確かに芹の態度にたまにヤキモチか? と思うこともあるが、芹はいかんせん自分の感情が分からない。だからお気に入りのおもちゃを取り上げられて癇癪を起こしているだけという可能性もある。
そんな私の言葉にシンは呆れ果てたようにため息を落とした。
「……こっちはこっちで滅茶苦茶鈍いじゃん……どうなんの、これ」
「シン様、そういう事はいつか時が来れば自ずと気付くものです。老婆心で手を出してはいけまんよ」
「まぁそうなんだけどさ、焦れったいなぁ」
「若い者の特権です。私達は見守りましょう。さあ、夜も更けて参りました。そろそろお休みのお時間ですよ」
そう言って梅華は器用にお皿をまとめて去っていった。手伝いをしたいと言っても梅華は絶対に手伝わせてくれないのだ。やはりどれほど打ち解けたと思っていても、私はよそ者なのかもしれない。
私がしょんぼりしていると、そんな私にシンが言う。
「違うからね? 梅華が君に手伝わせないのは、洗い物とかする姿を見せたくないからだから」
「そうなんですか?」
「うん。梅華は人の姿を誰かに見られるのが嫌なんだ」
「そうなんですか!?」
「そうだよ。絶世の美少女なんだけどね、人と少し違う。そのせいで嫌な目に沢山遭ってる。だから僕が貰い受けた」
そう言って微笑んだシンの顔はとても美しかった。その顔を見て何となく思う。シンの想い人は梅華なんじゃないか、と。
「そうだったんですね。いつかその傷が癒えて人型の梅華さんが見られるといいな」
「はは! そうだね。でも梅華の仮の姿はあの蛇の方なんだよ。人の姿が本体だ。彼女は君と同じように人として生きて若くして亡くなった女の子なんだよ」
「ええっ!?」
「この話は誰にも内緒だからね。僕達だけの秘密って事にしておいてくれる?」
「は、はい。もちろんです」
イタズラに笑ったシンの横顔はどこか切なげだ。やはりシンは梅華が好きなのだ。シンの事をずっとチャラチャラしていると思っていたが、実は本命には物凄く奥手なのかもしれないと思うとおかしい。
「土地神様、少しだけ土地神様の好感度がアップしました! 梅華さんと上手くいくよう祈ってますね」
からかうように言うと、シンは少しだけ目の下を赤くした。
「それはどうも。人の事は分かるのにどうして自分の事にはそんな鈍いんだろうねぇ、君は」
照れ隠しのようにそんな事を言うシンに寝る前の挨拶をして部屋に戻る。
「明日はビャッコ先輩チョイスの日か……絶対にホラー選んでくるよね……」
持ってきたカレンダーには毎週末の映画当番のマークが書き込まれていた。それを指でなぞってふと芹の当番の所で手を止める。
「そう言えば芹様は最近恋愛映画ばっかり見てるな」
最初の頃はそれこそ色んな映画を指定していたが、最近の芹のチョイスは毎回恋愛ものだ。この間もタイタニックを見て「人の命は儚いものだ……」などと嘆いていた。
「何でなんだろ。明日聞いてみよ」
何となくその理由が気になりつつ、私は用意されたフカフカの布団に潜り込んだのだった。
翌日、私が芹原を出たと連絡すると、芹からすぐさま返信がある。
内容は「迎えに行きたいが、狐達に邪魔をされて本殿から出られない」との事だったので、私は商店街でおやつを買って神社に戻る事にした。
一週間ぶりの参道の坂を登りきると、鳥居を境目に何だか薄い膜のような物が見える。これは芹の結界だ。
それをくぐると本殿からすぐさま芹が音もなく現れた。
「おかえり、彩葉」
「はい、ただいまです。これ、今日のおやつに」
「何だ、また買い物をしてきたのか! 1人でか? 誰かと一緒に居たのか?」
「優子さんと途中まで一緒でしたし、その後は拓海さんと会って車で参道の下まで送ってくれたんです」
大量のタクシー事件の後から、村の皆が私を気遣ってくれていた。そのおかげで今は1人で外を歩くことがほぼ無い状態だ。
それを聞いて芹は安心したように頷く。
「そうか。さあ、入れ。きっと驚く」
芹はそう言って身体をズラすと本殿の中を顎でしゃくりあげた。そんな芹を見て疑問に思いながらも本殿に入るなり、思わず息を呑む。
「こ、これは……古民家!」
「ああ。お前の希望通り和風にした。どうだ?」
部屋の真ん中には囲炉裏があり、上を見上げるとそこは煤で真っ黒だ。大きな木の梁が天井に渡してあり、部屋の一角には畳の小部屋までついている。
「凄いです! 芹様、凄いですね!」
古民家などテレビの中でしか見たことも無いが、私がイメージする古民家とこの部屋はぴったりだ。囲炉裏のおかげか部屋の中はじんわりと暖かく、どこからともなく漂う木の匂いが心を落ち着かせる。