バス停にはいつもシンが迎えに来てくれていて、ここで狐達とはお別れだ。毎日会っているのに、この瞬間だけはいつも泣きそうになってしまう。
「それじゃあ先輩たち、また明日」
「おう、また明日な!」
「これはちゃんと芹様に渡しておきます!」
「お願いしますね? 全部食べちゃ駄目ですからね!?」
何度も何度も念を押すと、狐達は疑わしい笑顔を浮かべて一目散に芹山神社に戻って行った。
「今日も学校お疲れ様。荷物持つよ」
「い、いいですよ! あ、これ土地神様に。学校の近くで話題のロールケーキです。美味しいらしいですよ!」
「へぇ! ありがとう。彩葉はいっつもお土産くれるね」
「お世話になってますから。って言っても、そんな高価な物じゃなくて申し訳ないんですけど」
苦笑いを浮かべるとシンは首を振る。
「僕達は物そのものよりもその心が何よりも力になるんだって事を、彩葉はもう知ってるでしょ? だからありがとう」
「そ、それはそうなんですけど」
真っ直ぐな目でそんな事を言われると照れてしまうではないか。
それから夕飯の支度をしてシンの神使にお使いをお願いすると、いつも快く引き受けてくれる。ちなみにあの蛇だ。名前は梅華というらしい。
「今日もありがとうございました。一緒にお茶しましょう、梅華さん」
全ての用事を終えて梅華に頭を下げると、梅華は目を細めて頷く。
「私の分もあるのですか?」
「もちろんです! ロールケーキ、食べた事ありますか?」
「無いですねぇ。ハイカラなお菓子ですね」
興味津々でロールケーキを切り分けるのを覗き込んでいる梅華を見てシンが笑った。
「梅華、良かったね。刺激が無いってボヤいてたもんね」
「シ、シン様! それは秘密でございます!」
慌てて身体をくねらせる梅華を見てシンと笑っていると、芹からの着信音が鳴る。
私は急いでケーキを切り分けて電話を取ると、画面一杯に芹が映し出された。
「芹様! 今日は早いですね」
『ああ。先ほどお前がくれた土産を食べた所だ。お前は?』
「私は今からですよ! ほら!」
そう言ってカメラをロールケーキに向けると、既にシンと梅華がケーキを自分たちの皿に取り分けている所だ。
「お、美味しいですねぇ、シン様!」
「本当だね。うわ、ふっわふわだな! あ、芹。お前もう食べたんだって? クリームが最高だね、これ」
「喜んでもらえて良かったです。ん? 芹様?」
満面の笑みでケーキを食べるシンと梅華を見て思わず微笑みつつスマホを見たが、何故かそこに芹が居ない。
と、次の瞬間。本殿のドアが物凄い音を立てた。驚いてそちらを見ると、角を出した芹が無表情でズカズカと上がり込んでくる。
それと同時に本殿の結界が壊れたのか、本殿にはソファと机だけがポツンと残されていた。
「せ、芹様?」
「……お前、嘘でしょ」
「ひぃぃぃ!」
梅華は怯えたようにその場から逃げ出したが、ちゃっかりケーキのお皿は持って行った。
「もう我慢の限界だ。彩葉を連れて帰る」
「はあ!?」
「いや、ちょ、芹様?」
一体何を言ってるのだ! まだ誕生日まで二週間近くあるのだが!?
そんな私の困惑とは裏腹に、芹も芹で何かと葛藤しているようで、私の腕を掴んで珍しく声を荒らげた。
「このイライラは何なのだ! どうして土地神が彩葉とケーキを食べる? 私は彩葉と電話をする事しか出来ないと言うのに!」
「いやそれはさ、仕方ないよね? 何回もあの日朝まで説明したでしょ?」
「そうだな。だがこんな生活を送るつもりだとは聞いていない」
「えぇ?」
芹の言葉にシンは引きつり、私は戸惑っていた。これではまるで芹がヤキモチを妬いているようではないか。
「め、面倒な男だな。それじゃあ何? 彩葉を閉じ込めて彩葉が暗い顔してたら満足なの?」
「馬鹿言うな。そんな事をしたら本殿どころか、この社ごと潰している」
「そんな無茶苦茶な!」
「えっと……とりあえず芹様も一緒に食べますか?」
何気なく尋ねると、芹は頷いて大人しくソファに座る。ふと見ると角も既に消えていた。
「はい、どうぞ」
「彩葉は私の隣だ」
「あ、はい」
半ば無理やり隣に座らされてケーキを一口食べると、私は頬を綻ばせた。
「お、美味しい!」
「そうか。うちのは狐達が半分以上食べてしまってな。私の分は少ししか無かったんだ」
「そうなんですか? あれほど言ったのに先輩たちは本当に食いしん坊だなぁ」
何となく容易にその姿が想像出来て笑っていると、いつの間にか梅華が戻ってきていておかわりをしている。