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第七話 決戦!夢と魔法のキングダム(七)

「泥田、暴作……」

 エルミヤさんは、グッと嚙みしめるようにその名を口にした。


「伍道や刺客チンピラたちの情報によれば、間違いなく泥田組長もここに来てるはずだ。いつもは安全なところから手下に指示するだけの小心で卑怯なハゲジジイだが、今回だけは玉砕覚悟でこの計画に臨んでいるだろう」


「そうですね。最後まで、気を引き締めていきましょう!」


 終点に着いた『イッツ・ア・スモーワールド』のゴンドラから降りた俺とエルミヤさんは、再び小虎たちを見守るべく後をつけていった。日はさらに落ち、みるみるうちに空の色は夕暮れから夜へと染まっていく。



「でも小虎お嬢さまたち、もうランド内のアトラクションは軒並み回ってしまわれましたよ。この後、いったいどこから襲ってくるんでしょう?」

「そうだな……」



RRRR―――― RRRR――――


 エルミヤさんの言葉に考えあぐねていると、俺の携帯にまた着信が入った。


「竜司、様子はどうだ? お嬢は無事なのか?」

 俺の盟友、雷門伍道の声だった。こいつは昔から、俺が一番困っているときに必ず助け舟を出してくれる頼れる男である。


「ああ、大丈夫だ。泥縄組の刺客チンピラたちは、俺とエルミヤさんでもう三十人ほど捕まえた。あとは、泥田組長だけだな」


「そうか! そいつは上出来だ。で、肝心の泥田なんだがな。さらにヤバい情報ネタが入ったぜ」


「なんだ?」


「奴は、爆発物を所持している。おそらく、ダイナマイトか何かだ」


「ダイナマイト、だとぉ……」

 家族連れやカップルであふれかえるこの東京ティバニーランドで、もし爆発騒ぎなど起ころうものなら、パニックは必至だ。小虎はもちろんのこと、来場者ゲストの誰一人として被害を出すわけにはいかない。


「いいか竜司。調べによると、泥田の持っている爆発物には遠隔操作リモコン時限装置タイマーは付いてねえ。今の奴に、そんなもの作る資金カネ技術ウデもねえからな。つまり、爆弾抱えて突っ込んでくる可能性が高いってこった。半ば自棄ヤケになった泥田のことだ。ドカンと派手に散るつもりかもしれねえ」


「ってことは……」



「いよいよナイトパレードだよ! 行こ、竜司! 私、今日いっちばん楽しみにしてたんだ!」


 小虎の声が聞こえてきた。俺の影法師の手を引いて、彼女はランドの中心であるミルキー城の前へと駆け出していく。小虎のくれた行楽雑誌によると、この場所がパレードのクライマックスを楽しめる絶好のポイントなのだそうだ。


「そうだ、ナイトパレードだ。泥田はここでお嬢と俺を狙ってくるつもりだぜ」

「はいっ、リュージさま!」




 夜のとばりがあたりを包み込み、すっかり暗くなったランドの大通り。やがて、大音量で響き渡るおなじみのテーマソングに合わせて、東京ティバニーランドの人気キャラクターが乗り込んだ山車フロートの行列がゆっくりとやって来た。通りに詰めかけた来場者ゲストたちは、夢のように華やかな演者ダンサーたちを拍手喝采で迎えている。


「どうだ、エルミヤさん。怪しいヤツはいねえか?」

「はい。今のところ、察知魔法サーチングに反応はありません」


 俺たちはパレードの観客たちから十分に距離を置き、注意深く泥田の接近を監視していた。懐にダイナマイトを忍ばせた男が、大観衆の中にいる小虎に近づいて起爆させる。そんな事態だけは、なんとしても避けねばならない。


「すてき……」


 ため息交じりに、うっとりとパレードに見入っている小虎。そばに立つ俺(の影法師)に寄り添う腕にも自然と力がこもる。ロマンチックな雰囲気に乗じて、キスのひとつもくれてやりたいひとときだが、心を持たないあの影法師には無理な相談だろう。


「あの、リュージさま。私、ちょっと思ったんですけど」

「なんだ?」


 その時、ティバニーバニーの着ぐるみの中にいるエルミヤさんが話しかけてきた。こんなに目立つ格好をしていながら、秘匿魔法カモフラージュのせいかまったく騒ぎになっていない。どうやらこの「夢と魔法の王国」にいるおかげで、俺たちの周囲だけでなくランド全体にも、姿を隠す魔法の効果が効いているようだ。


「ひょっとすると泥田組長は、お客さんたちに紛れて小虎お嬢さまに近づいてくるというより、もっとドラマチックなことを考えているのではないでしょうか?」


「というと?」


「たとえば、あの派手な車に乗ってきたりとか……

――――あっ! い、いましたリュージさま! あそこです!」


 彼女がそう叫んだ先には、ティバニーバニーのライバルとして知られるカメのキャラクター、ドン・ガメレオーネの着ぐるみを乗せた山車フロートが姿を現した。ドン・ガメレオーネはマフィアの首領ボスで、いつもプリンセスのミルキーバニーをつけ狙う悪党だ。


「奴はあの中にいるってのか?」

「はい! 間違いありません!」


 そうこうしている間に、ドン・ガメを乗せた山車フロートは小虎たちがいる場所の直前まで進んできていた。そうとも知らない小虎は、楽しげに手を振って声援を送っている。



「ようやく見つけたぜ、軍馬竜司ィ! 針猫小虎ッ!」


 その時、ドン・ガメレオーネの着ぐるみをまとっていた泥田暴作は、羽織っていたコートを放り投げながら大声で叫んだ。その身体には、大量のダイナマイトがぐるぐる巻きにされている。ドン・ガメは、小虎たちのもとに今にも飛び降りようとしていた。その異様な姿に、観客たちの間から悲鳴や怒号が沸き上がる。


「まとめて吹っ飛ばしてやるからな、覚悟しろやぁ!」




続く



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