まさかこんな大変身を遂げているとは思ってもいなくて思わず芹の手を取ると、芹は相変わらずの無表情でこちらを見下ろしてきた。
「随分長い間部屋など持たなかったが、彩葉がそこまで喜ぶのなら創って良かった。思う存分くつろぐと良い」
「はい!」
私は早速囲炉裏の側に座ると狐達がお茶を持ってやってきた。
「おう、帰ってたのか。お前が提案したんだろ? この部屋」
「なかなか情緒のある部屋ですね。昔を思い出しますよ」
「先輩方! すみません、お茶の準備をさせてしまって」
「たまには良いさ。で、それ何だ?」
テンコは私と芹の前にお茶を置いて(芹はいつの間にか隣に居た!)私が持ち帰った紙袋を指さした。
「あ! 忘れるとこでした! これ、米さんから貰ったんです」
そう言って紙袋から取り出したのはさつまいもだ。知り合いから分けてもらったが、量が多すぎてどうしようか困っていたらしい。
「これは! テンコ! 濡れた新聞紙とアルミホイルを!」
「おお!」
「え? なに? なんですか?」
私が右往左往していると、芹が徐ろに囲炉裏に刺さっていた火かきで囲炉裏の灰を掘り始めた。そこへ狐達が戻って来てその穴に次から次へとさつまいもを放り込んで行く。
「昔はこうやって囲炉裏で芋や魚、野菜と何でも焼いていた。私は小鳥遊がそうやっているのを見ていただけだが、今回は食べる事が出来るのだな」
どこか嬉しげに言いながら芹は芋を丁寧に埋めていく。そんな様子を私は新鮮な気持ちで見ていた。
ここへ来た時、私は何も考えずにすぐさま電化製品を持ち込んだけれど、今思えばそれは完全に私のワガママだったのだ。
「そうだったんですね。私なんてついつい面倒で電化製品に頼っちゃいますが、こうやって料理をするのも良いのかもしれません」
何でも出来る囲炉裏に感動しながら言うと、途端に芹と狐達が早口で話し始めた。
「いや、それはおすすめ出来ない。便利になると言う事はそれに不便があったという事だ」
「そうだぞ、彩葉。囲炉裏で料理なんかするもんじゃない。これはたまに、こうやって使うから良いんだぞ」
「全くです。全部の料理を囲炉裏で作ってなどいたら馬鹿みたいに時間がかかりますよ。その点、電化製品はボタン一つですからね! 素晴らしい発明だと思います」
「そんな……最初はあんなに反対してたのに……」
電化製品を持ち込んで最初の一週間ぐらいは散々ぶちぶちと言われたものだが。そんな事を思い出していると、狐達はおかしそうに肩を揺らした。
「やっぱり常に温められるのは良いぞ。電子レンジって言うんだけど」
「ウチはシャワーですね。春先や夏前になってもノミがつきません!」
「私は最初から冷凍庫に感動している」
「皆さん立派に現代に馴染んでいますね」
呆れつつ芹の白くて綺麗な指先が灰をならしているのを見つめていると、何だか眠くなってきてしまった。
芹原神社に居る時はこんな風に眠くなったりしないのに、暖かいからか安心するのか、思わず私は小さな欠伸を噛み殺す。
「眠いのか?」
「ん……少し……だけ……」
木の香りと畳の匂い、それから時どき火が弾ける音に意識がだんだん遠くなる。そんな私の頭を芹の手がそっと支えて、自分の身体に凭れかけさせてくれた。
「すみません……芹様……」
「ああ。私が火の番をしていよう。たまにはゆっくりと休め」
「……はい」
それだけ言って私はそのまま意識を手放した。