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告白のとき(歩目線)

 朝、目が覚めるといつものように、タケシ先生が先に起きていた。隣で横たわりながら何故だかじっと俺の顔を見ているんだけど、誘うような視線のせいで朝からすっげぇ刺激的なんだ。


「タケシ先生、おはよ!」


 ワァ──ヽ(〃v〃)ノ──イ!!

 そんな感じで抱きつこうとした俺の頭を、容赦なく殴りつけるのもいつもの朝だったりする。


「おはよう太郎……。毎度毎度、起きた瞬間からテンションMAXって、お前の体はどうなっているんだろうね」


 呆れながら起き上がり、うーんと伸びをするタケシ先生。空いてる膝に、頭をうりうり擦りつけた俺。一緒にいられるこの瞬間が、堪らなく好きなんだ。


「夏休みに、俺と一緒に行ってほしいところがあるんだけど」

「もしかしてそれって、旅行のお誘いですか?」


 寝心地のいいタケシ先生の膝からその顔を見上げると、どこか曇りがちだったせいで、頭の中にクエスチョンマークが浮かんでしまった。まるで旅行先が、暗い場所みたいな感じじゃね?


 えらく真剣な眼差しに、テンションMAXだった気持ちが一瞬で沈んでいく。


「旅行は旅行なんだけどさ……行き先は俺の両親のところ。親父が小さな島の診療所で働いてるんだけど、そこに一緒に行かないかって」


 キタ━━━━(*゚∀゚*)━━━━!!


 嬉しさのあまり、起き上がった俺の頭がタケシ先生の顎を直撃……


 ガツッ!


「痛っ!!」

「あうぅっ、ごめんなさい」

「お前……朝っぱらから俺を怒らせることに関しては、天才的だな。信じられないわ」


 顎を撫で擦りながら恨めしそうに見る視線は、いつも通りのタケシ先生でちょっとだけ安心する。


「ゴメンなさい。ワザとじゃないんですぅ」

「ホントかよ、信じられない……」

「あのあのっ、一緒に行っていいんですか? ご両親のトコ」


 それって何か、えっと顔合わせっていうヤツだよな。勢い余って「タケシ先生を俺にください」って言ってしまったら、どうしよう。


「ああ。ちょっとばかり遠いんで、泊りがけの旅行になるけどね。予定を空けておいてよ」

「空ける空ける、絶対に予定なんかいれません! 全力で頑張っちゃいますって」

「……お前は頑張らなくていい、むしろ何もするな。喋らなくていい」


 タケシ先生の言葉で、喜びで膨らんだ心が音を立てて縮んでいった。何なんだよ、この亭主関白宣言的な発言は!?


「先に教えておくが親父に逢いに行くのは、ケンカしに行くようなものだから。お前は口を挟まないでくれ」


 だから、沈んだ顔をしていたのか――


「ケンカって何でですか? 久しぶりの再会なのに」


 その修羅場に俺を連れていくのも正直、疑問に思えてきたぞ。和ませるために連れて行くのか? それとも――


「もしかして……俺と付き合ってることを言っちゃう、なんて」


 ぽつりと呟いた言葉を肯定するように、俺に背中を向けたタケシ先生。


「お前は何も考えなくていい。黙っていればいいだけだから」


 吐き捨てるように言って、勢いよく寝室から出て行ってしまった。残された俺は、どうしていいか分からず、ただアホ面するしかなくて。


「……何も考えるなっていう方が無理だろ」


 タケシ先生のご両親に逢えるのは素直に嬉しいことなれど、恋人として逢うなら話は別次元だ。


「ヤベェ。今頃、体が震えてきちゃった」


 俺とのことでケンカしに行くタケシ先生に、何とか出来ないものかといろいろ考えてみたけど、全然いい案が思い浮かばず、その日を迎えたのであった。


 つづく

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