身の回りのゴタゴタに振り回されて大変なはずなのに、不思議とこういう時こそ皆の笑顔が力になる。
「いっぱい食べてくださいね! あ、今日もちゃんと多めに作ってるんで、持って帰ってください」
「助かるのよ~もう、本当に! やっぱりずっと居て?」
「私もめっちゃ助かるっす。一食浮くのマジでかいっす」
「こらこら、あなた達。シン様も芹様も仰っていたでしょう?」
優子が笑いながら皆を嗜めると、皆はあからさまにしょんぼりしてくれた。
「そうなのよね……一ヶ月だけか……あとシン様めっちゃイケメンでしたね」
「私は芹様派っすね~。昔から長髪に弱いんすよ~!『推しにめっちゃ似てた。あれはヤバい』」
「わ、私はその、お二人がどうこうなってくれないかしらって思ってしまった……『ごめんなさい、ごめんなさい!』」
「あなた達ねぇ。そんな目で神様を見ないの! 罰が当たっても知らないわよ?」
「大丈夫ですよ。きっと今の話を聞いて笑ってらっしゃると思いますから」
そう言ってこっそり肉じゃがのおかわりをしに来ていたシンを見ると、シンは案の定、苦笑いしながら肩を揺らしている。
すっかり芹原神社に馴染んで巫女修行も板についてきた頃、初めて芹が尋ねてきた。
私は突然鳥居の所に現れた芹を見て思わず顔を輝かせたが、芹は私を一瞥するなりフイとそっぽを向いて無言で本殿に向かっていく。
誰がどこで見ているか分からないので親しくしてはいけないと分かっていてもそんな芹の態度に酷く傷ついてしまう。
けれど、芹は本殿に入る前にちらりとこちらを振り返って小さく手招きをしてきた。
そして本殿に入るなり、強く手を引かれて気づけば私は芹の腕の中に居る。
「せ、芹様?」
「少し縮んだんじゃないか、彩葉」
「え!? ち、縮む!?」
背が!? そう思って芹を見上げると、芹は何とも言えない顔をしてこちらを見下ろしている。悲しそう、辛そう、苦しそう。そんな表現がピッタリの表情だ。
「はい、そこまで。何なの、急に来たと思ったら人の神域に入るなりいちゃつくの止めてくれる?」
「呼んだのはそちらだ。彩葉が少し縮んでいる。まさか彩葉を酷使しているのではないだろうな?」
「縮んでるって言うか、痩せたって事? そりゃこの広い境内を毎日それはもう丁寧に掃除してくれてるからね。おかげでどこもピカピカだよ。あと呼び出したてから五分ぐらいしか経ってないんだけど」
「土地神を待たせる訳にはいかないからな。それで、何の用だ?」
「よく言うよ。普段は呼びつけたって来ないじゃないか。昨日、時宮の人間が村に入ろうとした。誰だと思う?」
そう言ってシンはソファを指差すので私は芹の手を引いてソファに座らせると、すぐさまお茶の準備を始める。
そんな私の行動を見て芹が眉をピクリと動かした。
「やけに慣れているな、彩葉」
「え? あ、はい。実は皆さんが社務所に簡易の私の部屋を作ってくれたんですけど、寒いのと不用心だって事で土地神様がここに私のお部屋を作ってくださったんです。ほら、あそこ」
指さした先にはピンク色のドアがある。あの先が私の部屋なのだ。それを聞いて芹の頭に角が現れた。何故!
「聞いていないが」
「え、すみません。別に私が寝てる所なんて興味もないかと思って」
「他に黙っている事は?」
「え? 他ですか? 他は特に――」
芹に問い詰められて思わず考え込む私を見てシンが手を叩いた。
「そういうのは話が終わってからやって! それで、誰だと思う?」
「知らん。それよりも今は彩葉だ」
わざわざソファから立ち上がってじりじりとこちらに寄ってくる芹が怖くて思わず後ずさると、業を煮やしたかのようにシンが怒鳴る。
「伽椰子だよ!」
「え!?」
「なに?」
シンの言葉に私達は顔を見合わせてソファに座ると、シンはやれやれと言わんばかりにため息を落とした。
「昨日、夜遅くに結界に伽椰子が引っかかった。僕は今、村全体に結界を張って出入りしている力を持った人間を全て見てるけど、伽椰子ともう一人、若い女だ」
「若い女……百合子か?」
「誰それ」
「伽椰子の姉だ。岐阜で巫女をしているそうだ」
「じゃ、そいつかな。二人は村を一周してすぐに出て行ったけど、百合子の方はたぶん僕の結界に気付いてた」
「そうか……やはり時宮の力は強いな。神堕ちは憑いていなかったのか?」
「居なかった。けどあの禍々しさは人間のものじゃないよ。神堕ちを隠して持っていたか、どちらかが取り込んだかのどちらかだ」
「と、取り込んだ!?」
怖いことを言うシンに思わず私が驚くと、芹とシンが同時に頷いた。
「シャーマンはその身体に神を降ろす事が出来る。だけどそれを御するのは難しいよ。今ではほとんどのシャーマンがそんな危険な事はしない」
「そんなに危険なんですか?」
「危険だ。大抵は神に身体を乗っ取られる。だから神を降ろされるのは使い捨てにされた人間だ」
「……」
「多分、伽椰子が降ろされてる」
「そんな……どうして……」
力が無くなったから? だからそんな事をされた?