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第116話『平穏な日々』

 ゴクリと息を呑んだ私を見て芹とシンの顔が険しくなる。


「何と言う事を……土地神、他には何か分からなかったのか?」

「あちらも無防備にここへやって来たりはしないよ。僕が分かったのはそれぐらいだ。伽椰子自身にもう力が無いから僕の結界にも引っかからない」

「で、でも神堕ち様達は引っかかるんじゃ?」

「それが一応はあれでも神だからさ。これ以上強くしたら芹もここに居られなくなっちゃうんだよ」


 何と言う事だ。それでは神堕ちは入りたい放題という事になってしまうではないか。


「完全に同化する前に伽椰子から神堕ちを剥がさないと」

「そうだな。同化したらそれこそ伽椰子はもう二度と戻れない」

「わ、私にも何か出来る事ありますか!?」


 伽椰子と仲良くする事は出来なかったが、別に伽椰子が嫌いだった訳ではない。何よりも伽椰子は私に芹への気持ちを気付かせてくれた人だ。


 隠しておかなければならないと思う反面、この気持ち自体は大切にしたい。


「彩葉には何も無いよ。あったとしても、それはさせない。下手をしたら君が取り込まれてしまう」

「そうだ。どこかで伽椰子を見かけても絶対に近寄るな。いいな?」


 何かしたいと思う反面、神の二人には強く反対されてしまって思わず黙り込むと、そんな私の頭を芹が撫でる。


「必ず助ける。だからお前は動かないでくれ」

「……はい」

「そんな顔をするな、彩葉。お前に何かあってもお前は私に堕ちるなと言うが、それは約束出来ない。私はお前の事に関しては本当に些細な事で腹を立ててしまうのだから」

「それはそうだよ、芹。自覚してるのならもう少し自制してくれるかな?」

「私にもどうすれば良いのか分からないんだ。この気持ちの根源が、この気持ちが何かが分からない。だから制御のしようがない」


 それを聞いてシンが呆れたような顔をして芹を見て言う。


「困ったものだね。彩葉、これから大変だと思うけど、芹を頼むよ」

「え!? は、はい。頑張ります」


 とはいえ、芹の気持ちなど私にも分からないのだが!? そう思いつつどうにか頷くと、シンはまた真顔になる。


「明日からもう少し結界を強くする。芹、少し苦しいと思うけど我慢してくれ」

「分かった。私は芹山に結界を張っておく。本当は張りたくはないが、仕方ないな」


 二人はその後も夜遅くまで話し合っていたようだが、私は明日の学校の事を考えてその日は先に就寝した。


 翌日いつものように鳥居を出ると、そこには狐達がソワソワした様子で待っている。


「おはようございます、先輩達!」

「おはよう、彩葉。で、何もされてないか?」


 半眼で私を睨みつけてくるテンコに頷くと、ビャッコがテンコの後ろから顔を覗かせてこちらを見上げてくる。


「本当ですか? 土地神は若い神の中でも有名なふしだらな神ですからね。信用出来ません」

「大丈夫ですよ! あ、ほらバス来ましたよ!」


 バスがやって来たのが見えて私が前方を指差すと、二人は仲良く狐のキーホルダーに化けて私の鞄にしがみつく。最近はずっとこのスタイルなのだ。


 バスの中ではさっきからしきりにビャッコがシンのネガキャンをしてくるが、私は窓の外の芹山を眺めながら微笑んでいた。


「聞いていますか!? いろ――何笑ってるんです?」

「あ、いえ。芹山が綺麗だなって思って。もう春なんですね」


 一部がピンク色に染まった芹山は今花盛りだ。そして私もとうとう高校3年生になった。


 私の言葉を聞いて狐達は突然キーホルダーから人型(周りからは見えないように)に戻り、窓の外を眺めて私と同じように笑う。


「こうやって外から芹様を眺める事が無いから気付かなかったが、これは良いな」

「全くですね。これは山全体に桜を植えるべきでは!?」

「そんな事したら紅葉が見られなくなっちゃいますよ?」


 思わず呟いた私に狐達も納得したように頷いた。


 昨夜は伽椰子が村にやってきたようだと聞いてどうしようかと思っていたが、今日もこんなに平和だ。


 私は鞄の中から飴を取り出してそれを狐達に配ると、三人で駅に着くまで芹山を見ていた。


 学校に到着すると狐達はすっかり慣れた様子で保健室に向かって駆けていく。どうやらあの二人は二条がお気に入りのようだ。理由は簡単だ。歴史オタクの二条に歴史の話をしてやると、毎回お礼だと言ってお菓子を貰えるらしい。


 二人は気が向いたら教室にひょっこりと現れて、私が注意出来ないのを良い事に授業に勝手に参加しては盛り上がっている。


 昼休みは自分達のお弁当を持ってまた二条の所に戻り、放課後また戻って来て一緒に帰る。


 今日は新しく出来たケーキ屋で話題のロールケーキを芹へのお土産にと手渡すと、二人はそれはもう嬉しそうにしていた。

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