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番外編 三人ムスメの今夜は眠れない

 ホッタンの村にて。夕食を済ませた、就寝時間でのことである。



「……ねえ、、まだ起きてる?」




は起きてんでー」


も起きてるっス」


「どないしたん? 寝られへんの? 小虎ちゃん」


「小虎嬢ちゃんも、寝といたほうがいいっスよ? 明日は早いんスから」


「うーん、そうなんだけどさあ。なんだか目が冴えちゃって。レベリルは――――もう寝ちゃってるか」


 Zzz…… Zzz…… Zzz……




「ねえ、ちょっとお話ししない?」


「べつにええけど……。竜ちゃんは、今頃もう眠ってるんかなぁ」


「それにしても、本官ジブンたちは三人相部屋で、グンバリュージだけ個室なんスね」


「そりゃ、竜司は『伝説の勇者様』だもん。パーティーメンバーとは、それなりに扱いも違うってことなんじゃない?」


「まあ、ちゃんとベッドが人数分みっつあるだけマシやん。……ほんで何? 小虎ちゃんが話したいことって」


「うん、あの――エルミヤさんのことなんだけど」


「ああ、あれにはびっくりしたっスね! 急にいなくなったと思ったら、いきなり婚約しただなんて」


「ホンマやで! ウチはてっきり、竜ちゃんとデキてるんちゃうかって疑ってたのに」


「デキてるって? どういうこと? ちま」


「だってエルミヤさん、竜ちゃんでずっと一緒に暮らしてたんやで?」


「やっぱりそうなの? あの二人、なーんか距離が近すぎと思ってたけど」


「ここだけの話、本官ジブンは、グンバリュージがエルミヤさんを首輪で繋いで外歩いてたとこも見たことあるっス。あれは危険なプレイっス!」


「ホンマに? 伍道さんの親戚のコやってうてたから、ウチはあんまり心配してへんかったんやけど」


(首輪でお散歩か…………正直、悪くないかも…………)


「どないしたん? 小虎ちゃん」


「顔赤いっスよ、小虎嬢ちゃん」


「なんでもないなんでもない! そういえば、あれも驚いたな。まさか、針棒組ウチの雷門伍道に娘がいたなんてさ。しかも、あのエルミヤさんと親子って! 私、もう完全にパニクったよ」


「まあ、考えてみればあの三人ってみんな、この『ドラゴンファンタジスタ』っちゅう世界ゲームの住人ってことなんやろ? 少々ややこしなってもしゃあないんちゃう?」


「はー。そこんとこ、チマキさんはよく納得できるっスね。本官ジブンはいまだにちゃんと理解できないっス」


「せやけど、実際にこっちの世界に来れてるんやからしょうがないやん。ウチはどうなろうと、竜ちゃんのこと信じてるし」


「私も信じてるよ? 竜司は竜司だもん」


本官ジブンもっス。グンバリュージは、ホンモノのオトコっス。多少の変態プレイは受け入れる方向っス」




「……ところでさ、ひま。前から思ってたんだけど。婦警さんがヤクザと付き合ってもいいの? ほら、世間的に大丈夫?」


「いいかダメかで聞かれたら、まあダメっスね。警察官たるもの、反社会的勢力との交際は厳に慎むべきっス」


「ほなアカンやん」


「いいんス。いざとなったらすっぱり警察辞めて、実家とも縁を切るっス。尾形向日葵ひまわりは、愛に生きるっス!」


「へえー、わりと意外! ねえ、ちまは?」


「ウチもぜんぜんかまへんで。べつに、竜ちゃんに継いでもらわへんでも、ウチが二代目社長になって千石モータース経営していくし。竜ちゃんはヤクザでも土建屋でも、やりたいことやってくれれば」


「伝説の勇者は?」


「ははっ。それはまあ、できれば適当に切り上げてほしいとこやけどな。ホンマ、命がいくつあっても足りへんもん。……ところで、小虎ちゃんはどうやの?」


「なにが?」


「シンガポールの大学、卒業するんやろ? その後は?」


「うーん。私も、竜司しだいかな。海外で就職もいいし、起業もしてみたいから。組長パパが引退したら、針棒組のことは全面的に竜司と伍道に任せるつもり」


「ほー。小虎嬢ちゃん、夢が広がりんぐっスね!」


「あ、新婚生活は、することちゃんとしたいよ?」


「それが一番重要やな!」


「それは譲れないっス!」




「ねえ、話は戻るんだけど……。エルミヤさんの婚約、どう思う?」


「あー、あれな。最初はええんちゃうって思ったけど、どうやろな」


「おんなじ世界の人だしおんなじ耳長の人だしお似合いなんスけど」


「あのシャルクって結婚相手! なんかさ、どーもうさん臭くない?」


「せやろ? ウチも晩御飯のとき思ったけど、なんか二人の様子がおかしいで」


「もし、エルミヤさんの婚約が意に沿わないものだとしたら、どうするっスか?」


「私は、エルミヤさんの方に付く」


「ウチもや」


「そうなんスか? 小虎嬢ちゃん、さっきは競争相手ライバルが一人減ったって言ってたじゃないっスか」


「正々堂々と勝負、とも言ったでしょ? もし――――」




「――――どないしたん? 小虎ちゃん」


「シッ!」


「小虎嬢ちゃんのトラ耳が、ピクッと動いたっス。何か聞こえたっスか?」


「ちょっと待って。ドアの方、見てくる――――」キイィ




「ちま! ひま!」


「なんなん?」


「なんスか?」


「向こうの竜司の部屋! 今、エルミヤさんがノックして入ってった!」


「マジでー?」


「マジスか?」


「見に行く?」


「当たり前やん!」


「当たり前っス!」


「物音立てないでよ、気づかれちゃうから。静かにね……。ほら、レベリルも起きて! 行くよ!」



「…………ほが?」




第九話(六)に続く



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