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第7話:仕込みじかけのオレンジ

 ポン・カーン。

 全身を橙色に染め上げた重厚感溢れるマシンでした。

 何よりも特徴的なのは顔の顎部、縦に長いのが特徴的です。

 往年のプロレスラーを意識したデザインなのでしょうか?


「このポン・カーンの力を見せてあげるよォォォオオオん!」


 シラヌヒ・ストアが所持するBU-ROADバトル用マシン。

 提携する健康機器など各社に協力を仰ぎ製造したとのことです。


「君を潰れたオーレンジのようにしてあげるからねェェェん!」


 清巳さん――いえ、マスク・ド・シラヌヒはサイドチェストを披露します。


「アイム・スーパーオレンジ!」


 その動きに合わせ、ポン・カーンも同様のポージングを行いました。


 ギュインッ!


 オレンジ色の目がキラリと光り、気合十分といった感じ。

 スポーツ実況系VTuberミリアが試合を盛り上げます。


『おおっと! サイドチェストだ! 来るなら来いといわんばかりだぞッ!』


 手元の資料によると、シラヌヒ・ストアのデビュー戦はセイント石油が相手。

 契約ファイターは鍬刈徹くわかりとおる、キックボクサー。打撃の操縦技術が高い選手です。

 序盤は鍬刈操る『サジタリウス』が押していましたが、蹴りを繰り出したところを背後に回られ、逆転のスープレックスにより勝利。

 つまり、組まれる前に勝負を決めておかなければなりません。


「エラく余裕だね」

「さっさと来いバカ」

「――遠慮なく!」


 ガギィッ!

 烈風猛竜ルドラプターが、ポン・カーンの顔面を打ちます。


『イイのが入ったァーーッ! ちょっと余裕を見せ過ぎだぞッ!』


 ミリアの実況がドームに響きます。

 烈風猛竜ルドラプターの鉄拳がクリーンヒットしますが――。


「ヌヒヒッ! パンチは効かないよん」


 ポン・カーンは倒れません。


「秘密はコレ!」


 長い顎部を指差します。


「こうやってね! 頭部と肩部のパーツを密着して固定すれば倒れ――」

「どっかで聞いたセリフだね」


 ドッ!


『戦闘中に無駄話をし過ぎだーっ!』


 マスク・ド・シラヌヒが解説している間に、烈風猛竜ルドラプターが追撃します。

 押し蹴りにより、ポン・カーンは後方へ吹き飛ばされます。


「ハードコアスタイルだね。容赦がない」

「容赦がないのが闘いだろ?」

「ボクはプロレスラーだ。華ある試合を演出し、お客さんを喜ばせるプロなんだよねェェェん!」


 トットッ、


 ポン・カーンはリズミカルなステップを刻み、旋回します。

 それも独特の動き、両腕を回してのステップです。


「タイガーステップゥ!」


――オオオオオオオオオオッ!


『な、なんだこの動きは!?』


 観客席からはどよめき半分、笑い半分です。


「何だ、あの動き!」

「ワシは知っとるぞ! あれはサトル! サトルの動きじゃあ!」

「検索したんだけどさ、昔のプロレスラーの動きだって」

「動画見るとマジじゃん! 完コピで受けるんですけど!」


 まるで、モノマネ芸人のようなフザけた行動を繰り返します。


「ふざけてんのか?」


 この道化た動きをするポン・カーンにセコンドの社長は唖然としていました。

 一方のシュハリ、モニター越しで見る目は真剣そのものです。

 そして、構えはデビュー戦で見せた形を作ります。


「ほほう、カンフーみたいな構えだねェ」

(マスク・ド・シラヌヒ――コメディ色の強い試合とルチャリブレの要素取り入れた『くいだおれプロレス』の出身。そこの看板選手だったが、あることをきっかけに退団した)

「そっちがそうなら! こっちは修斗だァ!」

(セメント――気に入らない先輩にガチを仕掛けちまった。退団後はオレンジプロレスを旗揚げ、だが経営は芳しくなく並行してシラヌヒ・ストアを設立。そちらの方が大きくなるが――)


 ポン・カーンはローリングソバットを放ちます。

 ローリングソバットとは、回転ジャンプし足底で相手の顎や鳩尾みぞおちを蹴る技です。

 烈風猛竜ルドラプターは横に捌き回避し――。


『顔面をキャッチッ!』


 飛び蹴りの勢いを利用、そのまま頭部から地面へと叩きつけました。


『固い地面に叩きつけた!』


 流れるような動きでした。まるで演武を見ているかのようです。

 観客席の粟橋さんと加納さんは大喜びです。


「ウッシ! 機体部へかなりのダメージを与えたはずだ!」

「マウントをとってフルボッコっス!」


 他の観客達はポン・カーンへと野次を飛ばします。


「自爆じゃん!」

「操縦者がインディーズ団体のプロレスラーだろ?」

「本業は通信販売会社の人だしな。デビュー戦はまぐれだったな」

「起きろよ八百長野郎!」


――BOOOOOOOOOO!


 数人の野次に乗じてブーイング起きます。


「八百長、八百長と……心ないヤツらだ」

「ん?」

「とはいえお客さんには変わりない。ここから逆転――」


 ガギッ!


「ここからがプロレスなんだよオオオん!」

『う、腕を取った!』


 ポン・カーンは烈風猛竜ルドラプターの腕を極め、引き倒しました。

 腕挫腋固フジワラ・アームバーの体勢へと持っていきます。


『グ、グラウンド戦へともっていった!』

「このまま腕を破壊しちゃうからねェェェん! 名付けてッ!」


――オレンジキャンディ・バー!


 ガシャッ、


 と金属がひしゃげる音が響きました。

 社長は顔面蒼白となります。


「ル、烈風猛竜ルドラプターの腕が!?」


 烈風猛竜ルドラプターの右腕がもぎとられたのです。

 右肩部は放電を伴い、バチバチと火花が散っています。


『果実を収穫するように右腕をもぎとったァ!』


――オオオオオオオオオオッ!


 ミリアの実況と共に歓声が起こります。

 ポン・カーンを操縦するマスク・ド・シラヌヒは恍惚こうこつとした表情でした。


「ヌヒッ! いい音声歓声だ、みんなも喜んでる」

(こいつ、デビュー2戦目だったな。ビギナーにしては巧すぎる、それにマシンのパワーも高い)


 腕を取られた烈風猛竜ルドラプターはすぐに立ち上がります。

 その姿をマスク・ド・シラヌヒは見てニンマリとしています。


「これで、なんとかマンモーとかいう機能ギミックは使えないよねェ♡」


 対するシュハリ、半身に構えながら言いました。


「出力、操縦技術、心理戦――道化てるが一級品だ。本当に提携企業の協力だけでマシンを作ったのか? 操縦技術をどこで学んだ? 誰かの力を借りていないか?」

「意味不明のクエスチョンなんだよね! これはボクのプロレス殺法を応用したものなんだよねェェェエエエん!」


 タックルを仕掛けるポン・カーンですが、


「全てがギミックといいたいのさ!」


 烈風猛竜ルドラプター飛び膝蹴りカウンターが入ります。

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