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第35話 ジスを守るために!

前世では、それはもう散々なほど痛い目に遭ってきた。

多少のことなら我慢できる――と思う。たぶん。

でも、それ以上ってことなのか?


「あの、どの程度かだけ教えてもらっていいですか」


「はあ?」


「お腹を切られるくらいまでなら、なんとか我慢できると思うんですけど……」


「な……腹を切るだと?!」


いや、実際のところ、あれはかなり痛かった。麻酔もほとんど効いてない状態だったし、激痛だけじゃなくて吐き気や冷や汗も止まらなかった記憶がある。


……あー……もう一度あの状態、って考えたら、やっぱり嫌だな。


「あの……何センチくらい切ります? 五センチくらいなら、許容範囲……」


「やめろ! お前、頭おかしいのか!?」


ひどい! 自分から“痛い目に遭わせる”って言い出したくせに!


「いや、待って?」


──この体はジスのものだ。

傷だらけだった前世の僕の体とは訳が違う。

この体には、擦り傷ひとつだってつけたくない!


「やっぱりダメです! 傷つけないで!」


「お? おお……」


なんで、ホッとした顔してんの?

それより、どうやって無傷で逃げようか……。

そんなことを考えているうちに、僕は引きずられるように森の方へと連れて行かれた。


「……迷子になりますよ?」


「ならねえ! 黙ってろ」


「でも、入口の辺りはピクニックに使えるけど、森の奥は迷いやすいから入ったらダメだって、ここの管理人さんが言ってました」


「お前、本当にうるさいな」


「あっ、すみません」


……知らなさそうだったから、教えてあげただけなのに。


男たちは一切戸惑うことなく、ずんずんと森の奥へと進んでいく。

やがて道らしい道もなくなり、鬱蒼とした林の中に辿り着いたところで、ようやく足を止めた。

そして、僕は木の根元へと突き飛ばされた。


「痛っ……」


慌てて腕や足を確認するが、幸いにも傷はない。

ホッと胸を撫で下ろした、そのときだった。

目の前に漂う、ただならぬ空気に気づく。


「悪く思うなよ」


そう言った男の一人が、ナイフを抜き、僕のスカートに刃を当てる。


「え? えっ!? なに……?!」


切れ味の鋭いそれは、ドレスの裾をパンみたいに、軽々と裂いていく。


「胸の辺りも裂いとくか」


「ああ、派手にやれって依頼だったしな」


――依頼? 誰から?

どうしてこんなことをされるのか、僕には全く分からない。

ぼんやりと二人の男を見上げていたけれど――そのうち、ハッと気がついた。

服を破られたら、僕が“男”だってバレちゃう!!


「やめてーっ!!!!」


「うわっ! 急にでかい声出すな! 大人しくしてろ!」


「諸事情で、そんなわけにはいきません!!」


「諸事情……? いや、破くだけだ! 酷いことはしない!」


「十分酷いです!!」


「……それはそうだが……」


まずい! 早く止めさせないと!

手足をぶんぶん振り回して暴れてみるけれど、大人の男、それも二人が相手じゃ敵うわけがない。


「俺たちも仕事なんだよ。本当に酷いことはしないから、襲われた“感じ”だけ出させてくれ」


「“感じ”だけって何ですか!」


「男に襲われた令嬢として、結婚市場で価値なしって周囲に思わせたいだけなんだとよ!」


「……は?」


そ、そういうこと? 貞操を失ったことにするってこと……?

その辺の仕組みはよく分からないけど、服を破かれたらそういう扱いになるの?

っていうか、“価値なし”って――

それじゃあ、ジスは結婚できないってことなんじゃないの?!


「嫌ーーーーーー!!!!」


「うわっ?! なんだ?!」


冗談じゃない!

ジスは幸せになるべきなんだ! こんなことで“価値なし”なんて言われたら……!

僕の目から、涙が次々と溢れてくる。

どうしたら、ジスを守れる……?

どうしたら……!

そのとき。僕の目に飛び込んできたのは、少し太めの木の枝だった。

何もないよりマシだと、それを手に取って――思いきり振り回す!


「わっ! 暴れんな! こら!」


「うるさい! どっか行け!!」


「虫を追い払うみたいなのやめろ!」


「お前たちみたいな卑怯者、虫と同じだ!」


「なんだと?!」


枝に付いていた棘が手のひらをチクチクと刺す。けれどここで怯むわけにはいかない。


「誰か――! 助けてぇーーっ!!」


力の限り、叫びながら、僕は一心不乱に暴れ続けた。

すると、不意に――ふわりと、誰かに何かで包み込まれる感触。


「あっ……?」


この匂いは――アルフレッド!


「……お前、ワイルドにも程があるだろ」


目の前には、いつもの呆れたような顔。――やっぱり、アルフレッドだった!


「どこ行ってたんですか! アルフレッドのせいですよ!? 師匠なのに全然魔法教えてくれないから、逃げることもできなかったじゃないですか!」


もっと怒りたかったのに、涙が止まらない。

そんな僕を、アルフレッドは黙ってマントに包み込むように抱きしめてくれた。


……この匂い、安心する。


きっと緊張がほどけたせいだろう。

僕はそのまま、眠るように意識を手放してしまった。


次に目を覚ましたのは、学園寮にある医務室。

周りにはエイダ、エルモア、ノーマもいて、みんな僕が目を覚ますのを待っていてくれたみたいだった。


「本当によかった!」


「一人にしてごめんなさい!」


「痛いところはない?」


矢継ぎ早の質問に答えたいのに、喉が痛くて声が出ない。

医務室の先生が「叫びすぎて喉を痛めたから、しばらくは安静に」と説明してくれた。


――しばらくみんなとお喋りできないなんて、すごく寂しい。

ところで、アルフレッドは……?

誰かに聞きたいけど、声が出ないのでどうしようもない。

やがて先生が「もう寝る時間です」と言って、みんなを帰してしまった。


退屈……

何もすることがない。

それより、僕……この短期間で、もう二回も医務室にお世話になってる。

また、みんなに迷惑をかけてしまった……。

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