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第40話  傾く盤面


 名前:葦原環あしはらたまき

 レベル:29

 魔力:1995

 固有能力:『銃王無尽ジ・オールヘヴィーショット

 保有スキル:銃撃【改】Lv.6、魔弾Lv.9、破壊貫通付与Lv.5、自動照準、身体強化

 称号:アーリープレイヤー、銃撃手



「……やっぱり、このステータスじゃいまいち踏ん切りに欠けるね」


 僕は改めて表示された自身のステータスを見ながら、そう独りごちる。

 が、僕のパートナーは律儀にその独り言に否定で返してくれた。


『いやいや、十分強いでしょ? 多分、ていうか絶対、ここら近辺じゃたまきがトッププレイヤーだと思うけど』

「そう単純なものじゃないよ。例え僕がプレイヤーの中でトップだったとしても、今重要なのは目の前に立ちはだかっている敵との戦力差だろ」


 実際、自分でもトントン拍子でレベルアップができている実感はある。

 が、それは僕自身が強いからという訳ではなく、単に固有能力と管理者Xからの『プレゼント』に恵まれたからに過ぎない。


「ちなみにだけど、キミはどうして僕がこんなに効率的にレベリングをできていると思っているのかな」

『そんなの、ウチが優秀なユニーク武器だからに決まってるでしょう? 現にたまきはずぅーっとスナイパーモードでしかモンスターを倒してないわけだし。この際だから言っとくけど、ウチはこの扱いは微妙に納得いってないんだからね? 「変型モード」というウチの真価を腐らせてるってことを環はもっと自覚すべき!』

「それは悪かったね。キミが優秀な固有能力だっていうのは分かってるし、実際キミの力を借りてここまで成長できたっていうのは否定しないさ。だけど、僕がそこまで危険なくこうサクサクとレベル上げができたのは、ひとえに僕のの賜物だと思っているんだよね」


 スコープから目を離さず、巨人の動向を注視しながら告げた僕の言葉に、スナイパーライフルは呆れたような声色で反応した。


『はあ? 何よそれ。いきなりペラペラと語りだしたかと思ったら恥ずかしげもなく自画自賛?』

「そう聞こえているなら少し気恥ずかしさも芽生えてくるというものだけど、僕としては紛れもない事実を言っているだけだよ」


《新世界》に招待されてからまだ数時間しか経過していない。

 だけど自分が通っていた学校内で管理者Xと遭遇した後、僕はいち早く校舎を出て街に飛び出した。

 そして近辺でもっとも高い建造物に登り、この十五階建てマンションの屋上を占拠。

 後は簡単で、固有能力として与えられたこのスキルを駆使して遠距離から街中に蔓延るモンスターを一発一発確実に仕留めていく。

 最初はスライムやゴブリンから始め、途中からはオークやゴーレムなどのより強力なモンスターを狩り続けていた。

 そのせいでこの街にはきっとスライムくらいしか徘徊していない随分と平和な街並みになっていることだろう。

 それは最初から街にスライムしか解き放たれていなかった訳ではなく、どのプレイヤーよりも先に僕が街にいる強そうなモンスターを狩り尽くしたからに他ならない。

 先行者利益という多大なる恩恵を全て享受した甲斐もあって、爆速でレベリングに成功。

 今ではレベル二十九と、ほぼレベル三十に到達しようかというほどにまで成長している。

 が、これは僕が無鉄砲に街中の目についた強そうなモンスターを片っ端から狙撃していったからではない。


「キミは僕の行動を一番近くで見てただろ? 僕は今の自分でも勝てそうなモンスターから潰していくタイプなんだよ。だから一撃で仕留めきれない可能性がありそうなモンスターに関しては、発見しても一旦スルーしたりしてたじゃないか」

『へぇ~、そうなんだ?』

「そうだよ! だからモンスターを倒すには『順番』ってのが大事なんだ。自分の目の前にいるモンスターは、果たして今ここで手を出すべき相手なのかどうか、っていうね。これを見誤ると、大失態に繋がる。それこそ、自分の命を粗末にする結果になりかねない」


 僕のモットーは、勝ち戦しか手を出さない、だ。


 この勝ちと負けを見分ける嗅覚がどれほど鋭敏に育てられるかが、《新世界》を攻略するにあたって必要不可欠な能力であると僕は確信している。

 そしてこの理屈に照らし合わせた時、現状はまだ静観を決めておくべき状態だ。

 少なくとも僕が攻勢に転じるとすれば、それを行うだけの勝機がほしい。


 誰かしらがでも見せてくれれば、僕も行動を起こす踏ん切りがつくっていうもんなんだけど……そう都合の良い展開は起こらないか。


「……ん? あれは――」


 ――と、諦めかけていた瞬間。


 住宅街を凄まじい速度で駆け抜ける、謎の人物を捉えた。

 直後、スコープ内に映る深紅の巨人が、突如として苦悶の色を滲ませた絶叫を上げる。


 明確に、盤面が動いた瞬間を僕の嗅覚は嗅ぎ分けた。





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