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第36話 黒い指輪の正体

僕がしょんぼりしていると、先生が沢山の手紙を持ってきてくれた。

エイダやエルモアたち以外にも、同じクラスの子たちから、励ましの手紙がたくさん届いていて――僕は、嬉しくて、またちょっと泣いた。 


一通一通、大切に目を通していくと、最後に、一枚だけメモのような紙が挟まっていた。開いてみると――それはアルフレッドからのものだった。


(めんどくさがりの師匠が、僕のために手紙を!? ……なになに)


『光里へ。何やってるんだ。俺の手を煩わせるな。助けてやったんだから、ありがたく思って体を休めろ』


(……うん?悪口かな?)


労わりの言葉なんて一つもない。

ぶっきらぼうで、短い手紙。

でも、そこには確かにアルフレッドの気遣いがにじんでいた。


(それに……久々に顔が見られて嬉しかった。ちょっと痩せた気がするけど、大丈夫かな?聖女と幸せに暮らしてらはずなのに。でも、僕のために駆けつけてくれて………でもなんで、襲われてるって分かったんだろう……あ、そうか。師匠だからか)


僕はすべての手紙を胸に抱きしめながら、いつの間にかぐっすりと眠っていた。


◇◇◆◆◇◇


「アルフレッド様! ひやひやさせないでください!」


カスパールが、十歳は老けたような顔で俺を出迎えた。

なんなんだ、大袈裟な奴だな。


「聖女様がいらしたらと思うと、気が気じゃなかったんですよ! 二度とここから勝手に出ようなんて思わないでください! ……あっ! ほら、無茶をするから魔力が半分近くも減ってるじゃないですか!」


「うるさいな。放っておけ」


俺はドサリとソファに体を投げ出した。

――確かに、無関係な奴を殺さないように結界内から強引に抜け出したせいで、魔力はかなり消耗した。

元に戻るには、一ヶ月はかかるだろう。

だが――光里にかけていた保護魔法が、異常を知らせてきたんだ。

行かないわけにはいかなかった。……それはもちろん、師匠として。


「あ? アルフレッド様! 怪我してますよ? ちょっと見せてください」


「……俺の血じゃない」


「誰の血ですか?!」


……誰の血って、あの身の程知らずな悪党の血に決まってるだろ。

どっちかは生かして黒幕を吐かせるつもりだったのに――

服をボロボロにされながら必死に戦っていた光里の姿を見た瞬間、理性が吹き飛んだ。


……気づいたときには、手加減できず即死させていた……俺としたことが。


仕方ない、別のルートから探るしかないか。


「風呂に入るから、聖女が来たら追い返しとけ」


「はいはい、分かりましたよ」


最近、毎日のようにカスパールのため息を聞いている気がするが……まあ、気にする必要はないな。

俺は返り血のついた服をゴミ箱に捨て、のんびりと湯船に浸かった。



「……なんで、あいつらは光里を襲ったんだ?」


他にも令嬢はいたのに。

それに、あれだけ服を破いておきながら、手を出さなかったのも妙だ。

誰かに“そうするように”頼まれたのか……?

まあ、仮に襲っていたとしても、光里は男なんだけど――


……それでも、不愉快だ。

だって、あいつは――俺の……


「……俺の……?」


弟子? 花嫁候補? それも確かにそうだが――


「俺の……よく分からん」


「好きな相手、ですよ」


ドアの外からカスパールがそう囁いて去って行った。

一体なんなんだ……。


……それに好きな相手と言われてもな。……だが、今の自分にとって、それが一番しっくりくる気もする??


「……俺は、あいつを好きだったのか?これが“好き”って感情なのか?」


やっぱりよく分からん。

今度会った時にきちんと確認するべきだな。




「……だが、あいつに会うには光里を襲った黒幕を突き止めて……聖女を、どうにかしないとな」


「私が、何ですって?」


その言葉と共に、平気な顔でドアを開けた聖女が湯殿に入ってくる。


「……悪趣味だぞ。盗み聞きも、覗き見も」


――悪趣味どころか、それが“聖女”ともなれば、資格を失ってもおかしくないほどの品のなさだ。


「私たちの仲でしょ? 恥ずかしがることないじゃない」


……それまでも不愉快だった聖女の言葉が、

更に堪え難いほどの嫌悪感とともに襲いかかってくる。


――虫唾が走るほどに。


「何でもいいが、俺はもうここから出ていくぞ」


「ダメよ。聖女の言うことは“絶対”なんだからね?」


「……いい加減にしろ」


「ねえ、それよりアルフレッド。あなた、随分と魔力が落ちてるわね? 何かあった?」


「……何でもない。すぐに回復する」


「ふーん……まあ、いいけど」


聖女は、嫌な笑い方でそう言いながら、俺に向かって手を伸ばしてきた。


「……おい!」


だが、金縛りにあったように動けない。また妙な力を使いやがって……。


「ふふっ、しばらく大人しくしててね。普段なら敵わないけど、今のあなたなら私の魔力で簡単に捕まえられるわね」


「……っ!」


聖女の手が、俺の左手を掴む。

そして、そのまま――無理やり薬指に、黒い指輪をはめた。


「おい! やめろ! 一体、何を――」


しかし、体はまったく動かない。

嫌悪に唇を噛み締めた瞬間、零れた血が湯に落ちて、赤い花のように広がっていく。




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