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35 アシスト

奇愛は白目でイズルを睨んで、珍しく真面目な話をした。

「知っているでしょ。あたしのお父さんは末っ子で、もともと趙氏財団の継承人じゃなかったの。彼の実の兄と姉、あたしの伯父さんと伯母さんが財団を握っていた」

「伯父さんは子供がいなくて、財団を伯母さんの一人娘、あたしの従姉に任せるつもりだったけど、あの従姉は大問題を起こして、財団から追い出された。だから、継承権はお父さんに回したの。伯母さんは不服で、何度も何度もトラブルを起こしてて、お父さんとお母さんは何年も頭を抱えていた」

「多分二三年前かな、お父さんとお母さんの会話で、『新世界』のおかげでお伯母さんはやっと諦めたって聞いたことがある。そのほかにも、『新世界』は強引でうるさくて、いろいろ面倒くさいとかも言ったような気がする……」

「『新世界』は誰?と聞いたけど、『人間ではない、大きくなったら分かる』って教えてくれなかった」

財団を操る暗黒勢力!?

イズルの心臓が震えた。

祖父から聞いたことがある。

趙氏財団と万代家の関係は非常に悪い。

趙氏財団も裏ビジネスをしているけど、万代家だけに絶対やり取りをしない。

本当に万代家と対立する暗黒勢力に操られたら、その関係の悪さが説明できる。

「新登場」もまた万代家と対立する暗黒組織、その正体は、まさか趙氏財団と裏でつながっている「新世界」なのか?

ずっと傍に潜んでいるから、渡海家のことを一早く把握していて、接触しに来た……

たとえ両者は別組織でも、「新世界」は身近にある暗黒勢力の一部で間違いないはず。調べる価値がある!

そう思うと、イズルは刺々しい表情を収めて、大変困りそうな表情で奇愛にお願いをした。

「奇愛ちゃん、申し訳ないけど、代わりに『新世界』のことを叔父さんたちに詳しく聞いてくれないか?本当はオレがやるべきことだけど、まだ相手に感づかれたくない。あなたに頼むしかない……」

「うへぇ!!な、なにを?!」

そのガラッと変わった態度に、奇愛はびっくりした。

「用があるなら普通に言ってよ!」

「だから、お願いする。オレ…お兄ちゃんは以前からいろいろ迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ない。今回だけは、どうしても奇愛ちゃんの力が必要だ……」

「!!」

イズルは更に「誠意」を見せるつもりだけど、奇愛は更に怯えた様子で軌跡の後ろに隠した。

「わ、分かったわよ!聞いてやるよ!その捨て犬みたいな顔を止めて!本当に壊れたの……?」

奇愛は腕を抱えて、鳥肌の立てた腕をなでる。

「でも言っておくけど、あんたの気持ち悪さが怖いからOKしたんじゃないの。渡海お爺さんや伯母さんたちはあたしにとても親切だったから。単純な事故じゃなかった以上、あたしもそれを放っとけないの……」

奇愛に続いて、軌跡も手をあげた。

「隊長、俺に何かできることはないか?!」

「オレから離れ。暗黒組織は人質を取らない保証はないから」

「ダメだ!隊長はこんなに困っているのに、俺たちはじっとしていられない!お力になれることは絶対あるはずだ!」

「子供」の奇愛でも力になれるのに、大人の自分たちはできないわけがない。軌跡はそう信じている。

一生懸命に考えたら、彼は閃いた。

「奇愛はその『新登場』担当なら、俺たちは『万代家』担当になろう」

「却下。お前たちが命を惜しまなくても、オレは間接殺人犯になりたくない」

万代家の残忍が分かっていて、イズルはきっぱりと軌跡を断った。

「危険なことをする意味じゃなくて」軌跡はさっそく補足、

「万代家の娘の目的を調べてあげると言いたいんだ」

「リカのこと?」

「そうだ。俺たちは隊長の友達として、普通に彼女に接触する。観察者が多ければ、暗黒令嬢でも緊張する思う。そのうち、ボロが出るかもしれない。何と言っても、隊長は女を見る目がないから、何があってもすぐ気づかないだろう。食われる一方の心配もあるしな」

「……オレは女を見る目がない?どこからそんな結論?」

舐められたような話を聞いて、イズルは眉を顰める。

(まあ、食われる一方は否定できないが……)

軌跡は言いにくそうに苦笑いをした。

「隊長、本当のことを言うから、怒らないでください……正直、隊長の紹介でチームに来た女はビッチばかり、どれもサバイバルゲームが好きじゃなくて、隊長のお金と体を狙っていたんだ。俺たちは援護しなかったら、隊長はもう骨も残らないだろう……」

もちろん、イズルは納得できない。

別に下心を持つ女に惑わされやすいじゃない。

「やってみたい~」と声をかけられたら、断るのが面倒くさいと思って、実戦で諦めさせたいだけだ!

「……オレの目をそんなに信用してないのか?オレたちの友情はどうなってる?」

軌跡は長く嘆いて、奇愛を見ながらイズルにとどめを刺す。

「友情と人を見る目とは別だ。隊長は女性を見る目が確かなものだったら、奇愛はすでに『隊長の奥様』になったんだろ。ほかの女にチャンスをやるあるもんか」

「?!」

「?!」

イズルだけではなく、奇愛も重い一撃を食らった。

二人はビッグバンでも目撃したように、目を大きく張って軌跡を注目した。

「オレの目を言う立場はあるか……」

イズルは指で眉間を揉んだ。

「軌跡兄ちゃん……違う…あたし、あいつ……とにかく違うんだもん!!」

笑うべきか泣くべきか、奇愛は混乱に落ちて、どこから説明すればいいのか分からなくなちゃった。

その焦っている姿を見て、イズルは思わず笑いたくなった。

この瞬間、まるで憂いもなく遊んでいた頃に戻ったみたい。

さっきまで強張っていた神経も少し余裕を取り戻した。

やはり、仲間はいいな。


青野翼に精神的に不安定と言われたことがある。

確かに、緊張しすぎると、実力を発揮できないし、頭も上手く回らないだろう。

安全のために、軌跡たちをこの件に深く巻き込みたくない。

でも、悩み相談の相手なら、彼たちより適切な人はいない。

「どうだ、隊長?」

軌跡はイズル返事を急かせた。

「そうだな。今まで、あいつはオレに怪しいことをしなかったから、オレの目の届くところだったら、軽い接触がありかも……」

突然に、イズルのスマホの着信メロディーがまた響いた。

今度は、リカに設定したばかりの曲『セレナード』。

電話の向こうのリカの声は、メロディーのように穏やかで優雅だった。

「生きたいなら、今週の土曜日、私とあるところに行きましょう。それまで質問を受け付けない」

「……」

でも、話の内容は相変わらず横暴で理解不可だった。

イズルはもう言うことがない。

はやり、助っ人が必要だ。

少なくとも、女性を見る目の持つ人……いいえ、リカの脳回路を理解できる人が必要だ。

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