「
車中から窓の外を見ていた小虎は、チマキとオガタが目の前で消失するのを目撃して大声を上げた。
「小虎ッ!
「で、でもっ!」
「いいから行くぞ!」
ドアを開けて外に出ようとしていた小虎を制止して、俺はパンク修理が終わったばかりの
「ちま、ひま……グスッ、ぐすん…………」
「小虎お嬢さま…………」
「…………」
チマキとオガタがいなくなり、すっかり広くなった後部座席で、ひとり肩を震わせて泣きじゃくる小虎。俺もエルミヤさんもレベリルも、突然の出来事になんとか心を落ち着かせようとしていた。
「無事か? 竜司」
そのとき、カーナビを通じてまた通信が入ってきた。
「伍道、チマキとオガタが……」
「ああ、間一髪だったよな」
「なっ、なんだって?」
「竜ちゃん!」
「グンバリュージ!」
カーナビの画面を通して、そこに映っていたのは
二人の間に入って馴れ馴れしく肩を抱きながら、伍道はニヤリと笑った。
「言ったろ? お嬢さん方が危なくなったら、
「ちま! ひま! よかったぁ――――」
さっきまで号泣していた小虎の目から、今度は嬉し涙があふれだした。
「ご覧のとおり、二人は無傷だ。だが
「そうか、仕方ねえな」
「ごめんな、竜ちゃん」
「無念、後は頼むっス」
聞けば、術者を伴わない
それにしても、ここに来て二人もの離脱は痛い。チマキは
「じゃ、これからは私たちだけで戦わなくちゃならないってこと?」
「まあ、そうだな……」
小虎に返事しながら、俺は車内にいる残ったメンバーをあらためて見まわした。はっきり言って、
今のエルミヤさんの魔法は
「ごめんなさい、リュージさま。私、あまりお力になれなくて……」
恐縮して頭を下げるエルミヤさんに、俺は無言でうなずいた。太陽のように明るい笑顔がトレードマークの彼女だが、あのレベル判定からこっち、ずっと曇りっぱなしである。
「――あのさ、私にひとつ考えがあるんだけど」
車を停めて、しばらく考えを巡らせていた俺たちの静寂を、小虎の声が破った。
今のところ、まだ
「ねえ、エルミヤさん、魔法で空って飛べる?」
「はい? ええ、まあ――」
「よし。いいよ、エルミヤさん。やって!」
「わかりました、小虎お嬢さま。――――
小虎の作戦というのは、こうだ。
切り裂きの爪を両腕に装着した小虎が、上空を飛ぶ
そもそも、あの
「気をつけろよ、こと――いや、お嬢!」
「小虎でいいよ、竜司」
エルミヤさんの魔法で、ゆっくりと空中へ浮かんでいく小虎。その役は俺が代わると何度も言ったが、彼女は首を縦に振らなかった。
「一回で絶対倒せるとは限らないし、エルミヤさんも私と竜司の二人同時には飛ばせられないでしょ? 竜司は最後の砦なんだから、とにかくここは私に任せて」
決して、ヤケッパチや無鉄砲などではない。事態を冷静に判断して、小虎は切り込み役を買って出たのだ。そこは、さすが
彼女の頭には一対のトラ耳が、そして背後には長い尻尾が暴風になびいている。それは、虎の半獣人としての誇りと魂の証だ。
「負けんじゃねえぞーーっ! 小虎っ!」
ふたたび俺たちの前に迫ってきた黒雲が、少しずつ晴れていく。その中心から姿を現したのはまさしく、あの
「とにかく後ろだ、後ろに回り込め!」
俺は地上から見守りながら、小虎に指示を送った。とにかく、あのブレスだけは絶対に食らってはいけない。奴に致命傷を喰らわせるためには、死角から狙って攻撃するしかないだろう。
「わかってる! 竜司!」
ねんのため、小虎には
「小虎お嬢さま! 今ですっ!」
「いっくぞぉーーーーっ!」
小虎の身体を魔法で操っているエルミヤさんが叫んだ。なんとか
「ギシャアアアアッ!」
「いいぞ小虎! やっちまえ!」
体勢を整え、とどめの一撃を見舞おうとした小虎。だがその時、何やらキラリと光る物体が彼女を目がけて飛んでいくのが見えた。それが一本の弓矢だとわかったのは、しばらく経ってからだった。
「小虎お嬢さまっ!」
その矢が小虎に届く直前、彼女の姿は空中から消えた。
「あーあ、もう。ホンット、困るんですよねえ。これ以上、余計なことをしてもらっては――――」
俺たちの背後からその姿を見せたのは、
続く