目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第33話 Sランクの力

「マックスの大好きなシミュレーターで戦ってもらいましょうね♡」


「別にシミュレーターが好きなわけではないんだけどね」


 もえきゅん☆の嫌味に、マックスが苦笑する。


 旧知の仲、といった雰囲気で話をしている2人を見ると、なんだが胸がチクチクする……。

 わたしはまだもえきゅん☆と出会ってから日が浅い。だから、もえきゅん☆のことを何も知らない。≪エンタープライズ≫でどんな立場なのか、どんな人とかかわってどんな会話をしているのか。誰と仲が良くて誰とそりが合わないのか。何も知らない。


 もっと知りたい。


 もえきゅん☆の特別な一番になりたい……。


「アクア様? 今の話、聞いてた?」


 もえきゅん☆がわたしの目の前で手を振っていた。


「え? なに? 聞いてなかったわ!」


「難しい顔してぼ~っとしてどうしたの? シミュレーターの基本設定どおりに対決しようねって話してたんだぞ♡」


「OK。つまりどちらかが戦闘不能か、降参した時点で決着ね?」


「僕のほうは異論ないよ。それでかまわない」


「2人とも同意したからそのルールで決定、っと♡」


 もえきゅん☆がシミュレーターを起動し、対戦者にわたしとマックスが指定される。


 同意。


 2人が同意すると、バーチャルフィールドが展開され始める。

 配信のドローンもつないで、視聴者にも戦闘が見えるように設定する。


「準備OKだぞ♡ じゃあ開始ボタン押すよ~」


 その言葉に、わたしもマックスも無言でうなずく。


 もえきゅん☆のためにも負けられない。

 ストーカー男にもえきゅん☆を渡さない!


「GO♡」


 戦闘開始。


 開始の合図がかかっても、マックスは大剣を担いだまま微動だにしない。


 わたしの攻撃を待ってるのね。

 それならまずは様子見!


「燃! 焔!」


 マックスに向かって投擲する。

 うちのフェニックスちゃんたちの速度についてこれるかしら⁉


 まずは左から燃、そして右から焔と時間差でマックスに襲い掛かる。


 もえきゅん☆のフルブーストのおかげか、2羽の速度が上がってる!

 間合いに入った! それでもマックスの大剣は動かない。


「とった!」


 燃が小さく鳴き、マックスを炎に包み込む。

 完璧にそのタイミングだった。


 しかし、マックスに接触する瞬間、燃が消滅した。

 マックスはさっきまでとまったく変わらず、大剣を担いだままそこに立っている。


「どういうこと……」


 慌てて≪rebirth≫し、焔を引っ込める。


 いったい何が起きた?

 マックスは回避行動も迎撃行動もとっていない。

 でも、燃の攻撃は当たっていない。しかも不可視の攻撃で倒された、としか考えられない。


“うぉ~マックスすげ~”

“見えなかった”

“何が起きた?”

“マックス動いたか?”

“見えてない”

“これがSランク”



 マックスは何かの迎撃手段を持っている。


 それが余裕ありげな態度の正体なのだろう。

 理由がわからないのにむやみに接敵するのはやばそうね。


「ごめんね、燃。もう1回だけお願い!」


 再び燃を投擲する。

 今度は不可視の攻撃の正体を見極める。


 燃をマックスとの距離5mほどで静止させる。


「咆哮!」


 遠距離からのファイヤーブレスだ。

 ダメージは与えられなくても、迎撃の仕方を見せてもらうわ!


「な、に?」


 ファイヤーブレスがマックスの体を焼き尽くしているように見える。が、マックスは微動だにしない。


「中止!」


 咆哮をやめさせ、状況を確認する。

 まったく攻撃が通っていない。耐えているという感じでもなく、当たっていない。


“火耐性?”

“いや、耐性でもノーダメージにはならんだろ”

“当たってないな”

“でも炎は当たってるよな?”

“でも当たってないよな”


 わからない。

 確かにファイヤーブレスはマックスの体を包み込んでいる。でも、ダメージは与えられていないようだ。


 ぐあっ。

 突然、背中に強い衝撃が走る。


 え、なに? 今斬られた⁉


 反射的に距離を取る。

 後ろには誰もいない。

 いまだマックスは微動だにしていない。


「なんなの……」


 でも今、たしかに何か攻撃を受けた。

 物理攻撃確率無効でダメージはない。でも、たしかに斬られた衝撃はあった。


“アクア様が攻撃された?”

“マックスは何もしてないよな”

“動いてないな”

“背中を斬られる瞬間見えたぜ。空気の衝撃で体が沈んでた”

“斬られたわけじゃないのか?”

“遠隔攻撃?”

“そこまではわからん。でも物理的に斬られてたのは確実”


 空気? 遠距離?

 攻撃動作や呪文詠唱もなしにそんなことができる?


 わたしはとっさにもえきゅん☆のほうを見る。

 でも、もえきゅん☆は無表情のまま何も答えてはくれない。


 戦いの最中に口出しはできない、よね……。

 わたしが自分で考えないと。


 マックスは動いていない。でも、黙っていると攻撃が来る。


 まず試せるのは後の線か。


 オートカウンター発動。


 静かに目を閉じて、不可視の攻撃に備える。

 それが物理攻撃なら当たる瞬間に反撃できる、はず。


 くるならこい!


 体が自動的に反応し、回転していくのを感じる。

 きた。背後だ。


 不可視の衝撃。オートカウンターが発動し、双剣をクロスさせて攻撃を受け止める。

 重いっ!


 オートカウンターでは受け止めるのが精いっぱい。跳ね返してからの反撃には至らない。

 これがパワーの差か。


“見えたか?”

“アクア様が見えない何かを受け止めた”

“アクア様見えてるのか?”

“あれはオートカウンターだな”

“双剣スキルの自動迎撃か。間合いでカウンター入れられる”

“でもやっぱり何も見えないし、マックスも動いてないな”


 でもさっきのあれは間違いなく大剣の一撃だった。

 しかも遠距離攻撃ではなく、直接攻撃。衝撃の重さから言ってマックス本人の攻撃とみて間違いないと思う。


 そこから導き出される結論は1つ。


 あそこに立っているマックスがダミーだ。


 でも、問題はまだある。

 本物のマックスがどこにいるのか見えていない。

 後の線のオートカウンターでは反撃できるほどパワーは出せない。


 このままだと攻撃を防ぐことはできるけれど、倒すことができない。


 どうする。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?