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クレメンテ殿下にお伝えを(side:フィレンツォ)





 やはり、ダンテ様は無自覚故にたちが悪い。

 そう思いました。


「……ダンテさ――……ダンテ殿下、クレメンテ殿下何をなさっているので?」

 夕食の支度を済ませてダンテ様を呼びにいった時、ダンテ様にクレメンテ殿下が抱きついておりました。

「クレメンテが起きた途端抱き着いてきたので私は何もしてませんよ?」

「……寝ぼけて抱き着いたようです、すみません……抱き心地が良くて……」

 これは嘘ですね。

「フィレンツォ、私は今から食事制限するべきでしょうか?」

 真顔になって尋ねられたので、これは嘘ではないでしょう。

「ご安心ください、ダンテ殿下。ダンテ殿下は健康的ですので食事制限をする必要はありませんから。運動量も極度に増やす必要もありません」

「本当ですか?」

 私の言葉を信じられないようだ、ならば確認するのみです。

「……すみません、少しおさわりして宜しいでしょうか?」

「構わないですよ」

「では」


 触れると、艶やかな肌は少しばかりざらめいておりました。

 目の下もよく見るとクマができておりました。


「……ダンテ殿下」

「ど、どうしたのですフィレンツォ……」

「残りの講義は三つ、休日まで三日、ですので一日一つの講義で終わらせて下さい。ダンテ殿下の肌が、荒れていらっしゃいます」

「へ?」

「申し訳ございません、クレメンテ殿下」

 私はそう言ってダンテ様とクレメンテ殿下を離すと、ダンテ殿下の腕を掴んで部屋へとお連れしました。


 部屋で二人きりになり、ダンテ様に座っていただき、顔を両手で包むように触りました。

「何で我慢してるんですか?!?!」

「え、えー?! フィレンツォ、私は特に我慢してないぞ?!」

「ダンテ様は、我慢をするとすぐ体調に現れますからね!! しかもダンテ様自身は無自覚ですからたちが悪いのです!!」

 ダンテ様はいろんな意味でたちが悪い!

「他の方の前だから肌が荒れているで済ませましたが、かなり体調崩しておりますよ?! 今のままだとおそらく「完全な休日」になった途端に噴き出て倒れるのが目に見えている程です!!」


「ダンテ様、もう少し御身を大事にしてください」

「いや、大事にはしてる……つもり、なんだけど、なぁ……」

「念のため、お体に負担をかけず、栄養価のある食事を作っておいて正解でした。ダンテ様は無理をなさらないように」

「ああ、うん」

「ただでさえ貴方様は――……」

 私はある言葉を言いかけたが、何とか思いとどまった。。

「フィレンツォ?」

「いえ、何でもございません。ともかく、無理をなさらないように!」

「わ、わかった……そう、するよ……」

「……此処は城ではないのです、ですから執事である私を今は頼ってください。ダンテ様は無理をなさるんですから……」

「……ごめん、フィレンツォ……」

 謝るダンテ様。

 どうか、無理をなさらないで欲しいのです。


「少しお休みを……」

「分かった……そうする」



 私はクレメンテ殿下の元へと戻りました。

 クレメンテ殿下は少し不服そうな顔をしていましたが、この御方にも言わなければなりません。



 クレメンテ殿下。

 アウトゥンノ王国の第二王子。

 けれども、王子として扱われなかった悲しい御方。



「クレメンテ殿下、少しお時間宜しいでしょうか」

「……構わないですが、何でしょうか」

「ダンテ殿下の事です」

 私の言葉に、クレメンテ殿下は目の色を変えます。

「そして貴方様の事です、クレメンテ殿下」

「……私の?」

 クレメンテ殿下のお言葉に私は頷きます。

「クレメンテ殿下、貴方様はダンテ殿下を好いて──いえ愛していらっしゃるのですね?」

「!!」

 クレメンテ殿下は明らかに焦りを目に宿しております。

 必死に平静を保とうとしているけれども、それがわかります。

「ご安心ください、私は貴方様の愛を否定するわけではないのです」

「……では何故?」

「私はダンテ様の事をお伝えしたいのです」

 伝えなければ、ダンテ殿下の事で色々と不味い事が起きる。

「ダンテ殿下は無自覚に好意を持っている方に善意を向けます、つまりあれは本人はアプローチのつもりでやっていません。クレメンテ殿下が大切だからこそ本心を述べています」

「つまり……どういう……」

「ダンテ殿下は無自覚で好意を抱いた方に対しては甘くなってしまう。エリア様やクレメンテ殿下が現在その対象です」

「……エリアも、か」

「はい」

 クレメンテ殿下は納得したようにおっしゃられました。

「クレメンテ殿下、もう一つお伝えしなければならないことが」

「一体何でしょうか?」

「ダンテ様は無茶する癖があります、分かりますでしょう?」

「……はい」

「ダンテ様の兄君のおかげで少しだけよくなりましたが、まだ大部分良くなっておりません」

「私や、エリアの事が負担で──」

「いいえ。ですがそういうこともあり、ダンテ殿下には──」


「複数の伴侶が必要との見解が私どもで出ています」


 その言葉にクレメンテ殿下は戸惑っているようでした。

 それもそのはずでしょう。


「クレメンテ殿下、貴方には申し訳ないですが、貴方だけではダンテ殿下を制御できないのです」


 私の言葉に、クレメンテ殿下はしばし悩んでいたようでしたが、顔を上げて口にしました。


「わかりました、ダンテ殿下が複数伴侶を持つことになっても私は受け入れましょう」

「ありがとうございます」


 割り切ることができるようになったクレメンテ殿下はお強い方だと思いました。







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