溜まっていたガスがプスーっと音を立てて放出される。


 医療技術の進歩は一体どこにいってしまったのだろう。なぜ、腹痛を治すのにそんな古典的な方法を使わなければならないのだろうか。


 どうする。了承するべきだろうか。


 カンチョーの痛みは身をもって体験している。ガスを抜くということはそれ相応に奥の方まで指を入れることになるだろう。痛みは計り知れない。しかし、それをしなければ持続的な痛みと戦うことになる。


 一瞬の激痛か。持続的な痛みか。どちらを取るべきだろうか。


「あ、もしかして『カンチョー』を知りませんか」


 葛藤を抱いている俺に先生がそんなことを聞いてくる。


 カンチョーを知りませんか……だと。俺を舐めるなよ。知らないわけがない。絶対にあんたよりもたくさん体験してきている。


 そう思ったが、先生が教えてくれたカンチョーは俺の全く知らないものだった。


 その名も『浣腸』。お尻の肛門部に液体を流し込むことで腸を刺激し、動きを活発にしていくというものだ。


 自分の思っているカンチョーとは違うことが分かったところですぐに浣腸してもらうことにした。肛門にブッ刺されるのは同じだったが、浣腸の方はとても優しく俺の尻を突いてきた。


 液体を腸に浸透させるために、少しの間トイレに行くのを我慢しなければならないらしい。


 朝は全く便が出なかったので余裕だと思っていたが、浣腸された瞬間にすぐに便意を催した。我慢しきれず、1分も経たないうちにトイレに駆け込む。


 トイレを済ませると、あんなに辛かったお腹の痛みが一気に引いていった。


「はぁ……」


 世界が輝いて見え、思わず淫らな声を漏らしてしまう。


 ずっと大嫌いなカンチョーだったが、この日初めて俺はカンチョーを好きになったのだった。


<了>


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