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第七話 決戦!夢と魔法のキングダム(六)

 そんなわけで、俺とティバニーバニー(の着ぐるみをかぶったエルミヤさん)は、パーク内に潜む泥縄組の刺客たちを発見・捕獲する作業に入った。


 ランドのアトラクションを楽しむ小虎と俺(の影法師)の命をつけ狙う泥縄組を、エルミヤさんの察知魔法サーチングで見つけ出し、奴らが事に及ぶまえに「ガッチュ網」で捕獲してパークの中心に立つミルキー城へと転送する。

 刺客は全部で三十人いるそうだが、なぜか一人ずつ単独で行動していたため、見つけしだい不意を突いて捕まえることは大して難しい仕事ではなかった。

 複数で同時にかかってこられたらそこそこ厄介だったかもしれないのに、相変わらず計画性のない馬鹿な若造チンピラどもだ(もっとも、人ごみあふれるパーク内で武器を持った男の集団が大挙して現れたら、それはそれで大騒ぎになるだろうが)。



 今もちょうど『迷惑めいわくのチキンルーム』(大小さまざまなニワトリたちが、けたたましく歌って踊る観劇シアター型アトラクション)の片隅で、ド派手なハワイアン衣装をまとった刺客の男を一人、ミルキー城へ転送したところだ。


「なあ、今の野郎で何人目になる? エルミヤさん」

「えっと、ちょうど十人目ですね。いいペースです」


 エルミヤさんは両手の指を広げながら、ここまでの戦果を俺に告げた。彼女は指で「十人」を表したつもりだったのだろうが、着ぐるみの手が四本指だったため「八人」になっていたのに気づいていなかったのはご愛敬だ。


「それにしてもエルミヤさん、今日は朝から魔法をガンガン使いっぱなしだろ? よく魔法力切れにならねえな」

 これまでにも彼女は、ここぞという時に魔法力が尽きてしまい、使えなくなったということがあった。そのたびに食事をするなどして魔法力の補充をしていたが、今日はそういう配慮をしていない。大丈夫なのだろうか。


「それがですねリュージさま。不思議なことにいくら魔法を使っても、ぜんぜん魔法力マナが途切れる感じがないんですよ。ひょっとしたら、このパーク自体が持つ『魔法の力』が、そうさせているのかもしれないんですけど」


「このパーク自体の、魔法の力?」


「はい。さすが『夢と魔法の王国』ですよね!」


 そういうものなのか。やはり、魔法というのは俺にはよく理解できん。


「さて、そろそろ小虎たちが移動するみたいだ。次行くぜ」


「はい、リュージさま。参りましょう!」




 小虎たちは、ランドのアトラクションをすべて制覇する勢いで次々とこなしていった。

 本日も大賑わいの東京ティバニーランドは行列の長さも相当なもので、中には入場に数時間待ちなどという強者ツワモノアトラクションもあったのだが、小虎は来場一千万人目記念の特別パスをもらっていたため、なんと待ち時間ゼロで案内してくれるという特典チートを身に付けていたのである。


「竜司、つぎは『カリブーの山賊さんぞく』行こっか! トナカイに乗った赤装束に白髭の山賊たちが、聖夜クリスマスに暴行略奪を繰り広げる、血湧き肉躍るライド型冒険アトラクション……だって。おもしろそー!」


「おう、行くか」


「……なんか今日、口数少ないね竜司。大丈夫?」


「大丈夫だ。問題ない」


 俺とエルミヤさんは、小虎に気づかれぬよう慎重に距離を取りつつ、後を追いかけていった。

 それにしても、俺の影法師はなかなか立派に俺の代役をこなしているではないか。小虎の無茶振りともいえるアトラクションメニューにも、文句も言わずちゃんと付き合っている。受け答えが、まるで映画のターミネーターみたいに少々単調なのが玉にキズだが。


「なあ、エルミヤさん」

「はい?」

「俺って、いつもあんな感じか?」

「ええ。だいたいあんな感じだと思いますよ」


 複製コピー人間を作り出す「影法師魔法ドッペルゲンガー」には、魔法をかける者の主観が色濃く出るということだが――俺も、今後はもう少しだけ愛想よく振舞うことにするか。



「そこですリュージさま! ソリの上っ!」

「よしきた!」

「煙突の中にももう一人!」

「よっしゃ!」


 この『カリブーの山賊』では、五人もの泥縄組の刺客を捕獲することに成功した。赤い帽子と服に白髭という、どこかで見たような格好の山賊たちは、手にした白い袋の中にさまざまな武器を隠し持っていた。だがそれを取り出す前に、二人の息の合った協力プレイによってなんとか無事全員を転送できたのである。



「リュージさま、私だんだんおもしろくなってきちゃいました」

「そうだな。こういうアトラクションがあったら売れるかもな」


 このアイデアはいずれ東京ティバニーランドの運営会社に提案することにして、俺とエルミヤさんはなんとも痛快かつスリリングな刺客捕獲ゲームを続けていった。


 それからは『ジャングルクルゥズ』(かなりはっちゃけた船長が、ボートに同乗してジャングルの大河を案内するアトラクション)や、『ホンマデッカ? マンション』(なぜか関西弁を話す出っ歯のゴーストなど、数多あまたの魑魅魍魎が跋扈ばっこする古ぼけた洋館を探検)、『ブーさんのバニーハント』(黒ブタのブーさんが反旗を翻して、仲間であるはずのティバニーバニーたちに逆襲するライド)などを次々と攻略していき、気がつけばランド内のアトラクションはほぼ狩りつくしていた。




 気がつけば、周囲は夕暮れ。小虎と俺(の影法師)は、まげを結った福々ふくぶくしい関取たちが楽しげに歌って踊る純和風のライド『イッツ・ア・スモーワールド』を満喫していた。ここのゴンドラはかなりゆったりのんびりとしていて、これまでの過激なアトラクションからのちょっとした箸休めといったところか。


 さすがの俺でも、これなら乗り物酔いもなかろうと、試しに乗ってみることにした。

「どうやら、大丈夫なようだな」

「そうですね。よかったです!」


 相変わらずティバニーバニーの着ぐるみをまとったエルミヤさんは、俺の横で大きくうなずいた。その動きはかなり自然で、まるで中身の彼女とティバニーが融合してしまったかのようだった。



「ところで、これまでに捕まえた泥縄組は何人だ?」


「ええっと……。あっ! さっき入口で見つけたおすもうさんを入れると、ちょうど三十人ですよ!」


「そうか」

 それを聞いた俺は、ふっとため息をついて背もたれに寄りかかった。


「やりましたねリュージさま! これで、小虎お嬢さまも安心ですよね」


「いや、まだだ」


「えっ、どういうことですか?」

 エルミヤさんは、俺の返事に大げさな仕草で驚いて見せた。


「まだ、ヤツを見つけてねえよ」


「ど、どなたですか?」



泥田どろた暴作ぼうさく。泥縄組の、組長だ」




続く



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