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You're my first and last lover.

 昨夜、歩が起こしてくれた恥ずかしい出来事のせいで明朝、親父とお袋に顔を合わせるのが、どんなに辛かったことか――


「おはようございます。あ~昨日はぐっすり、眠ることができました!!」


 誰も聞いちゃいないというのに、歩は実に爽やかな顔をして朝食を食べるべく、テーブルにいた面々に報告する。


 というか、親子間でそこはかとなく漂っている微妙な空気を読まず、無邪気に自分を出せるコイツは、ある意味最強なのかもしれない。


「あらあら、仏頂面したふたりが霞んでしまうくらいに、王領寺くんの笑顔が眩しく見えるわ」

「お袋、それ以上コイツを褒めないでやって。つけ上がって大変な目に遭うのは、俺なんだからさ」


 呆れた顔をそのままに、いただきますをして味噌汁を口にする。


「んもぅタケシ先生ってば、恋人が褒められたのに嬉しくないのかよ?」


 歩の言葉に飲み込みかけた味噌汁を吹き出してしまいそうになり、慌てて飲み込んでから、横目で睨んでやった。


「お前のにんまり笑ったサル面があまりにも不憫に見えて、仕方なく褒めてもらったんだ。やっぱバカ犬だわ……」

「……武、このまま王領寺くんを苛め続けたら、ぽいっと捨てられるかもな」


 唐突にぼそりと告げられた親父の言葉が信じられなくて、まじまじと顔を見つめてしまった。そんな俺の視線を無視し、親父は美味しそうにご飯をパクパクと口に運ぶ。


「どんなに苛められても、絶対にタケシ先生を捨てません。むしろ、構ってもらえるから嬉しいです。お父さん」

「お父さんって言うなと、何度も言っているのに……しかもこんな可愛げのない息子の、どこがいいんだか」

「誰かさんに似ちゃったから、可愛げがないんだよ」

「そんなこと言っちゃって。お父さんのことが好きなクセに」


 にやにやしながら笑う歩が、憎たらしい事この上ない。この報復として隣に置いてあるソーセージを素早く、自分の皿に移動してやった。


「あっ、それ俺の~……」

「お前は黙って、野菜だけ食べればいいんだ!」

「あらあら。可哀想に」


 そう言ってお袋が自分の皿から歩にソーセージを渡そうとしたら、親父があっという間にソーセージを2本、放るように置いたではないか。


「可愛げのない息子の親として、しょうがなく贈呈したんだ。遠慮せずに食え!」

「親父……」


 少しだけ頬を染めて味噌汁をすする姿に、苦笑してしまった。


「ありがとうございますっ。このお礼はタケシ先生を幸せにすることで、お返ししますので」

「「そんなもん、返さなくていいっ!!」」


 まるで呼吸を合わせたように、同じ台詞を言った俺と親父を、歩とお袋がお腹を押さえてゲラゲラ笑ったのは言うまでもない。

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