「よおし、みんな! 行くよっ!」
気合を入れて
「ちょ待てっ、お嬢!」
「えっ? なによ竜司」
「いま車から出るんじゃない。なんだか、ものすごく
「どういうこと?」
俺の代わりに、カーナビを通じて伍道が返事をした。
「お嬢、前にも言った通り、あのドラゴンたちは体中から『
「それも、見た感じかなりどす黒く渦巻いているぜ。こんなモノをまともに浴びたら、どうなるかわかったもんじゃねえ」
「じゃあ、どうすればええのん? 車の外に出えへんかったら、まともに戦えへんやん!」
「そうだ、エルミヤさんの魔法なら――」
俺たちの視線が、助手席のエルミヤさんに注がれる。
「わ、私ですか? でもぉ……」
「どうしたっスか?」
「せや、首都高ん時みたいに、キッツいの一発ぶちかましたりぃや!」
「でも私……まだレベル十九の『
どうやら、先ほど行われた
「何言ってるの! エルミヤさんなら大丈夫だって! ねえ、竜司?」
「お、おう。頼むぜエルミヤさん!」
「…………はい、わかりました。やってみます」
しばらく悩んだ挙句、ようやく重い腰を上げたエルミヤさんは、助手席側の窓を開けると身を乗り出して
「――――ま、『
しかしその掛け声とは裏腹に、光弾は一つも発せられなかった。エルミヤさんの周りに漂っていた
「ごめんなさい、失敗しました。やっぱり私、使えないです……」
「そうねぇ~。いちおう、『
妖精のレベリルが挟んできた、ため息交じりの魔法解説に、車内の誰もがみな「それを言うな」と心の中で思った。
「…………すみません。『
「あまり気にすんなよ、エルミヤさん」
「私、情けないです……リュージさま」
しょんぼりと肩を落とすエルミヤさんの落胆っぷりといったら、とても見ていられないほどである。それにしても、彼女の魔法の弱体化がこれほどとは。いったいどうしたことなのだろうか。
「でも、どうすんの? ここは一旦退却する?」
「いや、お嬢。そんな
「なんだって? そんなことしたら、あっという間にドラゴンの群れに取り囲まれちまうぜ!」
カーナビからの伍道の言葉に耳を疑った俺は、思わず大声を上げた。これだけの数のドラゴンの中に飛び込むなんぞ、どう考えても自殺行為だ。それでなくとも、大小さまざまな種類のドラゴンが大口を開けて、もうすぐそこまで迫ってきているのだ。
「いいから、俺の言うとおりにしろ」
「あーもう、知らねえからな伍道!」
アクセルを思いっきり踏み込み、スピードを上げたハコスカの動きを確認した伍道は、続いての指示を予想外の相手に送ってきた。
「さあ
「
「まさか、
「そうじゃない。
「はいっス!」
オガタは自分の首にかけていた紐を引っ張って、
「よし、それを思いっきり吹くんだ!」
「おい、伍道! そんなんで――――」
「いいんだ、やれっ!」
ピィーーーーーーーーッ!
辺りに鳴り響く、オガタの吹く笛の音。ドラゴンたちの羽ばたく音や鳴き声が一瞬止んだかと思うと、つぎの瞬間
「すごい! ドラゴンがどんどん落ちてくるよ!」
まるで時間が止まったかのように、羽ばたきを停止したドラゴンたちが、つぎつぎと地上に落下してくるではないか。
「どういうことだ? これは」
「これは『
「それにしても、こんなにいっぱいのドラゴン相手に通用する
「ど、どもっス」
エルミヤさんとレベリルからの称賛の言葉に、ふだんあまり褒められ慣れていないオガタは赤くなって頭を搔いた。
「よおし、このまま突っ切るぞ! 頼むぜオガタ!」
「任せるっス!
目の前に
「あーーっ!」
その時だった。大きな段差を飛び越えた際、激しくバウンドした車内からオガタが悲鳴を上げたのだ。
「どうした?」
「あのぅ…………。申し訳ないっス!
「なんだと?」
窓の外に身を乗り出すようにして
「竜司っ! あの笛、取りにいかなくちゃ――」
「アカン! 戻ってる間に、囲まれてまうで!」
万事休す。だれもがそう思った、つぎの瞬間だった。
「オガタっ!」
「だ、だれっスか?」
「グローブボックスを開けて! 早く!」
どこからともなく聞こえてきたその女性の声に、後部座席のオガタは助手席前のダッシュボードにまで必死に体を伸ばして、グローブボックスの扉を開けた。
「これは……」
そこにあったのは、白い
「それを使いなさい!」
ピィーーーーーーーーーーーーーーッ!
オガタの笛の音に、ふたたびドラゴンたちの群れは凍りついた。俺たちは、なんとか間一髪でドラゴンの攻撃を避けることに成功したのである。
「し、
オガタは直立不動になって、カーナビの画面に映し出された嶋村
「嶋村ちゃん、すまなかったな。助かったぜ!」
「いえ。これでも私、
伍道の言葉に、首を振って答える嶋村。それにしても伍道はいつの間に、警察官としてのオガタの先輩である彼女まで呼び寄せていたというのか。
どうやら嶋村は、すでに今回の事件の詳細について、しっかり理解しているらしい。深い絆で結ばれている先輩と後輩は、現実世界とゲーム世界という
「オガタ! 上層部にはもう報告済みだから、思う存分やってらっしゃい!」
「了解っス! 嶋村センパイ!」
だがその頃、俺たちはまだ気づいていなかった。シャルク率いる近衛騎士団が、猛烈な勢いで俺たちに迫ってきていることを。
続く