遅めの夕食を取り、軽く入浴を済ませて、歯を磨いて寝間着に着替えてベッドに横になる。
やはり疲れがたまっているのか、すぐに眠気がやってきた。
毛布にくるまり、心地よい眠気に誘われるように私は瞼を閉じた。
『相変わらず大変だな』
「軽く言わんでくださいませんか?」
私は神様に盛大に息を吐く。
眠ったことでここにきているので、私の状態は安定する。
起きている時にここに来ると若干不安定になるのだ。
「――それにしても18年ダンテとして生きてきて、色々思ったのは。前世知識で無双できるってのはよほどの設定か主人公の知識がないと無理ですよねこれ。本当すげー」
『話を不自然にそらしてるあたりが現実逃避してる証拠だな』
「ぐ」
色々ありすぎて正直今は現実逃避をしたかっただけど神様はさせてくれないようだ。
『それにしてもお前の悪い体質や癖は中々治らんな』
「善処はしてるんです、でも前世で20年以上、こちらでも18年近く続いているんですよ、治せたら奇跡ですよ本当」
『お前のそれは精神的な「病」でありながら、もう己の質として定着しているから薬でもどうにもならなかったのだしな』
「そうそう、エドガルドに飲ませた薬、効くかなーと思って飲んだけど私には効果無し」
『重症にもほどがある』
呆れられても仕方ないだろう。
集団圧力がこっちよりも酷かったし、自分を守る環境とかも言いたくないけどこっちよりも少ないんだよ。
こっちの方が後々の責任重大なのは見えてるのはどうしようもないんだけども。
「これについては助言してくれるつもりはないんでしょう?」
『そういうわけではない。ただ、私が助言する前にお前に対処する者が今傍にいるだろう?』
「……フィレンツォ?」
自信なさげにたずねると神様は頷いた。
『その通りだ、ただまぁフィレンツォはお前のその体質は自分一人ではどうにもならないと感じてはいる、だから限界を見て即座に対応している』
「……」
我慢して、無理して、安心できると一気にその分がやってきて寝込む。
前世の子ども時代はそれで休日よく熱を出して寝込んだ。
体ができてきても、休日に体調を崩してしまうことが多かった。
イベントがある時とかは持つけれども、その次の週とかに酷く体調を崩して寝込むどころですんだらいい方だった時もある。
社会人の時は、翌日が休日だと家に帰って鍵をかけた直後に倒れて眠る事だって頻繁にあった。
前世の頃の体質が今も続いているのが恨めしい。
『もうお前にしみついてしまっているからな、生まれ変わりでリセット、というので簡単に治ってくれるものではなかった』
「治って欲しかった」
神様の言葉に私はため息をついてしまう。
「これに関しては、助言してくれるわけではないんですよね」
『助言するのも手なのだが、お前の場合は助言しない方が好都合なのだ』
「はい?」
神様の言葉に耳を疑う。
何となくだけども、神様は私の微妙な箇所、もしくはどうしようもない事に関して助言することはない。
積極的にこうすれば治るとか絶対言わない。
――意味が分からない、好都合ってどういう事?――
『まぁ、いつものだ。お前は深く考えるな』
「はぁ……いつもの」
色んな意味で憂鬱になる。
茨道を選ぶ選択をしたのは確かに私なのだが、何か私の知らぬところで色々と動いているのは頭痛の元になる。
それが私の今後に直結するからなおさらだ。
今後に関わる事なのに「お前は深く知ろうとする必要はない」と言われているのだ。
――何なんだよ、本当にもう――
不満はいくらでもある。
けれどもそれはとある「地点」に到達するまで我慢が必要だし、受け入れるしかないのも何となくわかる。
だが、何故私は「分からないまま、そのまま」なのかが分からない。
周囲を変える必要があるのは分かるのに。
――ああ、もう――
――
――前世よりは遥かにマシとは言え、それでもきつい――
――私人として生きるのに向いてないというか「社会」に向いてない?――
『特定のコミュニティでは生きれる奴が何をぬかすか』
「だから思考読まないでくださいー!!」
思考なんて筒抜けなのはもう分かり切ってることだけど、どうしても言いたくなる。
『心配性の癖に何処か抜けてる、かと思ったら鋭い』
「貶してるんですか、褒めてるんですか?」
『両方だ』
「むがー!!」
鋭いの所はともかく、心配性で抜けているというのがどうしても否定できない。
事実だから。
『さて、では現状把握、基確認の時間だ』
神様に言われて私は思い返す。
「えっと、現在母国で何かエドガルドがやっている、予定では来年こっちに来る可能性あり」
『その通り』
「エリアの件は一応要望を国王様に出して対応待ち。クレメンテの件はまぁこっちではやることやるけど、クレメンテ優先で。クレメンテの兄貴の味方はせんと」
『よしよし』
「でアルバートとカルミネは接触しただけ、そっから私の方からはまだ無し……なんかフィレンツォが警戒してる」
『まぁ、おおむねそれであっている』
神様の言葉に私は息を吐く。
「……どうやって二人と接触する? フィレンツォは警戒中だし、私の事を案じてるからかなりピリピリしてると思うよ?」
『だが、のんびりするにはまだ早い』
「おーにー」
神様は真面目な分甘くはない。
『なので、明日少しだけ無理をして、もらうぞ?』
「はい?」
神様の言葉に私の思考を疑問符が埋め尽くした。
「……」
目を覚ますと朝だった。
時計を見れば、いつもより少しだけ――30分位遅い目覚め。
――許容範囲だなぁ――
と思いながら体を起こす。
それに合わせるように扉をノックする音が聞こえた。
聞きなれたノックする音。
「フィレンツォ? 起きているよ」
「お目覚めでしたか、入っても宜しいでしょうか?」
「いいよ」
フィレンツォが部屋に入ってくる。
「今日は無理をなさらないでください」
「分かってる、講義は一つで切り上げるから」
苦笑して答える。
「……」
フィレンツォの目は全然信用していない。
――さてどうしたものか?――
「……まぁ、気持ちは分からなくないけど、もし今回どちらかにつく必要がある講義ならエリアに付き添ってあげて欲しい。クレメンテ殿下はブリジッタさんがいるから大丈夫だけど、エリアは、ね」
「……畏まりました、くれぐれも無理をなさらぬように!」
釘をさすように言うフィレンツォに私はやはり苦笑いを浮かべるしかなかった。
本日の講義はまぁ、歴史学基礎。
最初の週は五つだけ講義がある。
なので一日一つの講義をでれば問題はない。
気楽に構えていた。
「――最初に、見せたいものがあります」
教授の言葉に何だろうと思いながら視線を向けると巨大な魔術陣が描かれた布が広げられてこちらに向けられた。
「……?!」
それを見た途端、目と頭の中が焼けるように熱くなる。
「これは術王サロモネ・インヴェルノが残した――」
今まで何もなかったその名前を聞いた途端、私は頭を抑えた。
――痛い――
――頭が焼けるように痛い、目が焼けるようだ――
「ダンテ殿下?!」
遠のく様なフィレンツォの言葉を聞きながら私は意識を暗転させた――