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とっても悪い子
とっても悪い子
織戸薫
文芸・その他童話
2024年11月13日
公開日
2,774字
連載中
とっても悪い子「一真」は、子どもじごくに落とされてしまう。

とっても悪い子

とっても悪い子

                             織戸 薫

「一真(かずま)、パパとママは、今からお買物に行くのよ。一真は、じいじ(・・・)とばあば(・・・)のお家(うち)で待っていてね」

 ママの言葉を聞いて、一真はとっても嬉しくなった。だって、ここでは、やりたい放題ができるからだ。

 パパとママが出かけると、一真は、おもちゃの刀を抜いて、ブスリブスリと、押入れのふすまに穴をあけた。

「一真、そんなことをしたら、だめだよ」

 じいじ(・・・)が言ったけれど、一真は知らんぷりだ。そして、その穴に指を入れて、ビリビリと破り始めた。穴がどんどん大きくなって、とってもおもしろいのだ。

 ふすま破りにあきてきた一真は、テーブルの上にあったつまようじ(・・・・・)を、全部床にぶちまけた。

「一真、そんなことをしたら、だめだよ」

 ばあば(・・・)が言ったけれど、一真は知らんぷりだ。そして、床にしゃがんでつまようじ(・・・・・)をポキポキと折って遊び始めた。

「じいじ(・・・)、公園に虫を取りに行くよ」

 一真は、大好きな長ぐつをはきながら、じいじ(・・・)に言った

 公園で一真は、バッタ(ばった)を二匹とてんとう(・・・・)虫をつかまえた。

「ばあば(・・・)、バッタ(ばった)とてんとう虫をつかまえたよ」

「まあ、一真は、虫とりがじょうずだねえ。でも、もう逃がしてあげなさい」 

「うん」

 一真が、つまんで空に放り投げると、てんとう虫は、びっくりしたように飛んで行った。次にバッタを地面に置いたけれど、バッタは、きょろきょろしているだけだ。

「えいっ!」

 一真は、そのバッタを長ぐつで踏みつぶした。バッタのお腹から、うんこが出てきた。

「こら一真!そんなことをしたら、だめだよ。かわいそうだろう」

 じいじ(・・・)が怒って言った。

 でも一真は知らんぷりだ。一真は、次に庭の木の枝をポキンと折った。ばあばが大切にしている木だ。

 それから、一真は押入れの中に隠れた。かくれんぼをしようと思ったのだ。

 するとその時、ボコンと大きな音がした。そして、一真は暗い穴の中に落ちて行ったのだ。

「うわぁ!」

 一真は、びっくりして叫んだ。

「怖(こわ)いよう!助けてえ!」

 一真は泣きだしたが、だれも助けに来てくれない。

 やっと終点に着くと、そこには、大きな棒を持った赤鬼が立っていた。

(ふん、だまされないぞ。幼稚園の先生かパパが、お面をかぶっているのだろう)

「おまえは一真だな。さあ、大王様の所に行くぞ」

 赤鬼が、いばって言った。

「ここは、どこなの?」

「ここは、悪い子供が落ちて来る『子供地獄』じゃ。良い子に成る迄は、お家(うち)に帰られないのじゃ」

 赤鬼といっしょに歩いて行くと、大きな門がある立派なお屋敷に着いた。門の両側には、赤鬼と同じように大きな棒を持った、青鬼と黄色の鬼が立っていた。

「おまえがした悪い事は、みんな、これに書いてあるぞ!」

 金ぴかの大王様は、白い紙を、ひらひらさせながら言った。大王様は赤鬼の二倍くらいの大きさだ。

 一真は、びっくりした。

(こんな大きな人は、見たことがないぞ。だれだろう?)

