「見ての通り、おかしい奴ばかりだ」
イズルはため息をつきながらリカに説明した。
「でも、皆も持ち技があって、肝心な時に足を引っ張ることがない。お前にとって信頼できる奴じゃないかもしれないけど、何があったら、役に立てるかもしれない。後で連絡先を送るから、遠慮なく頼んでいい」
あの偽物のニュースのことを思い出して、この騒がしい人たちはただの野次馬ではないことがリカも分かる。
類は友を呼ぶ。
多分イズルと同じ、ああなところがあるけど、いざとなったら頼りになれるのでしょう。
何と言っても、これはイズルの好意による紹介、頼むことがなくても、礼を言うべきだ。
「分かってるよ。ありがとう」
とリカは素直に感謝をした。
イズルに警告されてから、騒がしい連中は二人の邪魔をしなくて、自分たちだけで盛り上がることにした。
リカは片隅で静かに甘いものを食べながら船中の人たちを観察する。
奇愛は一番子供っぽくて、中国で18歳はもうお酒OKだから、飲みバトルだ!って騒いでいる。
もう二人の女性は奇愛より年長のようで、必死に彼女の世話をしている。
軌跡を始め、ほかの男性たちも奇愛に気を配って、彼女からお酒や激辛ものを奪い取る。
イズルはリカの隣の船端に寄りかかって、さりげなく話をかけた。
「やつらは紳士ぶっているんじゃない。酔っぱらいになった奇愛の八つ当たりが怖いからだ」
「八つ当たり?」
「以前、うっかり奇愛に飲まれたことがあってね」
イズルは声を捻じ曲げて、奇愛の鳴き声の真似をする。
「あたしの軌跡兄ちゃんを返してよ~軌跡兄ちゃんが鈍感になったのはあんたたちと一緒にいたせいよ!馬鹿を移さないでよ!!馬に蹴られて死ね!!」
イズルのモノマネは実に可笑しい。でも、笑いよりリカの疑問が先に走った。
「そのくらいするなら、告白したほうが早いでしょ?」
「したよ。オレが知っている限り、何回もした。軌跡の鈍感はオレたちがなんとかできるレベルじゃないんだ」
「軌跡兄ちゃん!好きです!」
「俺も奇愛のことが好き、が……本当にごめん!奇愛のチームに入れないんだ」
「……」
「軌跡兄ちゃん!結婚して!」
「ああ、あのゲームか?最近結婚機能を実装したな。面白いじゃ、奇愛のアカウントを教えてくれ」
「……」
「軌跡兄ちゃん!あたしの両親に会ってください!あたしをもらってほしいの!」
「またいたずらしたのか?俺がついてあげるから、おじさんとおばさんに素直に謝ろう」
「……」
「……」
リカは呆れた。
恋愛のことに敏感ではない彼女でも、こんな直球を撃たれたらさすが気づく。
「……断りたいからスルーしたんじゃない?」
「軌跡に限って、そんなことはない。キープのような卑怯な真似をする男じゃない。脈がなかったらちゃんと断るはずだ」
奇愛たちに注目しながら、イズルは苦笑した。
「あの二人は幼馴染。小さい頃から一緒におままごとをやって、結婚ごっこも結構してきたらしい。もう免疫したかも」
「なんだか、奇愛ちゃんに尊敬したくなる……」
リカは奇愛を見る目がちょっと変わった。
「毒殺されそうになったのはお前じゃないから、そんなことを言える……」
イズルは頭痛を感じた。
あんなの尊敬したらどうする……
「……そういえば、お前はどう思う?」
幼馴染という言葉が引っかかって、イズルは話題を変えた。
「付き合うなら、やはり幼馴染のほうがいい?」
確かに、あのマサルというのは、リカの幼馴染のようだ。
「いいえ、別に幼馴染じゃなくても……」
イズルは少しばかり嬉しいと思ったら、リカの口調は真剣になった。
「ただ」
「ただ?」
「好きという気持ちは順番がないけど、競い合いは公平でやるべきと思う。あなたには気持ちを伝える自由がある。でも、奇愛ちゃんも気持ちを伝える権力がある。奇愛ちゃんの気持ちが伝わらないうちに先走るような行動は、臆病者、卑怯者のやり方よ」
「何を、言ってるんだ……?」
話がかみ合っていないとイズルは気づいた。
「奇愛の好きな人は軌跡で、軌跡が尊敬する兄はあなたのことでしょ?」
「それはそうだけど?」
「前も言ったでしょ。兄を尊敬することと、奇愛と付き合うことは矛盾しない。奇愛はあなたを毒殺しなければならない理由があるというのなら――恋の仇でしょう。軌跡はあんな鈍感だから、原因はあなたのほうにあると思う」
イズルはやっと思い出した。
復帰パーティーの夜にリカが語った理論によると、彼と軌跡の間に、男に興味を持つ人が存在する。
「残念なこと、オレは男に興味がない」
文字をかみ砕けるような重さで、イズル言い返した。
「軌跡だけが特別、ってこと?」
リカは困惑そうな表情で聞き返したら、イズルは降参した。
リカの頭の固さを考えるなら、軌道変更はもう無理かも。
「……」
イズルは無言に向きを変えて、無気力にテーブルから缶ジュースを取った。
「そんなに落ち込むの?」
後ろからリカの申し訳なさそうな声が届いた。
「……」
イズルは無言に飲みかける瞬間――
「冗談のつもりだけど……」
プッ!
