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0043 レンとレイ

「何故だーー!!」

「沢山あるじゃないかーー!! 一つぐらいいいだろう!!」

「我々は、貴族だぞ!! 後悔することになるぞーー!!」


ヤマト商会には四十八体の鉄人ゴーレムが、執事とメイドの服を着て働いています。

御貴族様の集団は、それを売ってくれと言っているのです。

当然断っているのですが、聞き入れてもらえません。

正直困っています。


「なんと言われても、お断りいたします。うちは農産品のお店です。鉄人の販売はしていません」


「ぐぬぬ、このチビーー!! 下手に出ておればつけあがりおって!!」

「いい加減にしろーー! こっちはいくらでも払うと言っているんだーー!!」

「売ればいいじゃないかーー!!」

「もったいつけおってーー!!」


「私は、分身であるゴーレムは信頼できる人にしか渡したくありません。イサちゃん、お客様のお帰りです」


そろそろ、私の堪忍袋の緒も切れそうです。


「うわっ!! 動いたーー!!」


ヤマト商会の入り口の横で、紫の鎧を着けて微動だにしていなかったイサちゃんが、背中の大剣を引き抜きました。


「うふふ、うちの護衛は、神将ドウカンを倒したイサちゃんです。イサちゃんこの方達を斬り殺すのに何分かかりますか?」


「ふっ、何分もいりません。十秒もあれば充分です」


そう言ってから、イサちゃんは大剣をガチャリと音を立ててかまえました。


「お、俺達は貴族だ!! 出来るわけが無い!!!! ふざけるなーー!!」

「そうだ! そうだ! ふざけるな!!」

「そんな脅しが通じるかーー!!」


御貴族様はまだまだ強気です。

困りました。


「クスクス、イサ様かまいません、真っ二つにしてやって下さい。レイカ様に不敬を働いたのですから不敬罪です」


入り口からイオちゃんと侍女の三人、そして護衛の鉄人が入って来ました。

イオちゃんは、こめかみをヒクヒクさせながら笑顔で言いました。

結構怒っているみたいです。


「なにー、このアマ!! ふざけるなーー!!」

「そうだ、俺達を誰だと思っているのだ!!」

「まて……!!」

「まさか、この方は……!!」

「イオ王女様だーー!!」


イサちゃんは大剣を振りかぶります。

大剣の切っ先が、イサちゃんの怒りを表わすように不気味にぬらりと輝きました。


「ひ、ひーーーいっ!!!!」

「おおおっ!! こっ、こえーー!!」

「さすがイザミギ様だ!! 恐さの次元が違う!!」

「逃げろーー!! 殺されるぞーーーー!!!!」


イサちゃんの構えを見ると、威勢のよかった御貴族様の集団も震え上がって逃げて行きました。


「イオちゃん、助かりました」


「いいえ、むしろ我が国の者がご迷惑をおかけしました」


「ふふふふふ」


私達は逃げて行く御貴族様達の情けない姿を見て全員で笑い合いました。


「やあ、レイカ様! 貴族共が逃げて行きましたが、また何かやったのですか?」


ゾングさんが、やって来ました。


「何もしていませんよ」


何もしていないと言っているのに、イオちゃんがゾングさんに耳打ちをしました。


「ひゃはははは!! それは、見てみたかった」


「そんなことより、二人とも何の御用でしょうか?」


「うふふ、鉄人に付与する魔法のことです」


「うむ、私もその件で来ました」


「ああ、そうでしたね。決まったのですか?」


「はい!! 収納魔法です!!」


イオちゃんとゾングさんは、そろって同じだったようです。


「そうですか」


「…………」


イオちゃんとゾングさんがじっと固まったまま動きません。


「何をしているのですか? もう終わりましたよ」


「ええっ!!?? あっ、あの、もう終わったのですか?」


「はい」


「相変わらず、すごいですなあ。もっと、こう、なんかするのかと思いました」


ゾングさんは両手を広げて、頭の上に上げ前に降ろす仕草をしました。


「そのほうがよろしければ、何かしましょうか?」


「い、いいえ! それには及びません。ところで、どの程度の物が収納できるのでしょうか?」


ゾングさんは少しあせって否定すると、少し嬉しそうになって言いました。


「そうですね。王城くらいまでなら収納出来ます」


「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!!!」


イオちゃんとゾングさんが、大げさに驚いています。

まさか、少なすぎたのでしょうか?

限界がある時点で情けないと思っていたのですが、鉄人の魔力なのでそれくらいが限界です。


「ご、ごめんなさい。鉄人の魔力ではそれが限界です」


「な、何を言っているのですか。多すぎて驚いているのです。ほとんど無尽蔵に入る様なものです」


イオちゃんとゾングさんの声がそろいました。


「あ、そうだ」


私は、ゾングさんのやったように両手を広げて、頭の上に上げ両手をイオちゃんの鉄人の方に降ろす仕草をしました


「わあっ!!」


イオちゃんが瞳をキラキラ輝かせました。


「イオちゃんの鉄人が、アサちゃんの量産型の鉄人と同じでは区別が出来ません。姿を変えてみました、龍人タイプです。駄目なら戻しますが」


イオちゃんの鉄人の頭をアニメで見た、龍人の顔にして体の鎧にはうろこを付けてみました。


「いいえ。これがいいです。とても気に入りました」


「それは、よかったです」


「レイカ姉様、少し店内を見てもよろしいですか」


「どうぞ」


「レイカ様、私にも見せて下さい。そして、売れそうな物は仕入れさせて欲しい。少し行商に行くから、レンに持たせる」


「レン??」


「ああ、私の鉄人にはレンと名付けました」


「ええっ!! もっと、いい名前があるでしょうに」


「私の鉄人は、レイと名付けました」


イオちゃんが、とても嬉しそうです。


「いい名前ですなあ」


「ですよねえ。レンもとても良い名前です」


「はあぁぁーー」


私は深いため息が出ました。

後ろでチマちゃんとシノちゃん、ヒジリちゃんが、肩をふるわせています。

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