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第8話:ストロングスタイル

『真空飛び膝蹴りだッ!』


 ミリアの実況がサムライドームに響きます。

 古い時代のキックボクサーを思わせる見事な飛び膝蹴り。

 ポン・カーンは受けた衝撃で、2,3歩後退しますが踏み止まります。


「実況さんよ、ネタが古すぎるぜ」


 おどけた口調はなくなっていました。

 演技はなくなり素になる、ということは相当なダメージだったのでしょう。


「タフなマシンだ」


 操作ルームに映るシュハリは半身の姿勢。

 それに合わせ烈風猛竜ルドラプターも同じ姿勢となります。


(偽りが上手い)


 シュハリは目を細めました。

 目は口程に物を言う――何かの本で読んだことがあります。

 目を細めるという行為は、不快を現すと。


「片腕は大きなハンデだよねェェェッ!」

(言葉使いも……)


 真正面から突っ込むポン・カーン、当然ながら烈風猛竜ルドラプターは拳技を打ち込みます。


『ローキック! ジャブ! ミドル! エルボー!』

「ヌヒヒヒッ! 肉を切らせて骨を断つんだよオオオん!」


 ガシッ!


(戦法も……)


 打たれながらも、ポン・カーンはガッシリと掴みます。

 烈風猛竜ルドラプターの両脇に自らの両腕を差し込んでいます。

 あの体勢、あれはプロレスでいう――。


(マシンの性能も……)


 フロント・スープレックス!


「これがボクのフェイバリット・ホールドォォォオオオッ!」


――いよかんスープレックス!


(偽りという箱の中に――強さを忍ばしている!)


☆★☆


「お客さんはこれだけか?」

「商店街とかに営業かけたんですがねェ」


 今日も試合は閑古鳥だった。

 若気の至りで所属団体を退団――勢いでオレンジプロレスを旗揚げしたけど客はまばらだ。

 そんな中でも来たお客さんには楽しんでもらう。俺達は人々に心のビタミンCを与えたい。


「全力でやるぞ! お客さんには楽しんで帰ってもらう!」


 プロレスを通じて、平凡な人生の中にも『生きる楽しみ』があるってことに気付いて欲しい。

 あの偉大なプロレスラーも言ってただろ? 元気があればなんとかってな。

 そのためにも、プロレスを通して元気を与えたい。でも現実は――。


「タダ券だから見に来たけどよ。つまんねェのな」

「やっぱ見るなら、総合とかボクシングだよな」

「全部八百長なんでしょ?」


 客の声が心を刺す。


「シャイ! シャイ! いくぞオラッ!」


 盛り上げようとするが。


「同じ見るなら、やっぱライジングプロレスよね」

「あそこの選手カッコいいし!」

「そうそう! この間さ――」


 虚しさばかりが残った。

 俺達は、他のプロレス団体に負けないほどの試合を見せているつもりだ。

 それに大手には出来ない地域に根差した活動をしている。

 商店街のイベントにも参加したし、老人ホームや児童養護施設にも訪問もした――がさっぱりだ。


「今なら! この紫雲電機のスチームトースターが1万9800円! 1万9800円だよオオオん! 買うなら今しかないよねェェェエエエん!」


 プロレスだけでは喰えないのが現状、だから俺はシラヌヒ・ストアを作った。

 最初は自主製作のネット動画から始まったが、今では俺のキャラと話術が受けて販売する商品は注文が殺到。

 こうして、テレビショッピング事業が出来るほど大きくなった。


「お疲れ様でした!」


 会社はデカくなった。

 でも虚しい……本当にこれでいいのか?

 もっとオレンジプロレスを広めたい――プロレスラーの強さをアピールしたい。


「あの社長……」

「何だよプロデューサー」

「お会いしたいという方が」


 番組終了後、美人さんが俺を訪ねてきた。


「アスマエレクトニックの飛鳥馬と申します」


 名刺を見ると、アスマエレクトニックのお偉いさんだ。

 飛鳥馬小夜子――開発部の技術主任とのことだ。

 それに苗字から察するに飛鳥馬一族。

 VIP級の偉いさんが何故俺のところに?


「何のようだい」

「紫雲電機と取引をしているんですって?」

「そうだが」

「それ、やめて下さらない」


 早々にブッ飛んだことを言いやがった。

 紫雲電機は出来たばかりのベンチャーだろ? 何があったか知らんが取引をやめろときた。

 俺は簡単に「YES」と返事するわけにもいかない。会社の信用問題になるからだ。

 我が社が扱う商品は中小企業やベンチャー企業の商品が多いからな。

 「大手の圧力で販売取引を停止しました」なんて知られれば、各企業は俺らに不信感を持つ。

 そのことは向こうも解っているようだ。飛鳥馬のねーちゃんは営業スマイルを浮かべた。


「というのは冗談。シラヌヒ・ストアには協力をお願いしたいの」

「協力?」

「BU-ROADバトルに参戦して下さらない。報酬も出すし、マシンも作ってあげる。それから特殊な操縦技術が必要だから専用のトレーニングも……もちろん、教えるのは優しくて美しい女性教官」

「急にそんなこと……」

「プロレスの強さを見せつけたくない?」


 決定的な一言だった。


「おう!」


 俺はこのビッグウェーブに乗った。

 何が目的かは知らん。だがオレンジプロレスの宣伝出来るのならば。

 プロレスの強さを見せられるのならばッ!


☆★☆


「ダッシャアアア!」

『超パワー! これがプロレスの強さストロングスタイルかッ!』


 烈風猛竜ルドラプターを反り投げるポン・カーン。


――オオオオオオオオオオッ!


 歓声が地鳴りとなって響き渡ります。

 あの体勢から解くのは不可能。

 このまま、シュハリは負けてしまうのでしょうか?


「このBU-ROADバトルは機械格闘――マシンの構造に隙がある」

「えっ!?」


 しんと静まりました。私達はその光景を見て沈黙してしまったのです。

 地面に叩きつけられていたのは烈風猛竜ルドラプターのはずでしたが――。


『ポ、ポン・カーンの頭が破壊されている!?』


 地面に叩きつけられていたのはポン・カーン、頭部は空き缶のようにひしゃげています。

 BU-ROADバトルのルール上、頭部を破壊されればKO負けです。


『スローVTRで確認しましょう!』


 ビジョンにはスロー映像が流れます。


『こ、これは!』


 烈風猛竜ルドラプターは左手でポン・カーンの長い顎を掴んでいました。

 そこを支点に手で押し付け、垂直方向に叩きつけたのです。


○ BU-ROADバトル


契約ファイター:シュハリ スタイル:???

BU-ROADネーム:烈風猛竜ルドラプター スポンサー企業:紫雲電機


VS


契約ファイター:マスク・ド・シラヌヒ(本名・清巳凡至) スタイル:プロレスリング

BU-ROADネーム:ポン・カーン スポンサー企業:シラヌヒ・ストア


勝者:『シュハリ』

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