そんな私達を見てシンが突然立ち上がって机を叩いた。その顔ははっきりと怒っている。
「一体なんなの!?」
「土地神様、紅茶冷めますよ」
「そうです。今日はシン様のお気に入りですよ」
「土地神、食べないのなら私が貰おう」
「誰も食べないとか言ってない!」
まぁシンの怒りは分かるが、私はもう何となく芹の事が分かってきた。この神様は本当に天然なのだ。マイペースだし狐達と同じぐらいワガママだ。
けれどそんな芹が私は好きだ。芹は私の事を裏表が無いと言うが、芹こそ裏表が無い。素直で純粋で、凄く愛しい。
「まぁまぁ落ち着いてください、土地神様。芹様が傍若無人なのは今に始まった事じゃないじゃないですか」
「何て言い草だ、彩葉」
「だって本当の事です。でも私はそんな芹様が良いです」
「そうか。ならいい」
「僕は嫌だけどね、こんな面倒臭い男。それでも何故か人気なんだよなぁ」
「そうなんですか?」
「そうだよ。まぁ前も言ったけど若いってだけでモテるんだけどさ、その中でも芹は人気だよ。たぶん滅多に顔出さないって言うのもあるんじゃないの。ほら、一見冷たく見えるでしょ? この人。そういう所が女心をくすぐるのかなって」
シンの言葉に私が真顔で頷くと、シンも深く頷く。
「それに力も強くて美人だからさ、やっぱり人気なんだよ」
「は~……確かに芹様は綺麗ですもんねぇ。流石人外」
「容姿を褒められるのは好きではないが、彩葉の好みなのであれば良しとしよう」
満足げにケーキを食べる芹に思わず苦笑いしていると、シンが指を鳴らした。
そのとたん部屋がまたマフィアのボスの部屋になる。
「凄いですね!」
「まぁね。一応神様だからね。芹もいい加減創ればいいのに」
「彩葉が戻ったら創るつもりだ。彩葉、どんな部屋が好みか書き出したか?」
「あ、いえ。まだです。でも常子さんちみたいな洋風の家なんかは憧れます! 猫足のバスタブとかレースのカーテンとか、ロココ調の家具とか天蓋付きのお姫様みたいなベッドとか! まぁ、そこに居る自分は全然想像出来ないんですけど」
想像して笑った私とは違って隣で芹は真剣な顔をして口元に手を当てて頷いている。そんな芹を見てシンがぽつりと言った。
「彩葉、早く訂正しておかないと本当にそんな部屋創るよ、こいつ」
「えっ!? せ、芹様! 早まらないでください! 嘘です! 囲炉裏とか畳とか扇風機とかがある和風のおうちが良いです!」
「そうか? 分かった。考慮しよう」
イメージがしやすいのか、芹はそれだけ言ってまたケーキを食べ始めた。そんな芹を見てホッと胸を撫で下ろす。
と、そこへまた入口から大きな音がして今度は狐達が転がり込んできた。
「やっぱりここに居た! 何してるんですか!」
「彩葉に会いたいからと言ってスマホを放りだして家出をするのは止めてくださいとあれほど言ったではありませんか! これで何度目ですか!」
芹が自らここまでやって来たのは今日が初めてだが、どうやらちょくちょく芹は神社を抜け出していたようだ。きっと今まではここに辿り着くまでにこの二人に阻止されていたのだろう。
「ていうか、君たちまで僕の部屋を壊すのに躊躇わないんだね……」
また本殿を壊された事でシンが悲しそうに呟くが、それどころではない。
「芹様? また何も言わずに出てきたんですか?」
「ああ。どうせ私が行く場所など知れている。さて、そろそろ帰るとしよう。彩葉、明日は映画の日だ。こちらに戻って来るんだぞ」
「あ、はい。おやすみなさい」
立ち上がった芹に言うと、芹は少しだけ微笑んで頷き私の頬をそっと撫でて狐達と共に出ていく。まるで嵐のようだった。
シンは無言でまたパチンと指を鳴らすと、ドサリとソファに腰掛けて大きなため息を落とす。
「彩葉さ、悪いことは言わないからあの馬鹿力は止めときな。鬼籍に入ったら他の良い奴紹介してあげるよ」
「えっと?」
「いや、流石に気付いてるでしょ? あいつ彩葉の事好きすぎじゃない?」
「それは私が小鳥遊と似てるからかと……。それに力を私が分けているので、きっと良くてお世話係ですよ」
芹ははっきりと言っていた。小鳥遊への思いは親心だったと。そしてその後に私は違うとも言っていたが、それはあくまでも力を与えたり食事を作る存在だという意味だ。