目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

F085 This is a memory of one day.




「初めまして!!私〜ゆきッ!これからよろしくね〜!」


「う、うん。よろしく…」


 まだこの頃のユキは、今よりもわんぱくな女の子だったっけ?


 目の前に立つ少女は8才の時のユキ…。だと思う。初めて会ったのは確かそのくらいのはずだから。



「君の名前は〜!!」


「私…、なゆか。よねじま なゆか」



「おっけ〜!なゆかちゃんだねッ!あっちに行って一緒に遊ぼうよ〜!!」


 そう言って私の腕を強引につかんで引っ張っていく。というかここどこだっけ?


 周りには豪華ごうかな料理が高いテーブルの上に並び。周りには、ドレスやタキシードなどの大人達ばかりだ。それにユキも幼い体に合わせて作られたカワイイドレスを見にまとっている。か、かわゆい!!

 よく見たら私も当時のサイズにあったドレスをきて可愛く着飾きかざっていた。


 懐かしいなぁー。これユキと初めて会った時の夢だよ。自分が夢見てるってはっきりわかるんだね?明晰夢めいせきむってやつかな?ニコニコ笑いながら遊んでいるユキと少し戸惑いながらもその子の遊び、というものを体験する私。


 あ、意識はあるけど体の自由がかないね。勝手に当時の私をトレースしちゃってるよ。


 その頃の私は人付き合いなんてなかったから、ずいぶんとオドオドしてるけど…。今にして思えば仕方ないよね?敷地外しきちがいに出たこともなかったんだから。


 その日は、初めて外に出て。初めて敷地外の人に会って。初めてパーティーなんてとこに行ったんだから仕方ないよ。

 なんのパーティーだっけ?これ。

 まあ、それはともかくこの時の私は、一気に色んな情報を取り込んで、むしろオドオド程度で済んだことをめて欲しいくらいだ。普通の子なら泣いてるんじゃない?


 パーティーの途中で、パパは同じえらそうな人と話しながらどこか行っちゃうし、ママはママで色んな食べ物を取りにどっか行っちゃうし。危うく迷子になりかけた私に、ユキが話しかけていたんだっけ。









そのまままた腕をつかまれて…













「なゆかッ!逃げるよ!」


「う、うん!」


 あれ?一気に景色が変わった?1面ゴージャスだったパーティ会場から一面に広がる物々しい赤い景色…ここはあの時の…

 強引に腕を掴まれて引っ張られていく私。そしてその犯人はさっきよりも少し大きくなったユキ。走っているのはパーティー会場なんかじゃなくて。


ビーーーーー。ビーーーーー。


 うるさく耳に響く警告音と、至る所で赤いランプが天井から飛び出し、くるくると回っている見慣れた廊下。


 パツゥン。パツゥン


 私のすぐ後ろで鳴る銃声が、ユキの持っていた要人警護用のバリアにさえぎられる音。


 あぁ、これワンライフでユキの昔を思い出しちゃったせいだね。



 もちろん先程と同じように体の自由は効かない。声も出せない。「あの時」の再現。


 走って何かから逃げる。私たちの後ろから徐々に近ずいてくる足音。私の顔はきっとこの時恐怖にゆがんでいたのだろう。


「くっ!追いつかれる…、なら」


 途端に進路を変え廊下からひとつの部屋に入るユキと私。ここは制御室。この先は何も無く行き止まりだ。


「やっと追い詰めたぜ…。大人しく言うことを聞きな!じゃないと小さいからって容赦ようしゃはしないぜ?」


「命令は誘拐だ。痛めつけるなよ」



「わーってるよッ!」


 入口を武装した男2人に塞がれ、もう逃げ場はない。その時の私はなんでこんなことに?なんて考えてユキに引っ付いていることしか出来なかった。


 ユキを握っている手に自然と力が入る。それを察知していたユキはその手をはなし、別のものを私に渡す。


「これはなゆかを護ってくれるよ〜!だから…。しっかり持っててね?」


「え?まっ!?」


 そう言ってユキはバリアなしで男達に向かっていく。


 銃口から出る弾丸は、あとから麻酔弾(ポインタ・テレ・バレット式非殺傷麻酔薬)であったらしいと聞いたが、そんなこと知らない当時の私はそんな無謀むぼうなユキの行動に理解が追いついていなかった。


 パッパッ!!!


 そんな音がユキに向かって放たれる。未だに動けない私はただただユキが撃たれたと感じたが、即座にそうでは無いことを目撃した。


 相手の持っている。銃口を見てトリガーに注目していたユキはその瞬間に大きく横に避けたのである。子供だと油断し放った麻酔弾は躱され、その隙に近づいたユキが1人の男の銃をするりとうばいそいつに発砲。即座にその男を盾にしてもう1人の男の弾丸を防御。盾にした男の後ろからもう一度発砲し、もうひとりの男を仕留めた。




「よし!」


 そのまま倒れた男達を部屋の外に引きり出し。部屋のよく分からない機械をいじって外から制御室が開かないようにしたユキ。


「もう大丈夫だよ〜。あとは助けが来るからそれまでここで隠れてようね」


 そう、私に振り返って言ったユキはよく見ると震えていて。でもその時の私は、そんなこと気付かずにユキに嗚咽おえつを漏らしながら抱きついたのだった。


 その時の私は、ユキのことなんて気にしている余裕がないくらい怖さで泣いていたのだけど。後でその事に気づいたんだ。



 ユキだって怖いのに私のために我慢してくれていたんだ。やっぱりユキは昔から強かったんだね。


 その後、無事助けられた二人を見て、パパはとても泣いていた。ママは優しく二人とも抱きしめてくれて…。そのまま私は緊張から解かれたと同時に深い眠りに落ちた。






 目が覚めると、ユキが私に抱きつきながら寝ていたのだった。







 もし、ユキに何かあったら、今度は私も君のために動けるのかな?








第一話 「F」lashback

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?