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第117話『理解出来ない気もち』

 バス停にはいつもシンが迎えに来てくれていて、ここで狐達とはお別れだ。毎日会っているのに、この瞬間だけはいつも泣きそうになってしまう。


「それじゃあ先輩たち、また明日」

「おう、また明日な!」

「これはちゃんと芹様に渡しておきます!」

「お願いしますね? 全部食べちゃ駄目ですからね!?」


 何度も何度も念を押すと、狐達は疑わしい笑顔を浮かべて一目散に芹山神社に戻って行った。


「今日も学校お疲れ様。荷物持つよ」

「い、いいですよ! あ、これ土地神様に。学校の近くで話題のロールケーキです。美味しいらしいですよ!」

「へぇ! ありがとう。彩葉はいっつもお土産くれるね」

「お世話になってますから。って言っても、そんな高価な物じゃなくて申し訳ないんですけど」


 苦笑いを浮かべるとシンは首を振る。


「僕達は物そのものよりもその心が何よりも力になるんだって事を、彩葉はもう知ってるでしょ? だからありがとう」

「そ、それはそうなんですけど」


 真っ直ぐな目でそんな事を言われると照れてしまうではないか。


 それから夕飯の支度をしてシンの神使にお使いをお願いすると、いつも快く引き受けてくれる。ちなみにあの蛇だ。名前は梅華というらしい。


「今日もありがとうございました。一緒にお茶しましょう、梅華さん」


 全ての用事を終えて梅華に頭を下げると、梅華は目を細めて頷く。


「私の分もあるのですか?」

「もちろんです! ロールケーキ、食べた事ありますか?」

「無いですねぇ。ハイカラなお菓子ですね」


 興味津々でロールケーキを切り分けるのを覗き込んでいる梅華を見てシンが笑った。


「梅華、良かったね。刺激が無いってボヤいてたもんね」

「シ、シン様! それは秘密でございます!」


 慌てて身体をくねらせる梅華を見てシンと笑っていると、芹からの着信音が鳴る。


 私は急いでケーキを切り分けて電話を取ると、画面一杯に芹が映し出された。


「芹様! 今日は早いですね」

『ああ。先ほどお前がくれた土産を食べた所だ。お前は?』

「私は今からですよ! ほら!」


 そう言ってカメラをロールケーキに向けると、既にシンと梅華がケーキを自分たちの皿に取り分けている所だ。


「お、美味しいですねぇ、シン様!」

「本当だね。うわ、ふっわふわだな! あ、芹。お前もう食べたんだって? クリームが最高だね、これ」

「喜んでもらえて良かったです。ん? 芹様?」


 満面の笑みでケーキを食べるシンと梅華を見て思わず微笑みつつスマホを見たが、何故かそこに芹が居ない。


 と、次の瞬間。本殿のドアが物凄い音を立てた。驚いてそちらを見ると、角を出した芹が無表情でズカズカと上がり込んでくる。


 それと同時に本殿の結界が壊れたのか、本殿にはソファと机だけがポツンと残されていた。


「せ、芹様?」

「……お前、嘘でしょ」

「ひぃぃぃ!」


 梅華は怯えたようにその場から逃げ出したが、ちゃっかりケーキのお皿は持って行った。


「もう我慢の限界だ。彩葉を連れて帰る」

「はあ!?」

「いや、ちょ、芹様?」


 一体何を言ってるのだ! まだ誕生日まで二週間近くあるのだが!? 


 そんな私の困惑とは裏腹に、芹も芹で何かと葛藤しているようで、私の腕を掴んで珍しく声を荒らげた。


「このイライラは何なのだ! どうして土地神が彩葉とケーキを食べる? 私は彩葉と電話をする事しか出来ないと言うのに!」

「いやそれはさ、仕方ないよね? 何回もあの日朝まで説明したでしょ?」

「そうだな。だがこんな生活を送るつもりだとは聞いていない」

「えぇ?」


 芹の言葉にシンは引きつり、私は戸惑っていた。これではまるで芹がヤキモチを妬いているようではないか。


「め、面倒な男だな。それじゃあ何? 彩葉を閉じ込めて彩葉が暗い顔してたら満足なの?」

「馬鹿言うな。そんな事をしたら本殿どころか、この社ごと潰している」

「そんな無茶苦茶な!」

「えっと……とりあえず芹様も一緒に食べますか?」


 何気なく尋ねると、芹は頷いて大人しくソファに座る。ふと見ると角も既に消えていた。


「はい、どうぞ」

「彩葉は私の隣だ」

「あ、はい」


 半ば無理やり隣に座らされてケーキを一口食べると、私は頬を綻ばせた。


「お、美味しい!」

「そうか。うちのは狐達が半分以上食べてしまってな。私の分は少ししか無かったんだ」

「そうなんですか? あれほど言ったのに先輩たちは本当に食いしん坊だなぁ」


 何となく容易にその姿が想像出来て笑っていると、いつの間にか梅華が戻ってきていておかわりをしている。

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