僕がしょんぼりしていると、先生が沢山の手紙を持ってきてくれた。
エイダやエルモアたち以外にも、同じクラスの子たちから、励ましの手紙がたくさん届いていて――僕は、嬉しくて、またちょっと泣いた。
一通一通、大切に目を通していくと、最後に、一枚だけメモのような紙が挟まっていた。開いてみると――それはアルフレッドからのものだった。
(めんどくさがりの師匠が、僕のために手紙を!? ……なになに)
『光里へ。何やってるんだ。俺の手を煩わせるな。助けてやったんだから、ありがたく思って体を休めろ』
(……うん?悪口かな?)
労わりの言葉なんて一つもない。
ぶっきらぼうで、短い手紙。
でも、そこには確かにアルフレッドの気遣いがにじんでいた。
(それに……久々に顔が見られて嬉しかった。ちょっと痩せた気がするけど、大丈夫かな?聖女と幸せに暮らしてらはずなのに。でも、僕のために駆けつけてくれて………でもなんで、襲われてるって分かったんだろう……あ、そうか。師匠だからか)
僕はすべての手紙を胸に抱きしめながら、いつの間にかぐっすりと眠っていた。
◇◇◆◆◇◇
「アルフレッド様! ひやひやさせないでください!」
カスパールが、十歳は老けたような顔で俺を出迎えた。
なんなんだ、大袈裟な奴だな。
「聖女様がいらしたらと思うと、気が気じゃなかったんですよ! 二度とここから勝手に出ようなんて思わないでください! ……あっ! ほら、無茶をするから魔力が半分近くも減ってるじゃないですか!」
「うるさいな。放っておけ」
俺はドサリとソファに体を投げ出した。
――確かに、無関係な奴を殺さないように結界内から強引に抜け出したせいで、魔力はかなり消耗した。
元に戻るには、一ヶ月はかかるだろう。
だが――光里にかけていた保護魔法が、異常を知らせてきたんだ。
行かないわけにはいかなかった。……それはもちろん、師匠として。
「あ? アルフレッド様! 怪我してますよ? ちょっと見せてください」
「……俺の血じゃない」
「誰の血ですか?!」
……誰の血って、あの身の程知らずな悪党の血に決まってるだろ。
どっちかは生かして黒幕を吐かせるつもりだったのに――
服をボロボロにされながら必死に戦っていた光里の姿を見た瞬間、理性が吹き飛んだ。
……気づいたときには、手加減できず即死させていた……俺としたことが。
仕方ない、別のルートから探るしかないか。
「風呂に入るから、聖女が来たら追い返しとけ」
「はいはい、分かりましたよ」
最近、毎日のようにカスパールのため息を聞いている気がするが……まあ、気にする必要はないな。
俺は返り血のついた服をゴミ箱に捨て、のんびりと湯船に浸かった。
「……なんで、あいつらは光里を襲ったんだ?」
他にも令嬢はいたのに。
それに、あれだけ服を破いておきながら、手を出さなかったのも妙だ。
誰かに“そうするように”頼まれたのか……?
まあ、仮に襲っていたとしても、光里は男なんだけど――
……それでも、不愉快だ。
だって、あいつは――俺の……
「……俺の……?」
弟子? 花嫁候補? それも確かにそうだが――
「俺の……よく分からん」
「好きな相手、ですよ」
ドアの外からカスパールがそう囁いて去って行った。
一体なんなんだ……。
……それに好きな相手と言われてもな。……だが、今の自分にとって、それが一番しっくりくる気もする??
「……俺は、あいつを好きだったのか?これが“好き”って感情なのか?」
やっぱりよく分からん。
今度会った時にきちんと確認するべきだな。
「……だが、あいつに会うには光里を襲った黒幕を突き止めて……聖女を、どうにかしないとな」
「私が、何ですって?」
その言葉と共に、平気な顔でドアを開けた聖女が湯殿に入ってくる。
「……悪趣味だぞ。盗み聞きも、覗き見も」
――悪趣味どころか、それが“聖女”ともなれば、資格を失ってもおかしくないほどの品のなさだ。
「私たちの仲でしょ? 恥ずかしがることないじゃない」
……それまでも不愉快だった聖女の言葉が、
更に堪え難いほどの嫌悪感とともに襲いかかってくる。
――虫唾が走るほどに。
「何でもいいが、俺はもうここから出ていくぞ」
「ダメよ。聖女の言うことは“絶対”なんだからね?」
「……いい加減にしろ」
「ねえ、それよりアルフレッド。あなた、随分と魔力が落ちてるわね? 何かあった?」
「……何でもない。すぐに回復する」
「ふーん……まあ、いいけど」
聖女は、嫌な笑い方でそう言いながら、俺に向かって手を伸ばしてきた。
「……おい!」
だが、金縛りにあったように動けない。また妙な力を使いやがって……。
「ふふっ、しばらく大人しくしててね。普段なら敵わないけど、今のあなたなら私の魔力で簡単に捕まえられるわね」
「……っ!」
聖女の手が、俺の左手を掴む。
そして、そのまま――無理やり薬指に、黒い指輪をはめた。
「おい! やめろ! 一体、何を――」
しかし、体はまったく動かない。
嫌悪に唇を噛み締めた瞬間、零れた血が湯に落ちて、赤い花のように広がっていく。