僕の紹介が六課の人、全員にやり終えたのを見て手塚課長は言った。
「うん、これで一通りの紹介は終わったかな。ちなみに、佐々木君と市川君もマイグレーターなんだよ」
「そ、そうなんですか」
つまり、天野君を合わせて六課には三人のマイグレーターがいるってことなのか。
「言われないと、全然分かんないでしょ」
丈人先輩が言った通り、これっぽっちも丈人先輩と市川さんがマイグレーターということに気付かなかった。
「はい、全然わかりませんでした」
「だよねー」
そう言って、丈人先輩は明るく笑った。
「それじゃあ、新しく伊瀬君のデスクとなるとこに荷物とか置いちゃおうか」
「分かりました」
手塚課長に言われて僕はすぐそばにあった、空いているデスクに荷物を置こうとした。
「あ~ごめんね、伊瀬君。そこじゃなくて、もう一つ奥のとこにお願い出来るかな?」
手塚課長が慌てたように言った。
少し奥にはもう一つ空いているデスクがあった。
こっちが僕のデスクだったようだ。
「あ、はい。了解しました」
僕が間違えて荷物を置こうとした時、一瞬だけ空気がピリついた気がしたのだが勘違いだろうか。
六課の人たちにこれといって変わった様子は見られなかった。
「いや~ごめんね。ちょっと言葉足らずだったね。うっかりしてたよ~」
手塚課長はわざとらしく自分のおでこを叩いて謝った。
「そんなことより、重要な報告って何です? そのために集まったわけですよね?」
天野君が大きくのけぞって手塚課長に聞いた。
「うん、そうだね。重要な報告というよりも情報の共有の方が正しいかな――」
手塚課長がそこまで言った時、扉が開いて誰かが入ってきた。
「手塚課長、準備できたよ。防音対策もバッチリだし、盗聴の心配もないよ」
入って来たのは最初に僕に声を掛けてきた綺麗な女の人だった。
「うん、ありがとうね。それじゃあ、早速だけれど話してもらおうかな」
「課長、だから俺達に話すことって何なんです? そんなに重要なこと何すか?」
天野君が疑わし気に手塚課長に聞いた。
「うん、かなりの機密事項であるマイグレーションが初めて観測された事件についての話だからね」
「なッ! どういうことですか!?」
天野君は食い気味に手塚課長に聞き返した。
手塚課長の言葉は天野君を含め、多くの人をひどく驚かしていた。
「まぁ、そう焦らないで。詳しい事は彼女から話して貰った方が良いと思うよ。なにせ、彼女はマイグレーションが初めて観測された事件の当事者だからね」
手塚課長の言葉に、また多くの人がひどく驚いた。
「皆にはまだ話したことがなかったから、驚くのも無理もないよね。と、その前に自己紹介がまだだったね。突発性脳死現象じゃなくて、マイグレーションについて専門に研究している
姫石さんは僕に向かって元気よく挨拶した。
「伊瀬祐介です。こちらこそよろしくお願いします」
僕も元気よくとはいかずとも挨拶を返した。
「よし、自己紹介も終わったことだし私の昔話でも聞いてくれるかな? ……七年前のあの日、何があったのかを――」
そう言って、姫石さんは静かに語り始めた。