むせた。
「ッ……コッ、ホン、ッコン……」
ティッシュで口元拭いて、イズルはリカに振り返って、文句を訴えた。
「その真顔で言う冗談は、本当に笑えないから……どうしても言うなら、予告してくれない?」
リカはイズルの渋い顔をしばらく見つめたら、「ぷっ」と小さな笑いを噴き出した。
「!」
「ふっ……すみません、前の、あなたの表情は面白いから、つい……」
リカは手で口と鼻を遮って、笑い押さえたけど、目がもう三日月の形になっている。
「……」
イズルは言葉を失った。
冗談のネタにされてちょっと困るけど、なぜか怒れない。
痒い何かが胸の中で騒いでいる。
リカはそのような笑顔を自分に見せるのなら、ネタにされてもいいと納得しそうになる。
「どうしたの?怒っている?すみません、もう言わないから……」
イズルがぼうっとすると、リカはちょっと罪悪感があって、手を彼の目の前で何回も振った。
イズルはぎゅっとリカの手を掴んだ。
「……話があるから、ついてきて!」
イズルは速やかに身を翻して、リカを船の外に連れ出した。
その笑顔を見ていると、顔と耳元の温度が高まる。
もうじきに赤くなるだろう。
まだ、そんな姿をリカに見せたくない。
イズルはリカを遊船の隣に止まっている電気ボートに連れた。
イズルはボートを発動し、波が静かな小さな港湾まで走った。
ここはキャンプ場とかなりの距離があり、人の声が遠い。明かりも抑え目で、海のほうを眺めれば星がよく見える。
イズルは半分の勾玉を出した。
「オレの半分は解析のために青野翼に渡した。これはお前がくれた半分だ」
「返さなくていい。私が持っていてもどうしようもないから」
リカは受け取らなかった。
「……それは、オレを信用しているって意味?それとも、お前はもうすぐ異世界に行くから、オレのことはもうどうでもいいって意味?」
「……多分、両方」
リカは少し考えて、正直に答えた。
最初から契約などでイズルを脅かすつもりはない。
イズルが万代家に入って、協力も承諾した以上、その勾玉を持つ意味はもうない。
それに、イズルは行動で証明した。彼は自分のことをパートナーとして認めている。
約束もきっと守ってくれる。
あっちの世界に行ったら、イズルとはもう会えないだろう。
なら、その前に勾玉を彼に返すべきだ。
でも、彼に「もうどうでもいい」のような言い方にされたら、少し寂さを感じる。
少なくとも、どこに行っても、イズルの安全を祈っている。
「これ、やはりお前が持つんだ」
イズルは勾玉を掌において、リカに差し出した。
「その中にあるのは、万代家に入るための表向きの言葉。オレたちの万代家での表向きの関係を決めるものだ。オレにとってあまり価値がない――
その代わりに、オレの本当の言葉を聞いてほしい」
光不足で、イズルの表情がよく見えないけど、口調と雰囲気から彼の真剣さが伝わってくる。
リカは何も言わずに、ただまっすぐにイズルを見つめていて、言葉を待っていた。
「オレの名は、渡海イズル。神農グループのCEOだ。神農グループは表社会で建築と製薬の商売をしているが、裏社会では違法武器の開発と製造をやっている。万代家のとある事件に巻き込まれて、オレの家族は全員殺害された。復讐のために、オレは、万代家のライバル・『新世界』という組織と手を組んだ。万代家に入ったのも、復讐のためだ」
「だけど――復讐のために手段を選ばない卑怯者や殺人鬼になるつもりはない。オレは無実な人、同じ被害者の人に決して手を出さない。必ず、家族を殺害した真犯人を見つけ出す。そのため、あなたの力がほしい。万代家での立場で、あなたはそんなことができないかもしれないが……」
最も重要なところまできて、イズルは一度呼吸をした。
「もし、こんなオレを信じてくれるなら、万代以外のところで、オレと新しい関係を作ってほしい。万代家の継承人とその部下ではなく、ただの友達……いいえ、パートナーとして、オレの力になってほしい。オレもパートナーとして、あなたの力になる。何があってもあなたを裏切らない。約束する」
「……」
イズルは自分の心臓の鼓動を数えて、リカの返事を待っていつ。
無理やりな要求だと分かっている。
リカは自分のことをどのくらい信じてくれるのも分からない。
でも、リカなら、それを受けてくれるような気がする。
しばらくして、リカは静かにイズルに手を伸ばした。
勾玉を覆って、そのままイズルの手を軽く握った。
「初めまして、リカといいます」
長い遠回りをして、二人はやっと知り合いになった。
【名演技篇】おわり
【復讐劇篇】へつづく