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第32話 マックス

「マックス。どういうつもりなのか説明しなさい」


 もえきゅん☆が厳しい表情を向ける。

 名前はマックスというらしい。

 サラサラの金髪と青い瞳が印象的なイケメン。海外の人なのかな。


「釣れないね。マイハニー」


 マックスは金髪をかき上げながら、流暢な日本語でしゃべった。


 マイハニーだって⁉

 もえきゅん☆どういうことなの⁉


「あなたのハニーになったつもりはないわよ。モエはアクア様のモノだから変な妄想はやめなさいね!」


 もえきゅん☆はわたしの背中に隠れるようにしながら、そう言った。

 えー、なんか痴話げんかに巻き込まれたっぽい……。


“マックス!元エンタープライズの幹部だ”

“なんかで追放されてたよな”

“悪いやつか?”

“イケメンいけ好かない”

“もえきゅん☆に馴れ馴れしいのが気に食わん”

“イケメン消えろ”


「コメント欄の人たちもあなたのことが嫌いですって~♡」


「イケメンなだけでここまで言われるのは……」


「だまされちゃダメよ! マックスはモエのストーカーをして≪エンタープライズ≫を追放されたのよ!」


「ストーカー⁉ 怖い!」


「おいおい、人聞きの悪い。君に勝てたら婚約してくれるというから、毎日対戦を申し込んでいただけじゃないか」


 マックスはさわやかにハハハと笑った。

 勝てたら婚約⁉

 もえきゅん☆そんなこと言ってたの⁉


「たしかに言ったわよ。でも、それはいつでも挑戦を受けるってことじゃないわよ。自宅を特定しようとしたり、友達と食事しているのを邪魔したり、強制転移させてシミュレーターに閉じ込めようとしたりするのを許した覚えはないわ」


「やばい人だ……」


“マックスやべーw”

“どんびきなんですけど”

“イケメンでも中身は残念”

“普通に逮捕されろww”


「もえきゅん☆のことが好きなんだよ。僕と結婚してくれ」


「お断りです~。自分より弱いストーカーを好きになるわけないでしょ。鏡見なさいよ」


「うん、今日もイケてる♪ イケメンの僕と結婚してくれ」


 本当に言われた通り鏡を見て、さわやかに笑った後、愛を囁いた。

 うわーこれはドン引きです。


「うわ~おもしろ~い。あなたお笑い芸人のほうが向いてるわ。冒険者として残念な分、すべり芸としては良い線行くんじゃない?」


 もえきゅん☆辛辣。

 でも、実際≪エンタープライズ≫を追放されるほどのことをしたんだよね、きっと。愛を語るにしても、罠を仕掛けて転移させるなんて、度が過ぎているのは明らかだし。


「今回の件、協会に正式に報告するわ。さすがに今回はあなたの冒険者資格も取り消しでしょうね。前回はSランクはく奪で済ませたのが協会の落ち度だわ。社会から抹殺すべきだったのよ」


 もえきゅん☆がマックスをにらみつけた。


 マックスは元Sランク冒険者だったのかあ。ピカピカの金属鎧に大剣装備で正統派のアタッカーって感じ。やっぱりもえきゅん☆にステータス調整してもらってたのかなあ。


「わかったよ。ハニーがそこまで言うなら、最後に一度対決してくれないか」


「はいはい。負けたらおとなしく拘束されなさい。もうあなたとかかわるのもこれで最後だと思うと気分爽快ね♡」


 もえきゅん☆はいつものバレエのターンを披露し、深々とお辞儀をした。


「僕が勝ったら結婚してくれ」


 マックスも負けじとターンして、深々とお辞儀をした。


 マックスのメンタルすごい……。まだここでプロポーズできるんだ。イケメンってメンタルまで強くなれるの?


「モエは身も心もアクア様に捧げてるのよ。あなたの入り込む隙は1ミクロンも残ってないわ。アクア様~愛してる~♡」


 もえきゅん☆全力でこっちに向かって手を振ってくる。

 わたしは「アハハ」と乾いた笑いで手を振り返すしかできなかった。


“Sランク同士の戦いが見られるのか”

“元な”

“でもストーカー野郎はSランク相当の実力なんだろ”

“昔の映像見たことあるけど、性格以外はすげーぞ”

“純粋な火力なら今日本で一番かもしれん”

“もえきゅん☆負けたりしないよな?”

“もえきゅん☆もえきゅん☆”


「でも今回は、モエじゃなくてアクア様が戦うわ♡」 


「は?」


「アクア様が戦うわ♡」


「……聞こえなかったわけじゃないわ。もえきゅん☆、あなた何を言ってるの?」


「モエのために戦ってぇ♡ ストーカー男をやっつけてぇ♡」


 もえきゅん☆が首筋に抱きついてくる。


 あふんっ。

 だから、すぐに耳を甘噛みするのはやめなさい!


「元Sランクなんでしょ? わたしじゃ勝てないわよ……」


 コメント欄で日本一の火力って。

 一瞬で吹き飛んじゃう……。


「大丈夫よ。あいつ足遅いから♡ パーティー戦では火力役としてまあまあ使えるけど、ソロだと何にもできないのよ♡ アクア様のスピードに手も足も出ないわ♡」


「そんなにうまくいくかなあ」


「ねえ、マックス。アクア様はまだ冒険者になったばかりのCランクなの。モエが少しだけ補助魔法をかけてもいいわよね?」


「どうぞお好きなだけ。Aランク冒険者として、それくらいのハンデはどうということはないさ」


「だってさ~♡ ありったけの補助魔法かけておくから、安心するんだぞ♡」


 もえきゅん☆が早口で大量の補助魔法をかけ始めた。

 物理攻撃確率無効、魔法攻撃確率無効、物理攻撃確率反射、魔法攻撃確率反射、速度アップ、攻撃速度アップ、状態異常確率無効、精神抵抗力アップ、物理攻撃力アップ、魔法攻撃力アップ、物理攻撃命中力アップ、魔法攻撃命中力アップ、オートヒール、復活予約。おまけのオールステータスブースト。


 バフの量がえぐい。

 これだけかけられたら、赤ちゃんでもSランクに勝てるんじゃないのかって思えてくる。


「それと燃と焔の属性もいつもの炎に戻しておいたぞ♡」


「ありがと~! そのほうが慣れてるから戦いやすい!」


 準備は整った。

 怖い、けど、もえきゅん☆のために戦うしかない。


“アクア様が戦うのか”

“パワー対スピード”

“アクア様がんばれ!”

“イケメンやっつけろ”

“永久追放だ!”


 コメント欄のみんなも応援してくれている。

 がんばろう。


 この状況でもなお、マックスは余裕たっぷりの表情で大剣を担いで立っている。

 ソロが苦手という情報だけど、きっと何か策がある。

 そんな顔をしている。


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