俺、
眼前で繰り広げられる銃撃。
それも一発や二発ではなく、一分間に何百発と銃声を轟かせる連続的な射撃音。
降り注ぐ銃弾の雨は、レッドトロールをじわじわと苦しめていた。
「ガッ、ググァ……! ガガグガァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
レッドトロールは体から噴出させる炎の勢いをさらに強める。
行動から察するに、どうやらこいつには北沢のような防御系の魔法は持っていないらしい。
その代わりとして炎魔法に優れた適正を有しており、お得意の炎を体から、あるいは手のひらから撒き散らすことによって攻撃を防いでいる。
巨人の豪腕は俺ではない、一人のプレイヤーに向いていた。
俺とレッドトロールとの戦闘に割り込んできた、謎の男のプレイヤー。
俺はそのプレイヤーの戦闘スタイルに圧倒されながら、傍らから戦いを眺めることしかできなかった。
「あいつ……てっきり遠距離専門のスナイパータイプのプレイヤーかと思っていたんだが、こんな接近型の戦闘もできんのかよ」
プレイヤーはガトリングガンを使い、息つく暇もないほどの銃撃でレッドトロールを押していた。
このまま勝負が決まるかと思ったが、エリアボスの名は伊達ではないらしい。
「グッッ……ガァァアアアアアアアアアアアアア!!!」
レッドトロールは噴出した炎をさらに猛らせ、自らを火だるまにして対抗。
飛び散る火花や火の粉が辺り一帯に吹きすさぶ。
「ぐっ……! マズいな……このままだとマジで住宅街が火の海になっちまうぞ!」
幸い今はレッドトロールが足を失っているため、移動ができない。
相手の行動を封じているからこそ、プレイヤー側が優勢なのだ。
しかし、今の炎の展開でレッドトロールの全身が炎に包まれてしまった。
それは勿論、奴の足首も例外ではない。
今はまだ俺が断裂させたアキレス腱のダメージが残っているが、その傷が回復されたらかなりヤバイ。
こんな火だるま状態で自由に動かれたらどれほどの被害が及ぶが分かったもんじゃないからな。
とはいえ、炎に飲まれてしまった以上、接近してダメージを与えることができなくなってしまった。
あまりの熱風で至近距離まで近づけないし、仮に近付けたところで炎が燃え移って焼死体になるのが関の山だ。
つまり、現時点をもって俺たちプレイヤー側の攻撃手段は、中距離か遠距離タイプのものだけに限定されてしまったということだ。
「対して俺の武器はこの双剣……超接近型の攻撃スタイルなんだよなぁ。はてさて、どうしたもんか……」
目の前で繰り広げられるプレイヤーとレッドトロールの攻防を眺めながら、独りごちる。
そこで、俺は一つの違和感を覚えた。
「アイツ……もしかして攻めあぐねてるのか?」
ガトリングガンをぶっ放しているプレイヤー。
しかしその派手さの割にレッドトロールへの致命傷にあと一歩のところで届かない。
このまま拮抗した戦況が続けば、いずれレッドトロールの足の傷が完全に回復してしまう。
そうなれば、ジ・エンドだ。
「クッソ……! このまま傍観してるだけじゃいられねぇ! 俺がどうにかしないと……何かないか。この状況を打破する方法は!?」
俺は焦燥感に背中を押されながら思考を巡らせる。
徐々に熱量を上げていく巨人の炎。
戦争を彷彿とさせる恐ろしげな銃撃音。
それら外的脅威を一身に浴びながら極限まで集中力を研ぎ澄ませ――――
「――ハッ! そうだ! この方法ならもしかしたら……!!」
俺は一つ、妙案に辿り着いた。