「赤鬼、この子は、とっても悪い子だ。 3番の部屋に、連れて行け」

「はい、分かりました」

 赤鬼は、大王様におじぎをして言った。

 門の外に出ると、岩山に大きなほら穴があった。その中に入ると、鉄ごうしがある部屋が、いくつも並んでいた。

 最初の部屋には➀と書いてあった。その中には、泣きべそをかいた子供達が入れられていた。

「この子達は、何をしたの?」

 一真は赤鬼に聞いた。

「自分のお家(うち)に、いたずらをしたのじゃ。壁にシールを貼ったり、落書きをしたのじゃ」

 その部屋の奥にあるドアが開いた。そこから出て来たピンクの鬼が、プリキュアの服を来た女の子を指差して言った。

「さあ、次はお前の番だ」

「キャア!良い子に成るから、やめてえ!」

 女の子の叫び声が、ドアの外まで聞こえてきた。

「あの部屋の中で何をされるの?」

「いたずらをした相手から、仕返しをされるのじゃ」

「じゃあ、ふすまを破ったら、どうなるの?」

「そんなことをしたら、百枚のふすまの紙が、お前をぐるぐる巻きにするから、息ができなくなるじゃろうな」

 一真は、自分がこの部屋でなくて良かったなと思った。

 次の部屋には、➁と書いてあった。その中には、泣きべそをかいた子供達が入れられていた。

「この子達は何をしたの?」

「物を大切にしなかったのじゃ」

 奥にあるドアが開いた。そこから出て来た白い鬼が、仮面ライダーの服を着た男の子を指差して言った。

「さあ、次はお前の番だ」

「良い子になるから やめてえ!」

 男の子の叫び声が、ドアの外迄聞こえてきた。

「あの部屋の中で、何をされるの?」

「いたずらをした相手から、仕返しをされるのじゃ」

「じゃあ、つまようじ(・・・・・)をポキポキ折ったら どうなるの?」

「千本のつまようじ(・・・・・)が飛んで来て、お前の顔じゅうに刺さるじゃろうな」

 一真は、自分がこの部屋でなくて良かったなと思った。

 最後の部屋には③と書いてあったが、中には誰もいなかった。肌色の鬼が、だまって待っていた。

「どうしてここには、誰もいないの?」

「ここは、とっても悪い子を入れる所じゃからな。とっても悪い子なんて、そんなにたくさんは、いないのじゃ」

「とっても悪い子は、何をしたの?」

「人が大切にしている花をむしったり、生きているものを殺したりしたのじゃ」

 一真は胸がドキドキしてきた。

「じゃあ、木の枝を折ったら、どうなるの?」

「お前のお尻や口や耳の穴から、木の枝がにょきにょきとはえてくるじゃろうな」

「生き物を殺したら、どうなるの?」

「殺された生き物が、百倍の大きさに成って、お前を食べに来るじゃろうな」

(百倍の大きさのバッタだって?かみつかれたら、どうしよう)

 一真は、怖(こわ)くて怖(こわ)くて、たまらなかった。

「さあ、とっても悪い子を連れて来たぞ」

 赤鬼は、鉄ごうしをギギッと開けながら言った。

「ようし、さあ入れ」肌色の鬼はニヤリと笑って、一真に手をのばしてきた。

「いやだ、いやだ!良い子に成るから、やめてえ!」

 一真は大声で叫んだが、とうとう肌色の鬼につかまってしまった。一真は逃げようとして、手と足をバタバタさせたが、 肌色の鬼は、 しっかりつかんで離してくれない。

「こら、一真。どうした?落ちつきなさい」

 あれ?パパの声だ。

「どこをさがしてもいないから、心配したわよ」

 ばあば(・・・)の声だ。

「そしたら、押入れの中で、大声で泣き出すのだからなあ。びっくりしたよ」

 こんどはじいじ(・・・)だ。

「とっても怖(こわ)い夢をみたのね?かわいそうに」

 ママもいる。

 一真が顔をあげてみると、一真をつかまえているのは、肌色の鬼ではなくてパパだった。

 安心して泣くのをやめた一真は、考えた。

(明日からは、とっても悪い子はやめにして、ふつうの悪い子に成ろうかな)


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