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繋がり届く思い~一緒に島へ~(周防目線)

「うっ、タケシ先生ぃいぃ~……」


 フェリーから降り立った途端に、両目を潤ませた歩が走り寄ってきて、ぎゅっと体にしがみついた。たった一晩離れていただけなのに、どうしたっていうんだ? もしかして、想像以上に親父に叱られたんだろうか?


「なんだ、そんな変な顔して」

「変って言うなよ。俺がすっげぇ心配してたっていうのに、スマホの電源ずっと落したままでいたのは、どこの誰だよ?」


 ――ああ、そのことか。


「電源落すに決まってるだろ、病院の中にいるんだから」

「その病院の中で何かあったら、どうやって助けを呼ぶんだよ?」

「助けを呼ぶような場面は、全然なかったって」

「……御堂って先輩に、襲われなかった?」

「うっ……(・ ̄Д ̄;;)」


 歩の言葉に思わず視線を逸らして息を飲んだら、潤ませていた瞳をキッと釣り上げ、いきなり俺の体をくんくんと嗅ぎまくる。


「おいおい、麻薬探知犬ならぬ浮気探知犬か、お前は……」

「誰がそれを、させてるんだっちゅーの」

「安心しろ。ただ一瞬だけ唇が触れただけだか――」


 言うや否や顔を寄せて唇を奪おうとするなんて、何を考えてんだ! 迫ってきた顔に迷うことなく、パンチをお見舞いしてやる。

  ゚・゚*・(゚O゚(☆○=(・`◇´*)o


「あだっっ!!」

「人目があるところで、何をやらかすんだ、このバカ犬が! 場所をわきまえろ」

「ううっ、容赦ねぇよぉ……」


 顔面を押さえ痛そうにしつつ、口角がちゃっかり上がっているのは、もしかしてマゾなのか!?


「安心しろ。今の倍の力を入れて、御堂先輩に仕返ししてやってるから」

「ひいぃっ……。ソイツ、生きてるのかよ?」

「大丈夫だ。あの人は叩かれ慣れているから。そういう人生を歩んでる、バカな男さ」


 両腕を組んで歩を見上げてやると、神妙な表情を浮かべる。ま、ある意味コイツも似たようなことをしていたから、同病相憐れむってトコなのかもな。


「本当に、キスされただけで終わったのか?」

「そういや、尻も触られたっけか。あれはいつものことだから――って、あのなぁ……」


 いきなりしゃがみ込んで、両手を使って払うように尻を触ってくれるとか、何をやってんだか。

 呆れた視線で見下ろしてやっても、何のその。使命感に燃える看護師のように、俺を仰ぎ見た。


「他には、何かされた?」

「もう大丈夫だって。帰り際に握手を求められたけど、叩いて帰って来てやったしね」


 キスのお詫びにと教授に引き合わせてくれたのは、とてもラッキーだった。雑誌に載せたかったけど、文量が多いせいで省いたという面白いことも聞けたし、来月地元の隣町で行われるという学会に、特別にお誘いされてしまった。


 残念なのは、教授のお供を御堂先輩がするってことくらいかも。なのでこのことを知ったら、間違いなく歩がしゃしゃり出てくるだろうな。


「それよりもお前、一晩で随分とやつれたね。親父とお袋に、バカバカ言われたのか?」

「……そうじゃねぇけどさ。とりあえず、俺たちの馴れ初めを話せって聞かれたから、丁寧に説明しただけ」


 ゆっくりと立ち上がり、いきなり肩を抱き寄せ、ぎゅっと抱きしめられてしまった。


「ちょっ、おい!」

「わりぃ、少しだけこのままでいさせて……。タケシ先生のエネルギーちょうだい」


 馴れ初めを説明しただけで、こんなになるのはおかしい。きっと、キツイことでも言われたんだろう。


「よくひとりで頑張った、偉かったね歩」


 無駄にデカイ背中に両腕を回して、抱きしめ返してやった。耳元で鼻をすする音が聞こえるが、知らないふりをしてやろう。


「タケシ先生……」

「ここからはお前ひとりじゃない。だから一緒に頑張ろう。俺たちの想いを、きちんと伝えるためにさ」

「分かった、頑張る」


 勢いよく俺の体を離し、背中に回り込むと両手でぐいぐい押してくれた。


「わっ、何なんだよ!?」

「とりあえずタケシ先生が説明して、俺がそれを補足するから。ヨロシクってことで、前に立って」


 弱いヤツだなと思ったけど、それまでの頑張りを認めてやるべく、とりあえずこのままでいてやることにした。


 今回の帰省だけで想いが届くとは思えないけれど、少しでもいいからわかってもらえるように、頑張ることを胸の中に誓ったのだった。

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