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第50話  集結


 巨人の反撃を何とか切り抜け、避難に成功。

 屋上から飛び下りて人生初のスカイダイビングに踏み切るハメになってしまったけど、何とか助かった。

 これも全ては僕の固有能力と、レベル上げのおかげだろう。

銃王無尽ジ・オールヘヴィーショット』の能力を授けてくれた管理者Xと現在進行形で僕と一心同体である相棒の銃に感謝だ。

 だけど、もうこんなギリギリの逃避行はゴメンだな。


「やっぱりまだ巨人に手を出すのはちょっと早計だったかな……。まあ、今さら言っても仕方ないんだけど」


 マンションを回り、一般道に出て車線を走り抜ける。

 目標は例の巨人だ。

 まだ暴れまわっているのか、戦闘の音が響き渡る。


『それでたまき、これからどうするのよ』

「そうだな。どこか高い建物でもあればもう一回スナイパー戦略で仕切り直しするってこともあるんだけど……」


 軽く周囲を見渡す。

 ちらほらとマンションやアパートのようなものはあるけど、さっきまで僕たちがいたようなマンションほど高くない。

 というか、思い返せばすでに答えは出ているだろう。

 僕が最初にあのマンションの屋上を拠点に選んだのは、ここら近辺で最も高い建造物だったからだ。

 つまり、絶好の狙撃ポイントを手放した今、あれほどスナイパーに好条件の場所は近辺には存在しない。


「……こうなったら僕も多少腹を括った方がいいか」


 覚悟を決めるように重く静かに独りごちる。


 僕の固有能力はスナイパーに特化したものではない。

 変形式の銃は、僕がイメージ可能なあらゆる銃火器に構造を変えることができる。

 つまり、僕の行動次第ではあるが、より高火力の銃撃戦を敢行することもできるのだ。

 だが、当然ながらあの巨人に接近すればするほど死のリスクが高まってしまう。

 この《新世界》において『死』は全く他人事ではない。

 実際、僕はスコープ越しにモンスターに殺されるプレイヤーも何人か見かけた。

 人間も死ぬとモンスターと同じモザイク状の死亡エフェクトが発生し、それが妙に生々しい感情を呼び起こさせる。


『腹を括るって、もしかして突撃するの?』

「そうだね。あのプレイヤーも戦ってるなら、多少はリスクヘッジになるだろうし……もうスナイパーとして立ち振る舞うのは微妙だな」

『またお得意の直感ってやつ?』

「まあね。ここは賭けるべきだろう」


 ジャキン! と銃を携え、モードを変更した。

 今使った『魔弾』はあまり連発ができない。

 それゆえ、これまでずっと使ってきて手に馴染んでいるライフル型に変形させる。

 ただ、これから巨人に突っ込もうとしているので、遠距離型ではなく中距離型のライフルの形状にしておいた。


「それじゃあ、このまま一気に突っ切るぞ!」


 僕は身体強化スキルを発動させ、車道を猛スピードで駆け抜けていく。

 ところどころ横転した車などが散見されるものの、比較的障害物が少ない一本道であるため速度を上げても問題ない。

 そうしてあっという間に車道を突き抜けると、住宅街に侵入。

 適当な所で跳躍し、家の屋根に着地。

 その後は家々の屋根を踏み抜きながら巨人に向けて疾駆する。

 律儀に地上を走るよりも家の上を駆け抜けた方が直線で移動できるから大幅なショートカットになる。

 その調子で移動していると、ぐんぐん巨人の横っ腹が近づいてくる。


「……っ! あれは!」


 不意に人影が見えた。

 同時、戦闘音と人の声のようなものがかすかに聞こえる。

 そのまま忍者のように気配を消して家の屋根を俊敏に移動していると、やがて『彼』が見えた。

 マンションの屋上からスコープ越しに眺めていた少年だ。

 百メートルくらいの距離を開け、巨人と真っ正面から戦闘を繰り広げている。


「どいてろ! プレイヤーA!!」


 ニヤリと笑いながら叫ぶ。

 少年が僕の存在に気付いたと同時、僕はライフルを構えて再び巨人目掛けて引き金を引いた。




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